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Dungeon instructor 1
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再び日曜日。だが今日は冷蔵庫ダンジョンでのトレーニングではなく、朝早くからシャークと結月ちゃんに智を連れ、軽バンで房総半島にある特異産業へとやってきた。
「お、けっこう車が停まってるぞ」
「うわぁ、賑わってるな。屋台まで出てるじゃんか」
樹木に囲まれた砂利の斜面を登りきると、駐車スペースにはたくさんの車のほかマイクロバスも停まっている。そして端の方には、焼きそばやお好み焼きといった屋台のお店も出ている。
「へぇ~。ココが元はサバゲのフィールドで、今はジャン氏が役員をやってる会社なんだね」
「でも…、なんだか山の中にある工事現場みたいですよ…」
しかしイメージしていた会社とは違ったのか、結月ちゃんはどこか釈然としない様子。
「ハハハ。まぁ特異産業はダンジョン産のモノを売る会社で、サバゲフィールドにダンジョンが出来たから、その傍に社屋が建てられた。そしてなによりスピードとコストを優先したので、社屋もプレハブ建てだ。でもそのぶん利益はより社員に分配するんだから、いい会社だよ」
「はぁ…、そうなんですか」
だが株式会社・特異産業は、いい会社だ。なにせスタンピードの影響で食えなくなったトライデントメンバーたちの生活を、どうにか立て直そうと提督が腐心して起ち上げたのだから。
故にそうしたメンバー救済の旗印があるからこそ、みなでお金を出し合ったりしてこうしてカタチとなった。なので特異産業の創業理念は、伊達じゃないのだ。
「でもスゴイね。インストラクター事業って、けっこう人気があるものなんだね」
空いている場所を探し車を停めると、助手席に座った智が周囲を見渡しそんな感想をもらす。
「ああ。初日だし、どんなものかと心配で見に来たが、いらん心配だったようだな」
そう、ココ株式会社・特異産業でも、ダンジョンインストラクター事業を行うことになったのだ。
今は規制もユルユルなので、ダンジョンインストラクターをするのにも申請だけすればいい。つまり会社の登記内容に記載を追加するだけで、そのまま受理される。このさき規制が厳しくなれば、特異迷宮入場免許にも二種免許なんてのが出るのだろうが、今のところは特異迷宮入場免許さえあればOK。
ネットだと、個人でダンジョンインストラクターをやりますなんてヤツまでいるからな。それを会社という事業形態を持った組織で行なうのだから、そういうのよりかは余程ちゃんとしている。
…。
と、車を降りるとまずトイレに向かおうとする女子高生ズの、シャークの方だけをオレは小声で呼び止めた。
「(シャーク。ホームだからといって、浮かれて結月ちゃんから離れるなよ?)」
「(え、なんでだ?)」
「(おまえがトライデントの仲間と楽しくしてたら、結月ちゃんが寂しいだろう。それに目を離すと、カンシャク玉が破裂するかもしれない)」
「(…!ああ、なら見とくよ)」
「(頼むぞ。オレは智を鍛えるのに後でダンジョンに入るから)」
「(わかった)」
うむ、これでよし。そうしてふたりが連れだって新設された屋外簡易トイレに向かうのを見送ると、ひとり頷く。
うん、結月ちゃんは非常に礼儀正しい子。だがその一方で気に障ったことには、非常に沸点の低い子でもある。ま、要するに喧嘩っ早いのだ。
シャークも口が悪くそういった部分はあるが、シャークの場合まず充分な舌戦を繰り広げる。しかし結月ちゃんの場合あたまに血を昇らせると、それをせずツンと黙りこみ手を出さずにはおれない性分があるようなのだ。
やってる武道が合気道なのでそれほど攻撃的には見えないものの、気に入らない相手にちょっと手を伸ばされでもしたら、即その手を極めて引き倒すくらいは平気でやる。以前にはシャークも、ソレでやられたからな。
ただ今まではそれでも良かったろうが、ダンジョン能力者となると、そうもいかない。ヘタに一般人でも傷つけてしまえば、3倍重く罰せられてしまうのだから。
そして草津からこのかた、育てられる存在が目の前にいると育てずにはおれないという育成ゲーマー的嗜好をオレが発揮した結果、シャークも結月ちゃんもメキメキと強くなってしまった。なのでその力をふとした時にでも一般人にふるってしまえば、それはもう軽くのつもりでも複雑骨折待ったなしなのである。
ゆえに指導した者の立場としては、教えた子達の不祥事がめっさ怖い。
うん、自分のしでかしたことなら、その始末を自分でつける覚悟は持っているつもり。でももし仮に結月ちゃんが誰かを傷つけてしまったとしても、「すいませんでした。でもそれは指導をしていた者の責任なので、代わりにオレが刑務所でも少年院でも入ります」と言っても、そこは法律上通用しない部分。
なので世間一般の価値基準や法律をバンバン無視して勝手をやるオレでも、流石にそういったことには神経過敏となってしまう。
