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wet day

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窓から視える景色は鈍色で、昨日からずっと雨が降り続いていた。

『サァーーー…』

「今日も雨か…」
「けっこう降るわねぇ」

そして今日ウチのアパートには、先日のお礼をといって瀬来さんが訪ねて来ていた。


「この間はありがとう。ユウコもこれで安心して暮らせるって、感謝してたわ」
「そうか、三原さんも落ち着けたなら、なによりだな」

「でも流石ね、呪いを一晩で解決しちゃうなんて。…いったいどうやったの?」
「あ~、うん。そこは急所に、あの独鈷を突き立ててやったんだ」

「ふ~ん」

うむ、突き立ったのは独鈷じゃなかった気もするが、そこは誤差の範囲内だ。


『優勝!優勝です!沖縄の生んだセイレーン、萇野クレア選手が強敵を押し退け、見事勝利の栄冠を掴みとりました!!』
『『『ワァ~~!』』』

「あ、そんなことより瀬来さん。どうやら優勝者が決まったようだよ」

つけていたテレビでは、スキルトーナメントの全国大会決勝が放送されていた。

「あ~、いいわよそんなの。だって全然面白くないんだもの」
「う~む。まぁ準備期間も短ければ、スキルの分析もあったもんじゃなかったからな。そう思うのもわかるけど…」

そう、政府が大々的に盛り上げて行われたスキルトーナメントではあったものの、ルールがスキルとてんで噛み合ってなかったりで、スキルを持つ能力者からすればトンだ大会となってしまっていたのだ。

「それに優勝したこの選手だって、ぜんぜん戦ってなかったじゃない」
「う~ん、まぁ持ってるスキルが【音波】だからねぇ」

「でも逃げ回ってるだけで相手が気分悪くして棄権って…、八百長にしか視えないわよ?」
「まぁそれが【音波】のスキルだから。でもやられたら実際、ツラいと思うよ?」

「え、江月さん、音波攻撃してくるモンスターと戦ったことあるの??」

おっと、スキルトーナメントに対しては否定的な見解を述べていた瀬来さんも、オレがそんなモンスターと戦ったとなると興味を持ったようだ。

「いや、それはないよ。でも以前に、それと似た経験があったんだ」
「ふ~ん…」

そう、それはオレがソロツーリングに出かけた時の事。

交通事情をよく知らぬ道で渋滞に嵌り、長いトンネルのなかで身動きができなくなってしまったのだ。すると大型ダンプやトラックのだすエンジンの震動がトンネル内で幾重にも反響し、まるでそれで脳が揺さぶられたようになりすっかり参ってしまった。

バイクでは車のように窓を閉め反響を抑えることもできず、換気の悪いトンネルでは車の排気ガスもモロに浴びるというダブルパンチ。それらにやられ、眩暈と吐き気に襲われトンデモナイ目に遭った。

それでもなんとか耐え抜き、どうにか目を回してひっくり返る前にトンネルを抜けられた。が、あと10分もトンネルに留まっていたなら、そうなっていてもおかしくはなかったろう。

と、そういったことをかいつまんで説明すると、瀬来さんも納得し頷いてくれる。

「それじゃあ辛いわよね。じゃあスキルの音波攻撃でも、そんな風になっちゃうのね…」
「ああ。観てた限りだと、そうだと思うよ」

「じゃあ江月さんでもこの選手には勝てないか」
「いや、勝てるよ」

「え、なんでよッ!?」

そう答えると、ソコは潔く負けを認めなさいよと、頬を膨らませてみせる瀬来さん。

「ああ、ゴメン。これは言い方が悪かった。塩vs音波だったら、7割がたオレの負けだ」
「でしょ~!」

「でも粘液vs音波だったら、8割で勝てるよ」
「え、そんなに勝率が変わっちゃうの!?」

「まぁ、そこはスキルの相性だね」

うん、【塩】vs【音波】では、というか塩のスキル攻撃がほとんど反則扱いされるので、まず戦いようがない。それこそムケーレと戦った時のように岩塩ボールと化し、それで体当たりするくらいしか手がないだろう。

「じゃあなんで粘液だったら、音波に勝てるの?」
「うむ、それは粘液で音波を吸収遮断できるから、相手の攻撃をほぼ無効化出来るからさ」

そう、【粘液】vs【音波】であれば自身を、もしくは相手をまるっと粘液で覆ってしまえば、話はそれでカンタンに済む。プルプルモッチモチの粘液は、防音材としても優秀なのだ。

そして眼には視えなくても、粘液の震える様子で相手の攻撃だって読み取れる。恐らくこの優勝者と対戦した選手も、微弱な魔力でそうとは解らぬうちに音波により脳を揺さぶられ、気付いた時にはヘロヘロにされてしまったのだろう。

うむ、どんなに身体を鍛えた屈強な人間でも、脳を揺さぶられてしまえばそれでアウト。顎にいいのを貰ったのと同じように、コロッと倒れてしまうのだ。

それに加えてどんなに思考が脳筋でも、脳の40%はタンパク質で残りの60%は脂質。DHAといった青魚の脂が頭に良いというのは、脳の半分以上がそういった脂肪分で出来ているから。故にその構造上非常に揺れやすく、震動にはとても弱い。

なので自身がこれ以上の戦闘は危険と棄権を申し出た選手は、状況判断に長けた生き残れるダンジョン能力者といえるだろう。つまり引き際を弁えてる、というやつだ。

「ふ~ん。じゃあやっぱり【粘液】は、免許の時に登録しておくべきだったわね」
「ああ、オレもこの選択は失敗だったなって思ってるよ。だから【粘液】も、今度登録変更で申請しておくことにする」

「そうね、ああ私も早く行ってこないと…」
「ああ、でも面接ではマインドリーディングもされるから、嘘の申請するとバレた時マズいからね」

「うん、それは気をつける」

ま、オレはまた控えめに、【超粘液】ではなく【粘液】で申請しとくけどさ。
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