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Ministry of Peculiar Labyrinth Countermeasures

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特異迷宮対策省。それは突如世界に出現し日本にもその猛威を奮った特異迷宮に対処する為、政府によって新たに設けられた省庁。

英語表記ではMinistry of Peculiar Labyrinth Countermeasuresで、MPLCと略される。が、これは一部の自衛官が実務でその名を略す際にそう呼ぶか、アホな政治家がカメラを向けられた際に気取って使う以外には世間にまったく浸透おらず大抵はダンジョン省などと呼ばれていた。

ただこの特異迷宮対策省。設立を急いだが為に、現在も落ち着いておらず内部はガチャガチャ。とりあえず体裁を整えればいいというダメな日本人気質が、そのまま具現化した様相を呈していた。

日本政府がとりあえずの人員を確保する為にと、防衛庁と国土交通省から職員を移動させまず都合。それに一部環境省などからの人員をつぎ足すことで、一先ずの形を整えた。出だしからしてそんな感じだったので、未だ省内の足並みは揃っていなかったのだ。

特に防衛省から移ったのは、自衛隊に所属しモンスターと呼ばれる特異生物と直接戦闘を行なっていた者達。

彼らは特異生物との激しい戦闘により負傷。その怪我のため後の作戦行動が困難となり、除隊を余儀なくされた。そんな彼らの受け皿に特異迷宮対策省がなったという経緯もある。

その為、彼らは特異迷宮に対し強い危機感を抱き、常にピリピリとした雰囲気を漂わせていた。

一方で国土交通省などから上の指示で移動になった者達の士気は、非常に低かった。

そもそもその移動自体が寝耳に水の半ば強制であり、自らがすすんで移ったわけではない。故に現在の緊迫した状況にもどこか他人事のような、ノホホンとした空気すら漂わせていた。

そんな者達が、同じ職場で働いている。

すると当然そこには互いに対して、思うところが生まれてしまう。防衛省から移った者達は「アイツらはなに気の抜けた仕事をしてんだ?もっと気ぃ入れろ!」といった感情を抱き、それ以外の者達は「アイツらなに普段から熱くなってんだ?いいからもっと肩の力抜けよ」といった感情を防衛省から移った者達に抱くに至っていたのだ。

つまり要約すると、ココ空気悪くね?といった部署がソコここに出来てしまっていた。

しかし研究部統括主任の枝葉志雪紀生えだはし ゆきおは、そんななかにあってもノビノビと職務に従事していた。

それはもともと枝葉志自身がマイペースな性格だったのと、研究畑の人間は変わり者が多いと周囲から見られることがうまいことマッチした結果であったのだが。

ともかく枝葉志は持て余した暇をつぶす為、今日もフラフラと他部署へと散歩に出かける。

今いる場所は、国土交通省の建物を特異迷宮対策省が間借りしたフロア。なにぶん急ぎで設立された省庁であるのに加え、スタンピードに因って国庫は火の車。無駄に使える予算など、一円たりとてない。

そのため特異迷宮対策省の各部署は、防衛庁や国土交通省の建物の中に点在する形となっていた。そして枝葉志は研究部統括主任などという立場となってしまった為、各部署との打ち合わせや調整を行なう為にアチコチと移動する羽目になっていた。

本来は、自分でも研究に打ち込みたい。

しかし研究部統括主任などという肩書きにもっと相応しい先輩方が特異迷宮というまったく未知の研究に入れ込んでしまい、「そんな面倒なモノはおまえがやれ」と、枝葉志に押し付けられてしまったという経緯もまた。

人類にとって、特異迷宮は未知の領域。

これを研究することで大発見をすれば、間違いなく歴史に名を残せるだろう。なにせ傷がたちまちのうちに治ってしまうという、魔法のような回復薬まで開発されているのだ。ならば面倒が多い割にたいした権威でもない役職に、かかずらわっている場合ではない。

その考えにはまったく同感。だたそれでも枝葉志は、そんな面倒事をしょい込むくらいには先輩方を尊敬もしていたし、その気持ちを汲む余裕があった。それがこんな現状を生んでいた。

とはいえ各部署との打ち合わせが済めば、指示を出しあとは待つだけ…。

こんなとき研究室のある防衛省関連の建物ならソコを覗きに行けるのだが、国土交通省の建物ではそうもいかない。そこで枝葉志は、他部署に顔をだしては暇つぶしがてら冷やかしてまわっているのだった。