社員となったトライデントメンバーの目もあるし大丈夫だとは思うが、今日は指導を受けるため大勢の一般人が詰めかけている。故にどうか変なパンピーがあのふたりにチョッカイかけませんようにと、祈らずにはいられないのだった。
「お、けっこう車が停まってるぞ」
「うわぁ、賑わってるな。屋台まで出てるじゃんか」
樹木に囲まれた砂利の斜面を登りきると、駐車スペースにはたくさんの車のほかマイクロバスも停まっている。そして端の方には、焼きそばやお好み焼きといった屋台のお店も出ている。
「へぇ~。ココが元はサバゲのフィールドで、今はジャン氏が役員をやってる会社なんだね」
「でも…、なんだか山の中にある工事現場みたいですよ…」
しかしイメージしていた会社とは違ったのか、結月ちゃんはどこか釈然としない様子。
「ハハハ。まぁ特異産業はダンジョン産のモノを売る会社で、サバゲフィールドにダンジョンが出来たから、その傍に社屋が建てられた。そしてなによりスピードとコストを優先したので、社屋もプレハブ建てだ。でもそのぶん利益はより社員に分配するんだから、いい会社だよ」
「はぁ…、そうなんですか」
だが株式会社・特異産業は、いい会社だ。なにせスタンピードの影響で食えなくなったトライデントメンバーたちの生活を、どうにか立て直そうと提督が腐心して起ち上げたのだから。
故にそうしたメンバー救済の旗印があるからこそ、みなでお金を出し合ったりしてこうしてカタチとなった。なので特異産業の創業理念は、伊達じゃないのだ。
「でもスゴイね。インストラクター事業って、けっこう人気があるものなんだね」
空いている場所を探し車を停めると、助手席に座った智が周囲を見渡しそんな感想をもらす。
「ああ。初日だし、どんなものかと心配で見に来たが、いらん心配だったようだな」
そう、ココ株式会社・特異産業でも、ダンジョンインストラクター事業を行うことになったのだ。
今は規制もユルユルなので、ダンジョンインストラクターをするのにも申請だけすればいい。つまり会社の登記内容に記載を追加するだけで、そのまま受理される。このさき規制が厳しくなれば、特異迷宮入場免許にも二種免許なんてのが出るのだろうが、今のところは特異迷宮入場免許さえあればOK。
ネットだと、個人でダンジョンインストラクターをやりますなんてヤツまでいるからな。それを会社という事業形態を持った組織で行なうのだから、そういうのよりかは余程ちゃんとしている。
…。
と、車を降りるとまずトイレに向かおうとする女子高生ズの、シャークの方だけをオレは小声で呼び止めた。
「(シャーク。ホームだからといって、浮かれて結月ちゃんから離れるなよ?)」
「(え、なんでだ?)」
「(おまえがトライデントの仲間と楽しくしてたら、結月ちゃんが寂しいだろう。それに目を離すと、カンシャク玉が破裂するかもしれない)」
「(…!ああ、なら見とくよ)」
「(頼むぞ。オレは智を鍛えるのに後でダンジョンに入るから)」
「(わかった)」
うむ、これでよし。そうしてふたりが連れだって新設された屋外簡易トイレに向かうのを見送ると、ひとり頷く。
うん、結月ちゃんは非常に礼儀正しい子。だがその一方で気に障ったことには、非常に沸点の低い子でもある。ま、要するに喧嘩っ早いのだ。
シャークも口が悪くそういった部分はあるが、シャークの場合まず充分な舌戦を繰り広げる。しかし結月ちゃんの場合あたまに血を昇らせると、それをせずツンと黙りこみ手を出さずにはおれない性分があるようなのだ。
やってる武道が合気道なのでそれほど攻撃的には見えないものの、気に入らない相手にちょっと手を伸ばされでもしたら、即その手を極めて引き倒すくらいは平気でやる。以前にはシャークも、ソレでやられたからな。
ただ今まではそれでも良かったろうが、ダンジョン能力者となると、そうもいかない。ヘタに一般人でも傷つけてしまえば、3倍重く罰せられてしまうのだから。
そして草津からこのかた、育てられる存在が目の前にいると育てずにはおれないという育成ゲーマー的嗜好をオレが発揮した結果、シャークも結月ちゃんもメキメキと強くなってしまった。なのでその力をふとした時にでも一般人にふるってしまえば、それはもう軽くのつもりでも複雑骨折待ったなしなのである。
ゆえに指導した者の立場としては、教えた子達の不祥事がめっさ怖い。
うん、自分のしでかしたことなら、その始末を自分でつける覚悟は持っているつもり。でももし仮に結月ちゃんが誰かを傷つけてしまったとしても、「すいませんでした。でもそれは指導をしていた者の責任なので、代わりにオレが刑務所でも少年院でも入ります」と言っても、そこは法律上通用しない部分。
なので世間一般の価値基準や法律をバンバン無視して勝手をやるオレでも、流石にそういったことには神経過敏となってしまう。
社員となったトライデントメンバーの目もあるし大丈夫だとは思うが、今日は指導を受けるため大勢の一般人が詰めかけている。故にどうか変なパンピーがあのふたりにチョッカイかけませんようにと、祈らずにはいられないのだった。
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