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cosplay
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智が潜っているということで様子を見に来た月島ダンジョンは、コスプレ会場もかくやという賑わいであった。
(なん…だと…ッ!?)
いや、なんていうか、まんまコスプレ会場だった。
みなダンジョンだというのになんの防御力も攻撃力も持たない戦士だ魔法使いだのコスプレ衣装に身を包み、リアルダンジョンの壁などを背景に写真撮影を行なっているのだ。
「こっち~、目線お願いしまぁす」
「ありがとうございましたぁ」
だがそんなそこかしこで行なわれる写真撮影の様子に、軽く眩暈すら覚えてしまう。
(コイツ等、正気か…?)
いや、まぁ…まったく理解できない訳ではない。
かつてはオレだって、そういった文化にどっぷり浸かっていたのだ。なので理解できる部分というのは、多分にある。しかしダンジョンで何度も地獄を見、死ぬ思いをしたうえ片足まで失った今としては、それを素直に受け止められないくらい認識にズレが生じているのは確かだった。
(まぁでも…月島だしな。そういった土壌はあったのだろう)
うむ、オタの祭典といえば晴海か有明。
歴史を紐解いてかつての幕張も含めると、湾岸線沿いに一挙集中していたオタ文化。そんな祭りの際に遠方から詰めかけたオタたちがホテルを利用したり食事をしたりで、その近辺の地域もある種オタ慣れしている。
(ふむ、そういった下地があったからこそ、月島にあるこのダンジョンはこんな風になってしまったのだな…)
そしてダンジョンなんてのは、オタの大好物。
オレもココならば自分の知っている場所で、その知識を活かして頑張れるのではと、ダンジョンに挑んだのが始まりだ。
なのでポーズを決めるコスプレイヤーに大量のフラッシュが焚かれるのも、そうしたコスプレイヤーらが集まってキャッキャッとごっこ遊びに興じるのも、微笑ましくもどこか遠い昔の記憶をみているようでもあった。
そしてそんななかに、他のカメコたちに混じってローアングラーしている智の姿を発見したのだった…。
…。
「友よ…。おまえはココで、何をしている」
「え、あ!ジャン氏!?」
声をかけると、オレに気付いた智はひどく驚いた表情。そしてお高そうな一眼レフを傷つけぬよう、モタモタと腹這いの姿勢から起き上がった。
「ジャ、ジャン氏もこのイベントに来てたなんて、知らなかったよ…」
「いや違うぞ。オレは仕事帰りだ。だがおまえがダンジョンに潜っていると知って、様子をみにきたんだよ」
「え、でもその格好…?」
そういって智が指差すのは、オレの服装。
下に着ている蟲王スーツを隠すのに、今は膝下まで隠れる黒のロングコートを羽織っている。以前スーツ姿だと目立つからと買ったヤツだ。そして蟲王マスクでないバイク用のヘルメットは、智に話しかける前に外し小脇に抱えている。
なので見様によっては、なにかのコスプレとも見て取れるかもしれない。
「ああ、コレはこういう人が多い場所用だ。いつものアレだと、目立つからな」
「そ、そうだったんだ」
うむ、スタンピード中に生存確認に行きカニダンジョンで戦闘指導もしたから、智はオレの蟲王スーツ姿も知っている。
と、そんな風に話していると、写真撮影を終えた女性コスプレイヤーが取り巻きを引き連れ智に声をかけた。
「あらポクタン、その方はどなた?見ない顔だけれど?」
「あ、ハイ!マーガレットさま!彼はポクタンの友達で、ジャン氏といいます」
(ふむ、なるほど…)
その僅かなやり取りだけで、オレの鋭い観察眼が火を噴く。
まず、ピンクのお姫さまドレスっぽいコスプレ衣装を着ているこの女性が、いわゆる姫と呼ばれる取り巻きたちのアイドルなのだろう。
キャラ名なのかコスプレイヤーとしての名なのかは知らないが、マーガレットさまと呼ばれた女性がオレに興味をもった様子に、後ろにいる取り巻き連中の表情が幾分険しくなった。
うん、ちなみに最近はスタンピードのせいで新作アニメも打ち切りの連続だったからな。マーガレットさまがどんな作品のなんていうキャラなのかは、サッパリだ。その点では、オレのオタ知識もだいぶ鈍ってしまっている。
そしてそのマーガレットさまが智のことをハンドルネームとはいえ呼び捨てにしていることから、智もまた取り巻き連中のひとりなのかもしれない。
「へぇ、そうなの…。ごきげんようジャンシ、はじめまして」
そしてオレに向けられたマーガレットさまの笑顔と、挨拶のことば。
うん、でも知ってるよ。その笑顔はそうみられることを意識したスマイルで、眼の奥ではコチラをしっかりと値踏みしているということを。なにせ最初に出会ったころは、よくそんな眼で仁菜さんに視られてたし。
故にそんな仁菜さんに鍛えられたオレに、隙は無かった。
「これはどうもご丁寧に。ポクタンがいつもお世話になっております」
よく知らないが相手がお姫様か貴族令嬢といったムーブだったなので、こちらもそれっぽく応じてみる。そうして適当なところで会話をうちきり、智にはあとでお説教だと腹のなかで計算。
しかしそこに、智がまさかの爆弾発言をかぶせてきた。
「あのねマーガレットさま、ジャン氏はすごいんだよ。あのスキルトーナメントにも出たんだ」
「「「エッ!?」」」
(ちょ!おま!なにこんな大勢の前で余計なこと言ってんだよ!!)
