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Death March 1

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『あ、江月か?緊急だ!今すぐ木場公園に向かってくれ!』

対策省から電話がかかってきたと思ったら電話の主は遠野のオッサン。で、またもや緊急の依頼らしい。

「なんです藪から棒に…、内容は?」
『ゾンビだゾンビ!おまえ倒すの得意だろ!』

(むぅ、なんだその雑な解釈は…)

たしかに【塩】のスキルがあるからして、アンデッドモンスターからすればオレは天敵。だがだからといって、しょっちゅうピザの出前みたいに気安く呼ばれたのでは堪らない。

「またそうやって、予算もつかないうような仕事に駆り出すのやめてくださいよ。この間だって―」
『今はオークションで利益が出てる!だからタダ働きということはない!』

(ああ、そういえば対策省でダンジョン産アイテムの販売が 始まってから、もうだいぶ経つか…)

これは特異迷宮対策省が、冒険者アプリを用いてダンジョン産アイテムの販売を始めたという事。

まぁ簡単にいうと、鎧だの剣だのといったモノの販売だ。

ただそのアイテムを集めたのは、今までダンジョンに潜ってた自衛隊。なので、『自衛隊が武器や凶器となるモノを国民に売りつけるのは如何なモノか』という論争ですったもんだ。その後そういった物品を特異迷宮対策省で買い取り、免許をとったダンジョン能力者に向けてのみ販売するというカタチで落ち着いたという経緯がある。

しかもオークション形式だったため初期はどの出品物にも目の飛び出るような高値がついており、すでに十分装備の整っていたオレからすると実にアホらしくて、まだ何も買った事はない。

いや、ファイヤーワンドの件があるからさ。そういったのにどうしても良い思い出がないのよ。

「急にそんなこと言われても。ほかに誰かいないんですか?」
『おまえのチカラが一番強力で、周りに被害もない。街中で派手にドンパチされちゃ適わんからな』

(ふぅむ…他の能力者たちは、いったいどんな戦い方をしてるんだ?)

だが遠野のオッサンの口ぶりから察するに、対アンデッドではオレの塩に匹敵するスキルを有した能力者はたいしていない模様。またいたとしても、周囲への被害を考えなければ運用できないようだ。

あ、ちなみにオレも対策省からの依頼を受け始めた頃に、そういった万が一に備え保険には加入している。

対月光―お化け家守と街中で戦った時にも、事後、警官と現場検証をするオレに対しお化け家守に車を傷つけられた人が、『どうしてくれるんだ!』みたいなことを言ってきたりなんてこともあった。ただモンスターの起こした被害は国でも地震や台風と同じ天災扱いとしているので、そういった被害は突然雹にでも降られたと思って諦めてもらうしかない。

それでも自分でなにかを壊した時には、賠償責任が生じてしまう。

そこでオレの入った保険は個人事業主用の対物保険をバージョンアップさせたモノで、対人も念の為オプションでつけてある。ただこれも稼げていなければ入るのに悩むような金額だ。

ま、ダンジョン能力者となるとただの保険でもバカ高くなってしまう。

丈夫になることで病気にはまずならないだろうが、モンスターと戦うことになるので死亡や怪我のリスクは格段に高まってしまうから。『ダンジョン能力者にはなったけど、ダンジョンにはそんな潜りません』なんて人には、多少の割引があるようだが。

「でもコッチだって予定があるんですよ。他の方におねがいします」

うん、大変なのは分かる。が、行けばその大変な目にオレが遭うのは目に見えている。

『いればおまえになんか頼まん!とにかく囮になってるのがバテてやられちまう前に、早く行ってやれ!』

そういうと遠野のオッサンは一方的に電話を切ってしまう。恐らくは電話を切るのと同時に、オレに送りつける為の発注書を作り始めている筈。

「ったく!勝手なんだからな~もう!コッチの身にもなってくれってんだ…!」

これにより予定していた次の出張整体のお客さんに行けなくなったとお詫びの電話を入れ、ゾンビ退治に向かう羽目に。まったく、これじゃ信用ガタ落ちじゃないか。


…。


夕方、日の暮れかけて薄暗くなってきたなか、やや不機嫌なオレは警察署に車を乗りつけた。そうしてマスクだけを外した蟲王スーツ姿で声を張り、その場にいた警官に目的を伝える。

「依頼を受けたダンジョン能力者だ!ゾンビ駆除でこれから公園に入る!金色の派手なのを見ても決して発砲しないよう伝えてくれ!」

うん、まさにドラマの主人公的ムーブ。だが緊急だと言われているのだから、これくらいは許されるだろう。依頼を受けている今は、一応準国家公務員待遇だし。

コレ、本来はそれ専用の書類を書いて提出し、その場の最高責任者のサインなりハンコなりを貰わなければ効力を発揮しない。ただ非常時にそんな悠長な真似もしていられないので、大概事後に処理される感じとなっている。

『すきょん、フシュッ!』

そこで今回も言いたいことだけを伝えると、マスクを被って即戦闘態勢に。

そして背広の刑事っぽいのが怪訝そうに声をかけようとしているのを尻目に、軽く駆けたのち跳躍でピョンと道路を飛び越えた。オレが来ると伝わってる筈なのに、警察署の前では誰も待ってない。なら、現場の指揮官はおそらく公園の方だろう。

(さて、中はどうなってる…)

ポリカーボネイトの盾を持って公園の出入り口で警戒にあたっていた警官の脇をすり抜け、公園内に突入。と同時にスーツの表面には塩を生み出し対アンデッド用の防備を固める。これにより、アンデッドはオレに触れただけでもダメージを受けてしまうという仕掛け。

「「「ウゥゥゥ…!」」」

(と、アレか!)

視界を遮るように生えている樹木を抜けると、汗だくになりながらゾンビと鬼ごっこをしている消防隊員をまずは発見。

「コッチだ!そのままコッチに走ってこい!」

そこで手を振って、コチラに走ってくるよう誘導。ダンジョン能力者となって身体能力が向上していても、いくら攻撃しても動いてるゾンビが相手では、手の打ちようが無かったろう。

「ハァ、ハァ、だ、だいじょうぶなのか…!?」

自分は走り疲れてフラフラなのに、それでもコチラを心配する汗だくな消防隊員。その後ろを身体を傾かせた歪な動きで、ゾンビどもがゾロゾロノロノロと追ってくる。

「まかせておけ!そのまま公園のそとに!」

オレの脇を消防隊員が駆け抜け、眼前にはゾンビの群れが迫る。数はざっと、40はいるだろう。

もちろん、そんなゾンビどもへの攻撃は、塩一択。

腐った皮膚では粘液がうまく張りつかず効果が薄いし、強力な酸を浴びせたところで嫌な臭いがたち昇るだけで、怯んだり痛がったりもしない。しかし魔力を籠めて生み出した聖なる塩であれば、死霊はたちまち溶けてしまう。それはもう熱されたバターか、有機溶剤を垂らされた発泡スチロールのようにだ。

「さぁくらえ、ソルトタイフーン!!」

オレが両手でツインソルトスプラッシュを発動するのと同時に、ピクシークィーンもふたつの竜巻を生み出す。

ピクシークィーンはオレの中から出ずとも、魔法が使えるのだ。するとふたつの魔法が塩竜巻となって唸りをあげ、ゾンビをまとめてバラバラにしてしまう。

「す、凄い…」

そのあまりの凄まじさに、オレを通り越した汗だく消防隊員は足をとめ振り返ってしまっている。

ふふふ、どうだ凄かろう。オイラが怒れば、塩の嵐を呼ぶんだぜ。
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