上 下
11 / 78

第十一話 タイトルは『ノーパン仮面による変態ブログ』

しおりを挟む
 アダルト科の担任、ステ娘教師はすごいブロガーだった。

 どうやらこのクラスに集まった僕ら以外の三人は、ステ娘教師の授業を受けるために入学してきたらしい。上位ランカーであるステ娘教師からそのノウハウを学び、上位のアダルトブロガーを目指す三人だった。
 が、すけたら君曰く、世の中にはもっとすごいブロガーもいるらしい。

「どうせお前らは知らねーんだろうけどな。この学園にはステ娘教師よりも上のブロガーがたくさんいるんだぜ」

「もっと報酬をもらってる人ってこと?」

 僕は報酬についてはあまり興味がないけれど、上位のブロガーがどんなものなのかは興味があった。

「ああ、そうさ。有名どころでいくと、コンパニマル科の男衾おぶすまつよしってのは、ブログ王国のランキング二位でな」

 全体ランキングの二位ともなると、一日のPVが数十万単位になるらしい。そして、

「ブログ界の覇王と呼ばれるランキング一位は、るり子さんっていうんだけどよ」

 イラストレーション科三年、ハンドルネーム「るり子」。
 ポータルサイト・ブログ王国でブッチギリの一位に君臨するるり子は、一日で百万PVに達する、まさに異次元のブロガーだという。
 イラストレーション科といえば、この校舎の下階にあるクラスだ。

「レベルが違いますわよね」

「ボキュも、るり子さんのブログは毎日見ているんだな」

 イルカさんや団子騎士君も知っている。いや、ブロガーならば知らぬ者はないブログ界のトップランカーたち。そんなトップブロガーを目指して、みんな白雪学園に入学してくる。
 この時「僕は、違うんだけどね」とは言えなかった。

「ところで、お前らもこの学園に来たってことはブログの一つでもやってるんだよな? 良かったらハンドルネームとサイト名を教えてくれよ」

 すけたら君は左腕のノートパソコンを起動させると、検索エンジンを開いた。

「僕のハンドルネームはモモロイツキ。ブログはやったことがないんだけど、成り行きでここに入学しちゃったんだ」

「イツキ、ハンネが間違ってる。イツキのハンネは『モモロイツキ』だ」

 即ツッコミを入れる修子。はいはい、そうです。僕のハンネはモモロイツキです。誠に不本意ながらピンク色な名前で登録されてます。

「マジかよ!? ブログをやったことがないのにWeblog専門学校に入るとか、ずいぶんと積極的だな」

 すけたら君が驚愕の表情で僕の顔を覗き込む。このオーバーリアクションは彼のクセなのかな。

「素人がいきなりアダルトブログですの? 思い切ったことをしますわね」

 イルカさんも、僕の暴挙にはあきれ顔だった。

「実はアダルト科に入ったのも、コイツが勝手に決めちゃったことで……」

 この学園に入学したのも、アダルト科に入ったのも、僕の隣にいる変態少女のせいです。

「で、そのチビッ子は何ていうハンドルネームなんだよ」

 すけたら君の視線につられて、イルカさんと団子騎士君も修子に注目した。頭の横にキツネのお面を付けてセーラー服を着ているチグハグな少女。
 修子は「待ってました」と言わんばかりにキツネのお面を正面に被ると、

「アタシのハンネはノーパン仮面だ」

 と居丈高いたけだかに言い放ったので、

「修子、それ間違ってる」

 僕も即ツッコミを言い放った。そのハンドルネームは入学式で却下したでしょ。

「ノーパン仮面……?」

「あら、そのハンネ。どこかで聞いたような……」

 はて? と、すけたら君もイルカさんも、「ノーパン仮面」に聞き覚えがあるように天井を見上げている。

「ボキュのブログにコメントしてくるハンネなんだな」

 団子騎士君はそう言って自分のサイトを開くと、皆にコメント欄を見せてくれた。『萌エロ! まにあっくす』というブログタイトルが気色悪い文字で描かれているトップページから、過去コメントの中には「ノーパン仮面」なる変態的なハンドルネームで、読むもおぞましい変態的なコメントが書かれていた。

「思い出した! ノーパン仮面って、自分はブログを書いていないけど、他人のアダルトブログにやたらコメントしてくる有名な『コメ専』だ」

 すけたら君も自分のサイトで『ノーパン仮面』のコメントを見つけたらしく、パソコン画面を忙しくスクロールさせている。

「ワタクシのサイトにもコメントしていますわ。『もっとつゆだくなシーン希望』とか、『興奮して濡れてきた』とか――」

 修子……仮にもちょっと前まで女子高生だったのに、なんて変態的なコメントを書いてるんだ。それにしても、コインちゃんにハンドルネームを聞かれた時に躊躇いもなく「ノーパン仮面だ」って言ったのはこれだったのか。
 皆の注目を集めたノーパン仮面は、しかしゆっくりとキツネのお面を外した。そして、

「間違えた。ノーパン仮面はアタシじゃない」

 お面を顔の横側に向け直し、

「アタシは今日からエロブロガーの仮面修子かめん しゅうこだ」

 と、とぼけたようにそう言った。それから自分のパソコンで『ブログ開設ページ』を開くと、カタカタ……と片手でキーをタッチして文字を打ち込む。
 それは修子が作る、自分のブログのタイトル。そこには、

『ノーパン仮面による変態ブログ』

 と書かれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...