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厳かな気持ちで柏手を打ち、自作でダンジョン前室に設けた祭壇にお土産の高霊人参を山盛りにして供える。

「さぁ、妖怪嫁たちよ。たんとおあがり…」

祭壇に祭られた苔むした石の欠片に封じられているのは、鬼婆娘とニホンオオカミ娘。

だが、いまだ復活する気配はまったくない。が、智と生み出した人工妖精のように、ある日突然ポンと復活するかもしれない。なのでそれを楽しみにしつつ、今日もこうして復活をお祈りをしておくのだ。

「さて、お次は…」

ポチポチと通信端末を操作し、ダンジョンで撮影した巨大ウツボカズラの写真を消去。そう、結局オレは、巨大ウツボカズラ発見の報告を入れなかった。

うん、これにはオレも非常に悩んだ。だが巨大ウツボカズラ発見の報を入れるのは時期尚早と、悩みに悩んだ末そう結論づけたのだ。

なぜならばこの報告をあげた際に生じるメリットは非常に薄く、逆にデメリットの方がとても多かったからである。

仮にもし、即報告を入れた場合には当然国の調査が入るだろう。

するとその間、特異産業はその協力によりダンジョンでの作業が出来なくなる。さらに「あ、コレやっぱり不味い薬物の材料になるモンスターですから、このダンジョンは封鎖して潰しちゃいましょう」なんて話になると、植物ダンジョンが事業のベースとなっている特異産業はおしまいだ。塩撃スピアの売り上げ程度では、社員全員の口は賄えないのだから。

そうなれば社員たちは全員失業し、また路頭に迷ってしまう。外国人労働者のジェロームたちだって、新しい仕事をみつけるのは大変な苦労だろう。

ならば知らぬが仏。ノット・ノウイング・イズ・ブッダである。

これが仮にダンジョンが潰されずに済んだとしても、やっぱり今まで通りとはいかないはず。そんなヤバイ薬になる素材があると知られれば、警備だって今よりももっと厳重にしなければならない。

そして人の口に戸は、ノット・ビルディング。

そういう情報をどこからか仕入れてきた反社会的勢力が、社員たちにブツを横流しろだなんだと言い寄ってくることだってあるかもしれない。さらに酷ければそれで家族や大事な身内を人質に取られ、いうことを聞かざるを得ない事態だって起きてしまうかもしれない。

で、あるならば。この件はまだ、オレひとりの胸に納めておけばいい。

誰も知らなければ、それはなにも無いのと同じこと。オレもまだ、なんかウツボカズラっぽいモンスターがいるな~って見かけただけで、ドロップもなんも確認してないのだから。現時点では、ギリセーフでなのである。

…。

『なんでそういう事をもっと早く言わないんだッ!』
「え、えぇ~…!」

そしてオレは、電話で例の対策省担当にまた大目玉をくらっていた。

『霊的なモンスターに対抗できる人材はものすごく少ないんだぞ!それをなんでもっと早く報告しないんだッ!!』
「いや、そういうモンスターと戦ったとこもなけりゃ、普通解らないでしょ!」

そう、これは巨大ウツボカズラ発見の件がバレたのではなく、オレの持つ【塩】のスキルに物凄い聖属性。つまりアンデッド特効のあることがバレてしまったのだ。で、もちろんその原因は、先日銀座で会ったあの霊能ばあさんだろう。

『とにかく!今そういった案件が溜りに溜って山積みになってんだ!おまえにもどっさり回すから、覚悟しとけッ!!』
「えぇ~~ッ!」

もぉ~~。そういう風になるのが嫌だったから伏せてたのに、そこを察してほしい。

だがそんな願いもむなしく、その日の晩からはそれはもう嫌がらせかっていうくらい亡霊退治のご指名案件が、オレの冒険者アプリにはバンバンつっこまれたのだった。
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