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muscle stimulation
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一週間後。智はいくぶんスッキリとした顔で、オレのアパートを訪ねてきた。
「お…、友よ。だいぶ顔の肉が落ちたじゃないか?」
「ウ、ウン。あれから、ジャン氏の作ってくれたトレーニングを続けてみたんだ」
先週は突如号泣してしまい、なんのトレーニングにもならなかった智。だがそれがキッカケとなり大きな心境の変化があったようで、今日は肉体的にも精神的にもスッキリとした表情をみせている。
「うむ、継続こそパワー。その弛まぬ積み重ねこそが、肉体を真のマッスルへと導くのだ」
「ハハ…、でもその通りだね。昔のジャン氏を知ってるポクからすると、今のジャン氏はまるで別人だもん」
「そうだ、人は変われる。そしてそれは、オレもおまえも同様だ」
「ウン、ポクもがんばってみるよ!」
「よし、その意気だ。ではさっそくトレーニングを始めよう」
…。
こうして今日もトレーニングが開始される。それは秘密の強者養成機関・カニの穴の前身機関である、この冷蔵庫の穴で。
「まずゆっくりと膝を曲げ、腰をおとしていく…そう、ねば~るねば~る…ストップ!ぬはは!どうだ?大腿筋に、マッスルスティミュレーションが溜ってきただろう!」
「クッ…!ビ、ビリビリきてるよジャン氏!」
「うむ!それこそが正しく筋肉を刺激できている証、マッスルスティミュレーションだ。その感覚を、しっかりと覚えるんだぞ」
「ウ、ウン!」
オレは智に個人指導を行っていた。
そしてすでに基本的なトレーニング法をマスターしているシャークと結月ちゃんは、粘液ロープで壁に手足をつなぎその状態で粘液サンドバッグを叩いたり蹴ったりを行なっている。こちらは主に、瞬発筋を鍛える訓練だな。
「よし、次は肢を肩幅より大きく開いた状態で、爪先は前。そう、そのままゆっくりと膝を曲げ、腰をおとしていく…そう、ねば~るねば~る…ストップ!」
「クッ…これもツライよ!…あれ、でもさっきよりフラついたりしない?」
「そうだ、よく気がついたな。今の態勢は中国拳法でも基本となる構え、馬歩だ。背筋を伸ばすことでインナーマッスルも鍛えられ、気を練るにも最適。なのでまずは、これを10分継続できることを目標にしよう」
「じゅ、10分も!?」
「だいじょうぶだ。すぐに出来るようになる。そうだ…、ふたりとも!ちょっとその場で10分馬歩をしてみてくれるか?」
無負荷の馬歩10分で驚いている智に、ダンジョン能力者のなんたるかを教えてやるためシャークと結月ちゃんに声をかける。
「ハァ…ハァ…!まぁいいけど」
「ふぅ~…、わかりました」
すると激しく動いて滝のように汗をかいているふたりが、粘液ロープを張ったままでスッと馬歩の態勢をとる。そうして静かに気を練り、その状態でも自身のスタミナを回復させてみせる。
「ほら、慣れればあの通りだ」
「スゴイ…」
「なに、1分2分と、徐々に時間を伸ばしていけばいいだけのこと。継続こそパワーだ」
「ウ、ウン!ポクもがんばるよ!」
…。
そうしてトレーニングを終えると、低脂肪高たんぱくの巨大カマドウマの肉をジャンジャン焼いて3人にはモリモリ食べてもらう。うむ、質の良いトレーニングのあとは質の良い栄養補給。これがマッスルな肉体を作るのだ。
「でもジャン氏。今日はずっと馬歩だったけど、鍛えるのは大腿筋だけで良かったの?」
すると智が、食事の合間に疑問を口にした。
「うむ、それは実にいい質問だぞ。いま智にはセルフトレーニングでもウォーキングや階段の上り下りをしてもらっているが、それもすべて大腿筋を刺激する為だ」
「大腿筋を…?」
「そう、大腿筋というのは、人の身体のなかで一番おおきな筋組織。だからそれを刺激してやるのが、一番身体に『イタタ、これは成長ホルモンを分泌させる必要があるぞ』っていうサインになる」
「へぇ~」
「鍛えていない状態の身体では、そういった成長ホルモンを分泌させる細胞も休眠状態になってるからな。それを呼び起こすには小さな筋肉からの信号ではなく、大きな筋肉からの大きな信号が必要という訳だ」
「そっかぁ、そういう意味があったんだね」
「ただ今日はしっかりと鍛えたから、むこう3日間は安静にしていろ。たぶん明後日あたりから、酷い筋肉痛に襲われるだろう」
「うぅ…、またあの痛みに襲われるんだ」
「ハハハ、そこは強くなるための洗礼と思ってあきらめろ。その痛みも、慣れればまた楽しみに変わる」
「ウ、ウン…」
だがそう説明を続けると、智がみるからに気落ちしていくのが分かる。ふむ、やはり痛みには弱いようだ。女の子に踏まれてるような薄い本は、大好きなのにな。
(お、そうだ…)
そこで何かヤル気のでるような飴が必要かもと、シャークと結月ちゃんに声をかけてみる。
「そういえば、ふたりとも学校の勉強はどうだ?智は頭が良くて数学も英語も得意だから、解らないことがあったら訊いてみるといいぞ」
「へぇ~、そうなんだ」
「わかりました」
「あ…ウン、そうだね。高校の授業でやってるくらいのことなら、今でも覚えてるよ」
