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そうして指示された住所に向かうと、ソコは都内でも有名な高級ホテル。で、通りには何台ものパトカーや消防車がズラリと停まっていた。
(うわ、なんだ。やけに物々しいな…)
ともあれそんな車両群から少し離れたところに軽バンを停めると、紙にマジックで『能力者車両 特務対応中』と書いてフロントガラスに貼って置く。うむ、緑の恰好をした連中はいつどこへでも現れるからな。そんなことへの対応も欠かさぬ隙のないオレなのだ。
だってコッチは対策省の職員に大至急でと呼び出されたんだし、オレのマイカーも特殊車両扱いってことで。これでもし駐禁きられたら、路亜さんに頼んで何とかしてもらおう。
「お~い!コッチにも胞子が飛んでるぞ!」
「なに、そんなトコまでか!?」
と、そんなことを考えながら駐禁対策をとっていたオレの耳に、なにやらおかしな会話がとびこんできた。
(なに、胞子…?)
そこで声のした方へと顔を向けると、歩道には白い防護服に身を包んだふたりの姿。するとひとりが街路樹を斧で切りつけ、もうひとりがソノ箇所を手持ちのガスバーナーで焼きはじめた。
(エェ~なにそれ!なんかマズイ時の風の谷みたいになってんジャン!)
そんな様子に驚き、さらに他へと視線を向ければ、そっちにもまたマスクにボンベを背負った完全防備の消防隊員たちが、同じように斧やガスバーナーを持って駈けずりまわっている。
(うむむ…。コレは迂闊に外へは出ない方が良さそうだぞ…)
そこでシートを倒して車の後部に移ると、ソコでごそごそモソモソと蟲王スーツ姿へと変身。
「(ビコォン!ふしゅるるぅ…)ふぅ、これでひと安心だな」
なにやら問題の感染症は、胞子として飛び回っているらしい。
でも完全密閉で防毒フィルター装備の蟲王スーツなら安心だ。しかしこの格好のまま外に出ると、また不審者や化け物扱いを受けてしまう。なのでここは大人しく車内から、路亜さんに連絡をとった。
…。
「なるほど、相手はキノコですか…」
「ええ。非常に厄介な相手です」
防護服姿でオレを迎えに来てくれた路亜さんと共にビニールぐるぐる巻きの指揮所に入ると、そこでようやく対処対象のことを教えられた。
「存在が確認されたのが、一カ月ほど前。国内では未確認の、自衛隊のデータベースにも存在しない個体だったので、これにはC国の関与があった可能性も…」
「な、C国絡みですか…?」
「極秘裏に処理を行なっていたのですが、なにせ感染をひき起こしてしまう相手。しかも胞子が発芽するまでは、まったく存在の確認がとれない厄介な相手です」
「それでこのホテルで、大量感染が起こってしまったのですか…」
「そうです…。残念ながらここでは大勢の犠牲者がでてしまいました。そして感染者には治療の目途がまったく立たなかったことから、すでに処分の決定が下されています…」
「まさか、そんなッ!?」
(じゃあ…。それじゃあ…。そういった感染者を、オレに殺せとココへ呼んだのか…)
いきなりの重すぎる話に、動揺を隠せない。そんなことを能力者とはいえ、一般人にやらせないでほしい。
「胞子に感染すると体内で発芽し、脳を侵された時点でその人は他の生き物を襲う化け物と化してしまいます…。コレは動物実験でも同様の結果がでており―」
「いや!いや路亜さん!そういうことじゃなくて…!もしや処分を、その感染者を殺させるために、オレをココへ呼んだんですかッ!?」
そう問いかけると、ずっと視線を合わせず説明を続けていた路亜さんの目が、ツイとオレに向けられる。そして真っ直ぐに、見据えられた。
その瞬間に、感じてとってしまう。あ、これは覚悟を決めてしまった者の目だと。
「お願いします…。こんなコトを、ほかの誰かになど頼みたくはありません。ですが今のわたしには、戦える力がもうない。毒にやられたせいで、カラダの神経がバカになってしまったのです…」
「……」
路亜さんがそういうのなら、それが事実なのだろう。
オレと飲んだ時の路亜さんだって、ボロボロのカラダをしていた。そして自衛隊ではそういった危険なモンスターが地上に溢れぬようにと、率先して駆除を行っていたはず。
「キノコ感染者に銃器は通用しません。脳を侵された時点で痛覚を失い、できた傷もすぐ菌糸で塞いでしまうのです」
「で、ではさっき外で見たように、焼いてしまうのは??」
「キノコ感染者を焼いてしまおうとすると、彼らは暴れてたちまち胞子を噴出させます。それが炎の上昇気流にでも乗ってしまえば、被害が周囲一帯にまで拡大してしまうでしょう」
「う、うぅむ…」
「江月さん…。それにあなたは先日、スキルの追記申請を行いましたね?そしてそのスキルは、【粘液】と【酸】。それらがあれば、キノコ感染者への対処も充分可能なはずです」
「……」
(参った。もうそこまで調べられていたとは…)
「非常に酷なお願いをしていることは、重々承知しております。ですが、これ以上の被害者を出さない為にも!どうか、どうかご協力をおねがいします!もうこの問題に対処できる力が、あなたの他にはないのですッ!!」
そうオレに向け、深々と頭をさげる路亜さん。
ということは、事故があったいう対処をしていた方たちも、すでにやられてしまったのだろうか…。
「…わかりました」
それに対し、オレはそう答えるよりほか、ないのだった。
(うわ、なんだ。やけに物々しいな…)
ともあれそんな車両群から少し離れたところに軽バンを停めると、紙にマジックで『能力者車両 特務対応中』と書いてフロントガラスに貼って置く。うむ、緑の恰好をした連中はいつどこへでも現れるからな。そんなことへの対応も欠かさぬ隙のないオレなのだ。
だってコッチは対策省の職員に大至急でと呼び出されたんだし、オレのマイカーも特殊車両扱いってことで。これでもし駐禁きられたら、路亜さんに頼んで何とかしてもらおう。
「お~い!コッチにも胞子が飛んでるぞ!」
「なに、そんなトコまでか!?」
と、そんなことを考えながら駐禁対策をとっていたオレの耳に、なにやらおかしな会話がとびこんできた。
(なに、胞子…?)
