上 下
524 / 617

unquenchable guilt

しおりを挟む
大阪から戻ってきた仁菜さんが、お土産を持ってウチに元気な顔をみせてくれた。

そうして食事を終え寝物語にフトンのなかで会話を続けていると、話題はふたたび芸能界へ行くことに決まった瑠羽と瀬来さんに移っていく。ちなみに瑠羽は忙しくなった今も欠かさず連絡をくれるので、近況はよく知っている。

「ほしたら、ウチもあのふたりについてってやらんとアカンねぇ」

しかしここで、唐突に自身も芸能界入りを決める仁菜さん。

「え、仁菜さんも??」

芸能界に入るなんてそう簡単なことではないはずだが、これだけの美貌を備えた仁菜さんが言うと自然と受け入れられてしまう。

「せや。芸能界なんてウチでもよう行かんのに、あのふたりだけやったら心配やろ?」
「う、うぅむ…。それはたしかに」

そんな心理戦に長けた仁菜さんでも芸能界は危険と敬遠しているのに、根が素直すぎる瑠羽やお調子者でよく失敗する瀬来さんだけでは、めっさ心配なのは確か。

「それにウチ、女の子の友達はぜったい守るって、決めてるんよ」
「え?それはまた…」

オレは仁菜さんがそんなマイルールを自分に課しているとは露知らず、意外といった印象をうけた。と、そんな感情が表情にも出ていたのか、仁菜さんは眼だけで笑うと言葉を続けた。

「あんな、ウチな…、心にずっと消えない罪悪感いうのがあるんよ…」
「罪悪感?」

はて?なんだろう。男の子たちを手玉にとってるのが苦痛というなら、それをやめればいいだけだし…。

「…あんまり気ィのいい話やないけど、話してもええ?」

そうオレの眼の奥を覗きこむようにして訊いてくる仁菜さんに、否やは無い。

「もちろん。静が話したいのなら、オレは聞くよ」

すると顔の表情を読まれたくないのか、仁菜さんは向かい合っていた状態から後ろ向きになると、オレの腕に包まれるよう背中を寄せてきたのだった。

…。

「まえに、飴のオッチャンの話をしたやろ…。コォチ覚えてる?」
「ああ、もちろん覚えてるよ」

仁菜さんを腕のなかに抱き、その髪に口づけをするように囁き返す。

「ほしたらあの話にはな、あのあと続きがあるんよ…」
「ふぅむ…」

なかなか人には言えず、腹のなかにずっと溜め込んでいるモノ。そういったモノは、きっと誰にでもあるのだろう。そしてそれを今、仁菜さんはオレに話そうとしているようだ。

そこで話しやすいよう、やさしくその腕や髪を撫ぜてみる。

「…飴のオッチャンと近所の女の子がいなくなった後でな。ウチやっぱり納得いかなくて、女の子のことを色々訊いて回ったんよ…」
「うん」

「ほしたらそれ聞いた子達は、『知らん。それにもうあの子のことは話しちゃいかんて、お母さんに言われた』いうて…。ウチ、それがメッチャ悲しくてな…」
「……」

「それって…、その子はなんも悪うないやん!せやのに…!」

その時のことを思い出して感情を抑えきれないのか、仁菜さんがオレの腕をきつく掴み爪をたてる。

「ほんでもしすこしタイミングがずれてたら、消えてたのはその子やのうて、ウチやったんよ…??」
「……」

そうか。仁菜さんのなかには、その子を自分の身代わりにしてしまったのではという自責の念が、ずっと残っているのだろう。賢いのだから当然それは筋違いだと解っていようが、気持ちが納得できないのかもしれない。

そこでそんな思いが少しでも癒えるようにと、オレはオーラで仁菜さんを優しく包みあたためる。

「ハァ…。ほんでな…、中学ももう少しで卒業っていう時に、ほかのクラスの子に呼び出されたんよね…」
「む、呼び出し…?」

とはいえ呼び出しという単語を聞いても、オレでは告白かお礼参りの二択しかアタマに思い浮かばない。

「ほんで誰にも話を聞かれへん校庭の隅までふたりで行って、『仁菜さんあの子がいなくなった時、ずっと気にしてたでしょ?実はわたし、あれからあの子とずっと連絡とってたの』って…」
「おお!」

そうか。告白は告白でも、これはそういった告白だったか。

「グズッ…。でも『あの子ね…。引っ越した先でもあのことを引き摺って学校にも行けないで…。ずっとツライ、さみしいって…!わたしも電話で励ましたんだけど…。それでも、このあいだ亡くなったって、あの子のお母さんから…』いうてッ…!!」
「……」

仁菜さんが泣き声をあげず肩だけを震わせ、静かに泣いている。

それは…なんという、酷な告白だろうか。

きっと仁菜さんにその告白をした子も、自分ひとりでは耐え切れず誰かに話したかったのだろう。だからその子が消えた時に気にかけていた仁菜さんを思いだし、そのことを話そうと。

しかしそれが、仁菜さんにより深い業を背負わせることとなってしまったのか…。


「…だからウチ、その時から決めたんよ。友達のことは絶対に守る。ぜったいに見捨てへんて…!」

オレは知らなかった。

仁菜さんの心の奥底にはこんなにも悲しく、こんなにも熱い思いが眠っていたとは。だから瀬来さんが大学で総スカンを食っていた時にも、仁菜さんは人気など気にせず見捨てなかったのか…。

「ああ立派だ、なんて立派なんだシズ…!」

それを聞き、オレはただ仁菜さんをきつく抱きしめ褒めちぎることしかできないのだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...