よしよし、まぁ今は素っ気なく返されてるけど、顔を合わせる機会が増えればそれも改善されるだろう。智には今の状態を維持して、ガンバってもらいたいからな。
「お…、友よ。だいぶ顔の肉が落ちたじゃないか?」
「ウ、ウン。あれから、ジャン氏の作ってくれたトレーニングを続けてみたんだ」
先週は突如号泣してしまい、なんのトレーニングにもならなかった智。だがそれがキッカケとなり大きな心境の変化があったようで、今日は肉体的にも精神的にもスッキリとした表情をみせている。
「うむ、継続こそパワー。その弛まぬ積み重ねこそが、肉体を真のマッスルへと導くのだ」
「ハハ…、でもその通りだね。昔のジャン氏を知ってるポクからすると、今のジャン氏はまるで別人だもん」
「そうだ、人は変われる。そしてそれは、オレもおまえも同様だ」
「ウン、ポクもがんばってみるよ!」
「よし、その意気だ。ではさっそくトレーニングを始めよう」
…。
こうして今日もトレーニングが開始される。それは秘密の強者養成機関・カニの穴の前身機関である、この冷蔵庫の穴で。
「まずゆっくりと膝を曲げ、腰をおとしていく…そう、ねば~るねば~る…ストップ!ぬはは!どうだ?大腿筋に、マッスルスティミュレーションが溜ってきただろう!」
「クッ…!ビ、ビリビリきてるよジャン氏!」
「うむ!それこそが正しく筋肉を刺激できている証、マッスルスティミュレーションだ。その感覚を、しっかりと覚えるんだぞ」
「ウ、ウン!」
オレは智に個人指導を行っていた。
そしてすでに基本的なトレーニング法をマスターしているシャークと結月ちゃんは、粘液ロープで壁に手足をつなぎその状態で粘液サンドバッグを叩いたり蹴ったりを行なっている。こちらは主に、瞬発筋を鍛える訓練だな。
「よし、次は肢を肩幅より大きく開いた状態で、爪先は前。そう、そのままゆっくりと膝を曲げ、腰をおとしていく…そう、ねば~るねば~る…ストップ!」
「クッ…これもツライよ!…あれ、でもさっきよりフラついたりしない?」
「そうだ、よく気がついたな。今の態勢は中国拳法でも基本となる構え、馬歩だ。背筋を伸ばすことでインナーマッスルも鍛えられ、気を練るにも最適。なのでまずは、これを10分継続できることを目標にしよう」
「じゅ、10分も!?」
「だいじょうぶだ。すぐに出来るようになる。そうだ…、ふたりとも!ちょっとその場で10分馬歩をしてみてくれるか?」
無負荷の馬歩10分で驚いている智に、ダンジョン能力者のなんたるかを教えてやるためシャークと結月ちゃんに声をかける。
「ハァ…ハァ…!まぁいいけど」
「ふぅ~…、わかりました」
すると激しく動いて滝のように汗をかいているふたりが、粘液ロープを張ったままでスッと馬歩の態勢をとる。そうして静かに気を練り、その状態でも自身のスタミナを回復させてみせる。
「ほら、慣れればあの通りだ」
「スゴイ…」
「なに、1分2分と、徐々に時間を伸ばしていけばいいだけのこと。継続こそパワーだ」
「ウ、ウン!ポクもがんばるよ!」
…。
そうしてトレーニングを終えると、低脂肪高たんぱくの巨大カマドウマの肉をジャンジャン焼いて3人にはモリモリ食べてもらう。うむ、質の良いトレーニングのあとは質の良い栄養補給。これがマッスルな肉体を作るのだ。
「でもジャン氏。今日はずっと馬歩だったけど、鍛えるのは大腿筋だけで良かったの?」
すると智が、食事の合間に疑問を口にした。
「うむ、それは実にいい質問だぞ。いま智にはセルフトレーニングでもウォーキングや階段の上り下りをしてもらっているが、それもすべて大腿筋を刺激する為だ」
「大腿筋を…?」
「そう、大腿筋というのは、人の身体のなかで一番おおきな筋組織。だからそれを刺激してやるのが、一番身体に『イタタ、これは成長ホルモンを分泌させる必要があるぞ』っていうサインになる」
「へぇ~」
「鍛えていない状態の身体では、そういった成長ホルモンを分泌させる細胞も休眠状態になってるからな。それを呼び起こすには小さな筋肉からの信号ではなく、大きな筋肉からの大きな信号が必要という訳だ」
「そっかぁ、そういう意味があったんだね」
「ただ今日はしっかりと鍛えたから、むこう3日間は安静にしていろ。たぶん明後日あたりから、酷い筋肉痛に襲われるだろう」
「うぅ…、またあの痛みに襲われるんだ」
「ハハハ、そこは強くなるための洗礼と思ってあきらめろ。その痛みも、慣れればまた楽しみに変わる」
「ウ、ウン…」
だがそう説明を続けると、智がみるからに気落ちしていくのが分かる。ふむ、やはり痛みには弱いようだ。女の子に踏まれてるような薄い本は、大好きなのにな。
(お、そうだ…)
そこで何かヤル気のでるような飴が必要かもと、シャークと結月ちゃんに声をかけてみる。
「そういえば、ふたりとも学校の勉強はどうだ?智は頭が良くて数学も英語も得意だから、解らないことがあったら訊いてみるといいぞ」
「へぇ~、そうなんだ」
「わかりました」
「あ…ウン、そうだね。高校の授業でやってるくらいのことなら、今でも覚えてるよ」
よしよし、まぁ今は素っ気なく返されてるけど、顔を合わせる機会が増えればそれも改善されるだろう。智には今の状態を維持して、ガンバってもらいたいからな。
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