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第五十四話 システムパンデミック

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 次の日の授業中、夜更かしからくる眠気がこの世界の重力を強め、僕の頭は机に引き寄せられていた。
 しまった。書くのが楽しくて、つい遅くまで没頭してしまった。でもそのおかげで、今日のアクセスはいつも以上に伸びているよ。
 といっても、ブログ王国キングダムのランキングはほとんど変ってないけどね。最下層だっていいじゃない、僕は楽しく書いてるよ。

 僕は画面をスクロールして上位のランキングを眺める。

 ドッグマスターあっくんが91位
 ステ娘教師が64位
 そこからずっと上ってトップ20になると、南電児、リカ姉様、クロウ・ジンの名前が出てくる。というかこの辺りは『愛玩動物(ペット)系』のブログばかりだ。

 ペット系のブログは人気が出やすい。可愛い動物の癒される仕草は、誰の目も惹くからね。その分ペットをテーマにブログを書いている人が多いから、ライバルも多いんだろうけど。
 でも、上位がペット系ブログで埋め尽くされる中、唯一のイラスト系ブログで不動の1位を保持しているのが、イラストレーション科のるり子さん。

「って、あれ?」

 ランキングの一番上、金色の王冠マークがついているブロガーの名前は、

 1位 男衾つよし

「おかしいな、るり子さんの名前が見当たらない」

 2位、3位と順位を下げていっても、るり子さんのブログが出て来ない。
 いやいや、るり子さんのブログが1位を陥落するはずがない。だって男衾つよしのアクセス数はるり子さんの半分にも満たないんだ。

 僕はブログ王国の検索システムに「るり子」と入力してみる。ブロガーの名前を入れれば、該当するワードが表示されるはずだけど、

『該当なし』

 そんなバカな。
 ランキング最下層の僕のブログだって「モモイロイツキ」と検索すれば表示されるのに、ランキングトップを独走していたるり子さんの名前が出て来ないなんておかしいよ。

 その時、アダルト科教室の扉が勢いよく開き、メイド服姿のコインちゃんが飛び込んできた。
 教卓に座っていたステ娘教師が振り向き、すけたら君たちも何が起こった? と顔を上げる。

「モモイロさん、大変です! 一緒に来てください」

「ぼ、僕?」

 コインちゃんは惚けている僕のそばに駆け寄り、腕を捕まえると目一杯に引っ張った。

「ちょっと、今は授業ちゅ……」

「いいから早く!」

 ステ娘教師がジト目で流してくるので「いや、これは不可抗力ですよ?」と言い訳目線で跳ね返し、僕は成すがままに連れ去られていく。

「イツキ、アタシも行くぞ」

 最弱ブロガーの腰巾着よろしく、変態ブロガーの修子も巫女服を揺らして駆けてくる。

「お前ら、また私の授業をサボるのか」

 教室の中からステ娘教師の声だけが追ってくるが、右手をコインちゃんに引っ張られ、左手を修子に掴まれた僕はそのままF棟の階段を転げ落ちるように下りていくのだった。
 

 
「るり子さんが、いなくなっちゃったんです」

「いなくなった?」

 コインちゃんが連れてきたのは学園記念館。どうやらここは、るり子さんとコインちゃんの秘密基地のような場所らしい。

「はい。昨日から学園にも来ていませんし、連絡も取れません。そればかりか――」

 明るい(だけ)が取り柄のコインちゃんが、慌てたようなトーンで話す。

「ブログ王国からも名前が消えているんです。検索でも見つからないのは、登録情報がまるまる消去されてしまってるんだと思います」

 で、代わりに台頭してきたのは男衾つよし。

 ランキングではるり子さんに次ぐ2位だったが、いわゆる「ぶっちぎりの2位」というやつで、るり子さんには到底及ばなかった。

「今ではイラストレーション科やインテリア科のランキング上位者が次々と順位を落とし、なぜかコンパニマル科の生徒がどんどん順位を上げています」

 それも、爆発的に。

「特に男衾さんのアクセス数の伸びが尋常じゃありません。これまでのるり子さんの数値に迫る勢いで増えているんです」

 それはつまり、膨大なリンクシステムが付いてるんだ。

「学園のリンクシステムは、ステ娘教師によって止められたままです。だからここの生徒たちはリンクシステムでアクセス数は増えていません。……一部の生徒を除いては」

 コンパニマル科の生徒、それも上位と呼ばれる者だけのアクセス数が飛躍的に増えている。

「なあ、イツキ。男衾つよしのブログ……」

 修子はノートパソコンを開いて、僕とコインちゃんに男衾つよしのブログを見せてきた。

「コイツ、もう何日も記事の更新なんてしてないぞ。それなのにアクセスカウンターが増え続けてる」

 パソコンのファンクションキー「F5」でページを再読み込みリロードする度に、男衾つよしのアクセスカウンターが動いていく。
 それも、一度に数百単位で。

 普通、トップブロガーと呼ばれる人たちは毎日のように記事を更新する。一日に複数回の更新をする場合もある。それは新着記事としてポータルサイト(ブログ王国)に掲載されるのもあるし、ブックマークをしている人に通知を飛ばすこともできるからだ。
 一つの記事にたくさんの閲覧者を集め、それが複数記事あればアクセス数が伸びるのは当然。
 しかし男衾つよしは、まったく記事を更新していないのにアクセスカウンターが増え続けている。

 修子が「F5」キーで再読み込みリロードをすると、今度はアクセス数が二千以上も加算された。

「これは……リンクシステムの爆発的感染流行パンデミックです!」

 コインちゃんは血の気が引いた顔を僕に向けた。

「リンクシステムが感染病のように爆発的に広がって、学園を汚染しているんです」

 階層制度ヒエラルキーによって組織化されたコンパニマル科、その全体にリンクシステムが組まれている。

 いや、コンパニマル科だけじゃない。
 すけたら君がコンパニマルに転科を強要されたように、他科の生徒も無理やりコンパニマル科に引き込まれ、リンクシステムが蔓延している。

 数千のアクセスを持つ生徒、数万のアクセスを持つ生徒、それらがすべて男衾つよしとリンクしているとしたら――。

 パソコンモニターに映る男衾つよしの総アクセス数が、7億を超えた。
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