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planning 3

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しばらくして戻ってきた組苑が会議室の扉を開けると、それに気付いて顔をあげた万智が声をかける。

「あ、組苑さんおかえりなさぁ~い」
「ただいま。それで調子はどう?ちゃんと選べたかしら?」

「ええ、ちゃんと熟慮と厳正な審査をしましたよ。それで、この2チームに決めました」

そういって万智は、手にした2つの資料を近づいてきた組苑に渡す。

その資料に目をやりつつ椅子に座った組苑に続き、どうやら用足しに行っていたらしい八重樫がハンカチで手を拭いながら会議室に入ってくる。そしてまた当然といった顔で、組苑の席から椅子をひとつ飛ばした席に八重樫も腰をおちつけた。 といっても室内でもサングラスをかけたままので、当然というよりはややとぼけた雰囲気である。

「ね、八重樫さん。この子達が選んだのが、このパーティーみたいよ」

ダンジョン能力者パーティーの資料を渡された八重樫は、それにザッと目を通すと頷いて答える。

「ほぉ、どれどれ。…うん、まぁいいんじゃないかな。画的な華はファングレディの3人がいることだし、他が多少むさい男ばかりでも、問題はないよ」
「それで、あら…、このテーブルに1枚だけ残ってるのは??」

と、ここで組苑が、テーブルの上に1枚だけ別で残されていた資料に目を向けた。

「ああ、それね。ライジングロードってチーム。最終選考までは残ったんだけど、結局ほかの2チームに決めたのよね」
「ならそこも含めて、あと3パーティーほど選んどきなさい。一度資料に目を通したなら、すぐ選べるでしょ」

「え、そんなに選んでいいの!?」
「バカねぇ、マッチュ。書類で選んだからって、それで決まりな訳ないじゃない。相手先に連絡を取ったら、今度は電話や面談で条件やスケジュールの擦り合わせ。その内容によっては受けてもらえないケースだって出てくるんだから、連れて行けるのは2チームと言われても、こういう時はすこし多めに見繕っとくのが常識よ?」

「あ~、そっか…。そりゃそうだよね」
「ふふ、言われてみればその通りやね。ウチらが選んでもう決まりって、なんや芸能人になって自分らで気付かんうちに、ワガママになっとったんやろか?」

「シュン、それは少しあったかも…。反省しまぁ~す」

と、そんな会話の様子を眺めていた八重樫が、笑いながら口を開いた。

「ハハハ、いやいや。それくらいの我儘なんて我儘のうちに入らないから、気にしないでいいとも。それより組苑くん、彼女たちにさっきの話を」
「そうね、じゃあソッチの話から先にしちゃいましょう」

それを受け表情を改めた組苑が3人を見渡すと、再び説明にはいる。

「コホン、え~まずこの屋久島救済プロジェクトは、我社の持つ動画配信サイトのアカウントと帝京テレビさんの枠で放送されることになるわ。それと同時にファンディングも起ち上げて、資金調達も行おうと予定してるの」
「え、それじゃ!」

「そう、テレビ放送枠のスポンサーだけでなく別でも資金調達を行なうことになるから、その金額によってはさらに戦力や協力を呼ぶことが出来るようになるわ」
「わぁ…」

「ハハハ、といってもファンディングの開始は放送が始まるのと同時だよ。それまでは他局に出し抜かれないようヒミツだからね。だからその集めた資金を活用できるようになるのは、すこし先のことになるね」
「えと、ならわたし達の頑張り次第で、たくさんのお金が集まるって事ですか?」

「ああ、そうだよルーチュ。テレビやネットでその動画を観た人達がキミたちのことを応援したいと思ってくれれば、それがその分だけお金となって集まる仕組みさ」
「すごい…」

世界遺産となっている屋久島の自然を守る為、そしてそこに住んでいる人達の安全と生活を守る為ならば、きっと多くの人が関心を寄せてくれるに違いない。と、瑠羽は期待に胸をふくらませた。

「ま、といっても幾ら集まるかなんて現段階では解からないんだし、先の事はさておき、アナタ達にはもう少し詳細な屋久島の状態と序盤の流れを伝えておくから、しっかり聞いておいてね?」
「「「はい」」」

「まず、アナタ達から要望があったように、新しくつけたマネージャーもメイクも屋久島には連れて行かないわ。ドキュメンタリーにそんなの必要ないって言ったのはアナタたちなんだから、問題ないわよね?」

その確認を受け、3人はしっかりと頷き返す。

「もちろん大丈夫よ組苑さん。私達、こう見えてダンジョンスタンピードの時だって外で過ごしてたんだから」

「せやね。防具つけた恰好のままで寝るのかて、もう慣れたもんやしなぁ」

「はい。メイクとか髪のセットは3人いればお互いに出来るので、その分のお金はもっと大事なことに使ってください」

そんな3人からの心強い返答を受け、苦笑混じりな組苑が肩を竦め脇にいる八重樫へと視線を送った。

「…ハハハ、いや、アイドルがメイクも衣装さんもいらないなんて言うとは驚きだね。でも、それでこそキミたち―牙持つ乙女、ファングレディだ」
「ね、頼もしい子達でしょう」

「ああ、これは頼もしいね」
「ンもう。そう思うんならこの子達のために、八重樫さんももうすこしスポンサー集めガンバってちょうだい」

「やや、これは痛い所を突かれたなぁ。しかし若い子達がそうまで頑張ると聞かされては、老骨に鞭打ってでも頑張るしかないか!」
「そうよ。若い子に負けないよう、アタシたちもまだまだ頑張らないとね!」
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