そうして辿り着いた先は、比較的穏やかな空気を漂わせている広報課。

「やぁ、滝山くん。お疲れさま、いよいよ明日だねェ」

その覚えのある声に、デスクでパソコンに向かっていた中年男性が顔をあげる。

「あ、どうも枝葉志主任。おつかれさまです、今日はコチラにいらしてたんですか?」
「うん、打ち合わせでね。研究部署とはいえ、色々と調整しなくちゃいけないことも多くて。それよりソッチはどう?スキルトーナメントも、いよいよ明日に迫ったじゃない?」

白衣のポケットに手をつっこんだまま、それをかるく羽ばたくよう振って見せる枝葉志。それを見て今日はずいぶんと機嫌が良さそうだと感じた滝山が、笑みを浮かべてかえす。

「まぁ大筋だけ纏めて、入札で受注するところが決まったら後はイベント運営会社に丸投げでしたから。こちらは特に苦労って程の事も、そう無かったですよ」

スキルトーナメント。特異迷宮でスキルという特殊な能力を有するようになった人間同士を、人前で戦わせるという催し。

これにより『特異迷宮能力者ってスゴイね!カッコイイね!』という風潮を生み出し、国民にすすんで特異迷宮に潜り特異生物を駆除してもらおうというのが政府の目論見。

一時はダンジョンを解放しろだなんだと騒いでいた連中も、二度のダンジョンスタンピードですっかり鳴りを潜めてしまった。恐ろしい特異生物たちの姿を目の当たりにして、萎縮してしまったせいである。

だが、このままでは日本を守りきれない。

二度のスタンピードに因って、国土を守る自衛隊はひどく損耗してしまった。もし再び、より大きなダンジョンスタンピードが起きてしまえば、その時はさらに過酷な事態に陥ってしまうことだろう。

なにせ特異迷宮は国内各地に発生し、恐ろしい特異生物たちもソコから現れる。

これが海の向こうからやってくるのであれば、何千億円とする高性能なミサイルも役に立つ。しかし国内の、しかも場所を問わず発生する特異迷宮から現れるのでは堪らない。それではミサイルどころか戦車も戦闘機すらも、まともな運用が適わないのだから。

これほど防衛泣かせの事態があるだろうか。

それ故、さらなるダンジョンスタンピードに対抗する為には国民自身の防衛力を底上げし、それにより国防力を高める必要に迫られる。つまり国民ひとりひとりに特異迷宮に潜ってもらい、再びスタンピードが起きぬよう間引きを行なってもらう。それをせねば、それこそ日本は詰んでしまう。

その為のスキルトーナメント。

ただ、これは何も防衛の為だけでない。現在の日本は、諸外国から輸出入に制限がかけられてしまっている。

資源の乏しい日本で、それはまさに由々しき事態。ひっ迫するエネルギー問題。だがこれを解決する策として期待されているのが、円運動抽出魔法陣を用いた発電。そしてその燃料となるのが、特異生物を倒した際に得られる魔石だ。

国防とエネルギー問題。その双方においても、今後は国民の協力が必要不可欠。追い詰められた日本には、もはや後がなかった。

そんな背景を言葉のウラに含みつつ、ふたりは気軽で何気ない会話を続ける。

「あ、そういえば枝葉志主任には、お気に入りの選手がいるんでしたよね?」
「うん。江月くんて言ってね。いいんだよ、彼。迷宮からとれる素材を自分で研究してたりして。ウチにもああいった実地で研究してくれる人材が、いてくれるといいんだけどね~」

「ははは、そうですか。て…あれ?その江月選手って、たしか枝葉志主任が選抜の面接を免除したんですよね?でもそのあと、コチラが送った連絡に返信のあった形跡がないですよ?」
「え、そうなの!?」

パソコンに向かいキーボートを叩き始めた滝山に対し、心配になった枝葉志もモニターを覗きこむ。

「…はい、どうやら。コレってもしかして、明日がトーナメントなのも解ってないのでは…?」
「えぇ、そんな!?ちょっと滝山くん、急いで彼に電話してあげて!」

「あ~…、どうもすいません。この件はイレギュラーだったんで、私もすっかり意識の外でした」

枝葉志の特別措置により、スキルトーナメント選抜の面接免除となっていた江月。

しかしその後の通知が通信端末にインストールされた、特異迷宮能力者専用アプリの受注案件として処理されていた為にその確認がとれないでいた。

政府から急ぎでと無理な注文をつけられ、やっつけで制作された特異迷宮能力者専用アプリ。

そのため結構な不備があり、端末側でその設定を変更しない限り特異迷宮対策省からの案件通知が表示されないのであった。。。
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