(なん…だと…ッ!?)
いや、なんていうか、まんまコスプレ会場だった。
みなダンジョンだというのになんの防御力も攻撃力も持たない戦士だ魔法使いだのコスプレ衣装に身を包み、リアルダンジョンの壁などを背景に写真撮影を行なっているのだ。
「こっち~、目線お願いしまぁす」
「ありがとうございましたぁ」
だがそんなそこかしこで行なわれる写真撮影の様子に、軽く眩暈すら覚えてしまう。
(コイツ等、正気か…?)
いや、まぁ…まったく理解できない訳ではない。
かつてはオレだって、そういった文化にどっぷり浸かっていたのだ。なので理解できる部分というのは、多分にある。しかしダンジョンで何度も地獄を見、死ぬ思いをしたうえ片足まで失った今としては、それを素直に受け止められないくらい認識にズレが生じているのは確かだった。
(まぁでも…月島だしな。そういった土壌はあったのだろう)
うむ、オタの祭典といえば晴海か有明。
歴史を紐解いてかつての幕張も含めると、湾岸線沿いに一挙集中していたオタ文化。そんな祭りの際に遠方から詰めかけたオタたちがホテルを利用したり食事をしたりで、その近辺の地域もある種オタ慣れしている。
(ふむ、そういった下地があったからこそ、月島にあるこのダンジョンはこんな風になってしまったのだな…)
そしてダンジョンなんてのは、オタの大好物。
オレもココならば自分の知っている場所で、その知識を活かして頑張れるのではと、ダンジョンに挑んだのが始まりだ。
なのでポーズを決めるコスプレイヤーに大量のフラッシュが焚かれるのも、そうしたコスプレイヤーらが集まってキャッキャッとごっこ遊びに興じるのも、微笑ましくもどこか遠い昔の記憶をみているようでもあった。
そしてそんななかに、他のカメコたちに混じってローアングラーしている智の姿を発見したのだった…。
…。
「友よ…。おまえはココで、何をしている」
「え、あ!ジャン氏!?」
声をかけると、オレに気付いた智はひどく驚いた表情。そしてお高そうな一眼レフを傷つけぬよう、モタモタと腹這いの姿勢から起き上がった。
「ジャ、ジャン氏もこのイベントに来てたなんて、知らなかったよ…」
「いや違うぞ。オレは仕事帰りだ。だがおまえがダンジョンに潜っていると知って、様子をみにきたんだよ」
「え、でもその格好…?」
そういって智が指差すのは、オレの服装。
下に着ている蟲王スーツを隠すのに、今は膝下まで隠れる黒のロングコートを羽織っている。以前スーツ姿だと目立つからと買ったヤツだ。そして蟲王マスクでないバイク用のヘルメットは、智に話しかける前に外し小脇に抱えている。
なので見様によっては、なにかのコスプレとも見て取れるかもしれない。
「ああ、コレはこういう人が多い場所用だ。いつものアレだと、目立つからな」
「そ、そうだったんだ」
うむ、スタンピード中に生存確認に行きカニダンジョンで戦闘指導もしたから、智はオレの蟲王スーツ姿も知っている。
と、そんな風に話していると、写真撮影を終えた女性コスプレイヤーが取り巻きを引き連れ智に声をかけた。
「あらポクタン、その方はどなた?見ない顔だけれど?」
「あ、ハイ!マーガレットさま!彼はポクタンの友達で、ジャン氏といいます」
(ふむ、なるほど…)
その僅かなやり取りだけで、オレの鋭い観察眼が火を噴く。
まず、ピンクのお姫さまドレスっぽいコスプレ衣装を着ているこの女性が、いわゆる姫と呼ばれる取り巻きたちのアイドルなのだろう。
キャラ名なのかコスプレイヤーとしての名なのかは知らないが、マーガレットさまと呼ばれた女性がオレに興味をもった様子に、後ろにいる取り巻き連中の表情が幾分険しくなった。
うん、ちなみに最近はスタンピードのせいで新作アニメも打ち切りの連続だったからな。マーガレットさまがどんな作品のなんていうキャラなのかは、サッパリだ。その点では、オレのオタ知識もだいぶ鈍ってしまっている。
そしてそのマーガレットさまが智のことをハンドルネームとはいえ呼び捨てにしていることから、智もまた取り巻き連中のひとりなのかもしれない。
「へぇ、そうなの…。ごきげんようジャンシ、はじめまして」
そしてオレに向けられたマーガレットさまの笑顔と、挨拶のことば。
うん、でも知ってるよ。その笑顔はそうみられることを意識したスマイルで、眼の奥ではコチラをしっかりと値踏みしているということを。なにせ最初に出会ったころは、よくそんな眼で仁菜さんに視られてたし。
故にそんな仁菜さんに鍛えられたオレに、隙は無かった。
「これはどうもご丁寧に。ポクタンがいつもお世話になっております」
よく知らないが相手がお姫様か貴族令嬢といったムーブだったなので、こちらもそれっぽく応じてみる。そうして適当なところで会話をうちきり、智にはあとでお説教だと腹のなかで計算。
しかしそこに、智がまさかの爆弾発言をかぶせてきた。
「あのねマーガレットさま、ジャン氏はすごいんだよ。あのスキルトーナメントにも出たんだ」
「「「エッ!?」」」
(ちょ!おま!なにこんな大勢の前で余計なこと言ってんだよ!!)
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