そこで声のした方へと顔を向けると、歩道には白い防護服に身を包んだふたりの姿。するとひとりが街路樹を斧で切りつけ、もうひとりがソノ箇所を手持ちのガスバーナーで焼きはじめた。
(エェ~なにそれ!なんかマズイ時の風の谷みたいになってんジャン!)
そんな様子に驚き、さらに他へと視線を向ければ、そっちにもまたマスクにボンベを背負った完全防備の消防隊員たちが、同じように斧やガスバーナーを持って駈けずりまわっている。
(うむむ…。コレは迂闊に外へは出ない方が良さそうだぞ…)
そこでシートを倒して車の後部に移ると、ソコでごそごそモソモソと蟲王スーツ姿へと変身。
「(ビコォン!ふしゅるるぅ…)ふぅ、これでひと安心だな」
なにやら問題の感染症は、胞子として飛び回っているらしい。
でも完全密閉で防毒フィルター装備の蟲王スーツなら安心だ。しかしこの格好のまま外に出ると、また不審者や化け物扱いを受けてしまう。なのでここは大人しく車内から、路亜さんに連絡をとった。
…。
「なるほど、相手はキノコですか…」
「ええ。非常に厄介な相手です」
防護服姿でオレを迎えに来てくれた路亜さんと共にビニールぐるぐる巻きの指揮所に入ると、そこでようやく対処対象のことを教えられた。
「存在が確認されたのが、一カ月ほど前。国内では未確認の、自衛隊のデータベースにも存在しない個体だったので、これにはC国の関与があった可能性も…」
「な、C国絡みですか…?」
「極秘裏に処理を行なっていたのですが、なにせ感染をひき起こしてしまう相手。しかも胞子が発芽するまでは、まったく存在の確認がとれない厄介な相手です」
「それでこのホテルで、大量感染が起こってしまったのですか…」
「そうです…。残念ながらここでは大勢の犠牲者がでてしまいました。そして感染者には治療の目途がまったく立たなかったことから、すでに処分の決定が下されています…」
「まさか、そんなッ!?」
(じゃあ…。それじゃあ…。そういった感染者を、オレに殺せとココへ呼んだのか…)
いきなりの重すぎる話に、動揺を隠せない。そんなことを能力者とはいえ、一般人にやらせないでほしい。
「胞子に感染すると体内で発芽し、脳を侵された時点でその人は他の生き物を襲う化け物と化してしまいます…。コレは動物実験でも同様の結果がでており―」
「いや!いや路亜さん!そういうことじゃなくて…!もしや処分を、その感染者を殺させるために、オレをココへ呼んだんですかッ!?」
そう問いかけると、ずっと視線を合わせず説明を続けていた路亜さんの目が、ツイとオレに向けられる。そして真っ直ぐに、見据えられた。
その瞬間に、感じてとってしまう。あ、これは覚悟を決めてしまった者の目だと。
「お願いします…。こんなコトを、ほかの誰かになど頼みたくはありません。ですが今のわたしには、戦える力がもうない。毒にやられたせいで、カラダの神経がバカになってしまったのです…」
「……」
路亜さんがそういうのなら、それが事実なのだろう。
オレと飲んだ時の路亜さんだって、ボロボロのカラダをしていた。そして自衛隊ではそういった危険なモンスターが地上に溢れぬようにと、率先して駆除を行っていたはず。
「キノコ感染者に銃器は通用しません。脳を侵された時点で痛覚を失い、できた傷もすぐ菌糸で塞いでしまうのです」
「で、ではさっき外で見たように、焼いてしまうのは??」
「キノコ感染者を焼いてしまおうとすると、彼らは暴れてたちまち胞子を噴出させます。それが炎の上昇気流にでも乗ってしまえば、被害が周囲一帯にまで拡大してしまうでしょう」
「う、うぅむ…」
「江月さん…。それにあなたは先日、スキルの追記申請を行いましたね?そしてそのスキルは、【粘液】と【酸】。それらがあれば、キノコ感染者への対処も充分可能なはずです」
「……」
(参った。もうそこまで調べられていたとは…)
「非常に酷なお願いをしていることは、重々承知しております。ですが、これ以上の被害者を出さない為にも!どうか、どうかご協力をおねがいします!もうこの問題に対処できる力が、あなたの他にはないのですッ!!」
そうオレに向け、深々と頭をさげる路亜さん。
ということは、事故があったいう対処をしていた方たちも、すでにやられてしまったのだろうか…。
「…わかりました」
それに対し、オレはそう答えるよりほか、ないのだった。
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