上 下
3 / 51

3. 噂のブスはモテモテです。

しおりを挟む
 100人斬り! と大喜びしたところで、だからこれで一区切りというわけではない。
 お見合いの申し込みは、徐々に減ってきているとはいえまだまだ絶えることはなく、とはいってもその申し込みの目的に若干の変化があったようだった。

「『噂のブスを一目見たい』と言っていたみたいだよ」

 呆れ半分悲しさ半分、といった複雑な表情でユーゴはそう言うと、白い封筒を3枚差し出してきた。
「噂のブスって……ブスがうわさになっても、見たがられて申し込みにつながるんじゃ意味ないわ!」
 クロエはまっすぐな髪をさらりと掻き上げると、短く息をついた。
「仕方がないだろう、それだけ芸術的なブスなんだ。メイクというより特殊メイクだし」
「兄さん、それはもちろん誉め言葉よね」

 ブスブス連呼されても、クロエは痛くも痒くもない。だってそれは素顔ではないし、何なら自分のメイク技術に対する称賛であると理解しているからだ。

「でも、そのブス見学目当ての輩っていうのは、お見合いしてももちろん断ってくるのよね?」
「そりゃそう、だろうなぁ。だって、一目見たいっていうくらいだから。ずっと見ていたいじゃないから」
「うんうん、直視できないブスもん」
 フィンもなぜか嬉しそうにそう言ってクロエに抱き着いてきた。

 今日は、クロエに会いに来る客はいない。だから化粧もお休み。
 連日ドーランを塗っていたら肌もあれるし、たまには休ませることも大事だ。とカーテンを開けている窓を見ると、素顔の自分が映っていた。
 最近はメイクをしている時間のほうが長いくらいで、色の白い肌、金茶のストレートヘアの姿は、逆に作り物めいて見える。

「で、その3人のうち、2人は明日来るって言っていたよ。辺境伯の息子と、アドル商会の息子」
 未婚で年頃の息子がいる辺境伯、と言えば、ノヴァック辺境伯か。息子のことはよくわからないけど、まぁどちらにしても資産が目当てだろう。アドル商会は最近業績を伸ばしてきている商人で、言ってみればライバル……規模は天と地ぐらい違うけれど。だからこっちは祖父の会社のノウハウやコネなどが必要ということか。
「ふぅん……で、残りの1人は?」
「ブスが見たいって言ってたからその場で断った」
「あは。見に来させてあげればよかったのに」
「僕は嫌なんだよ、特殊メイクしているとはいっても、可愛いクロエがブスだドブスだ言われるのは」

 それでいつもちょっと悲しい顔をしているのか、とわかっていたけれど兄をかわいく思う。

「兄さんにも素敵な人が現れるといいわね」
「クロエにいい人が見つかってからね。……じゃないと心配で」
「ねえさまは僕が守るよ」
「じゃあそのフィンをわたしが守る」
「そのねえさまを僕が」
「はいはい、もうその辺で」

 きゃっきゃしだしたふたりの頭を、ユーゴはそっと抱き寄せて笑った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】推しと婚約~しがない子爵令嬢は、推しの公爵様に溺愛される~

うり北 うりこ
恋愛
しがない子爵令嬢のファーラは、ある日突然、推しのイヴォルフ様と婚約をした。 信じられない幸福を噛みしめ、推しの過剰摂取で天に召されそうになったりしながらも、幸せな日々を過ごしていた。 しかし、王女様の婚約パーティーに行くときにある噂を思い出す。イヴォルフ様と王女様が両思いである……と。 パーティーでは、二人の親密さを目の当たりにしてしまい──。 ゆるい設定なので、頭を空っぽにして読んで頂けると助かります。 全4話になります。

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

眠りたい悪役な令嬢と殿下の恋愛攻防のあらまし。

珊瑚
恋愛
11歳、その日から不遇は始まった… 結婚の予定日を発表するはずのパーティーで、(バカな)第2王子殿下に婚約破棄を叫ばれたフローシア・ルチア・ガルディドゥーア。 「フローシア!おまえとの婚約破棄をさせてもらう!」 (眠い…早く帰って寝たい… えっ?なんですって?) 「おまえは公爵令嬢という身分を笠に来て、伯爵令嬢のリンティアをいじめていた!この罪を償え!!」 (そもそもいじめてない。しかもこのバカ、ルチアの意味を知って言っているのかしら?ああ…眠い。) どうでもいいフローシアと、バカ王子の(成り立っていない)やり取りに割って入ったのは、 「フローシア公爵令嬢、俺と結婚していただけませんか?」 「…は⁈」 とにかく眠りたい令嬢(眠いと人格が変わる)と、彼女を好きすぎる王太子殿下(ヤンデレ気味?)の攻防が始まる! ※駄文のため、ナニコレ?と思うかもしれませんが、その時はどうぞ忘れてください… ※誤字脱字を発見の場合、教えていただけると嬉しいです! 2019年5月31日 HOTランキング13位 ありがとうございます!

【完結】どうやらこの世界は乙女ゲームのようですね。ああ、そうだな。

❄️冬は つとめて
恋愛
卒業式後の舞踏会の断罪のシーンを見て思い出しましたわ。ああ、思い出したな。 この話に出てくる人物の前の話もありま『どうやらここは乙女ゲームの世界のようですわ。』と『どうやらここは乙女ゲームの世界のようだ。』で分かります。宜しかったらお読み下さい。

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...