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self-control

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その日の深夜。軽バンで寝ているオレのもとへ、仁菜さんが訪ねてきた。

「コォチ、ウチどうしたらええやろか…?」


そこで寝ていた荷台から起き上がり並んでシートに座ると、きりだされた相談は弟のマサくんユキくんのことだった。

「…う~む、それは難しい問題だな。どちらにしても、メリットデメリットはありそうだ…」
「せやろぉ…」

そしてその相談内容とは、ふたりをダンジョン能力者にするか否か。

「一番のネックは、ふたりの年齢か。あの年頃の子に大きな力を持たせて、果たしてそれを自制できるかどうか…」
「そうなんよぉ…」

この問題にオレと仁菜さんは、ふたり揃ってう~んと悩みこんでしまう。そしてぷ~んと飛んできた蚊を飛んだままデコピンで粉砕し、この力について考える。

周りは田んぼ。なので当然、蚊もたくさんいる。

だが今のオレ達ならば、剣豪・宮本武蔵が箸で飛んでいる蠅を摘まみ獲ったというような芸当も、難なくできてしまう。それにそもそも、蚊の刺すような攻撃はもはやオレ達には通用しないのだ。

といっても普段は常人の3倍程度が、ダンジョン能力者の平常といえる。

なので大きなザリガニに指を挟まれれば痛いし、蛇に噛まれれば血だってでる。だからステータスに表示されるような大きな数値は、いうなれば最大出力みたいなモンだな。人間がいつもスペックの全力全開で生きていないように、ダンジョン能力者も平常時はその程度でいるのが平均らしい。

ま、百人力だからって常時百人力を出してたら、消費するエネルギーだって百人前になってしまう。それじゃあ燃費が悪すぎて、食費だってたいへんだ。

「まぁとてもじゃないが、オレ達も自制できているとは言い切れないしなぁ…」
「せやろぉ…」

「ウチらがそばにおって、あの子らをいつもみてあげれるんなら。こない悩まへんのやけど…」
「う~む…」

問題は単純、かつ不透明。

子供に管理の難しい力を持たせソレをしっかり自制して扱えるかどうかなんて、到底解りっこない。力を手にしてしまえば生まれ変わったような気分になり、すっかり舞い上がってしまう。それはつまりダンジョンで強くなったことで躁状態のまま元に戻れなかった頃の、オレだ。

手にした力。信じられないような異能。そこから溢れ出てくる自信。

そういったモノを自制し、問題が起きぬよう市井に紛れ慎ましく生きる。うん、なかなか出来る事ではない。

「またモンスターが地上に出てきたらって思うと、不安やんか…?でもそん時に下手に戦える力を持っとったら持っとったで、逃げへんで戦ってやろうっ!て、つい思ってしまうやん?」
「う~む…そうなんだよなぁ」

一般人ならば、モンスターと遭遇しても逃げの一択で済む。

まぁ逃げられなくてどうしても戦わなくては!なんてことも起こりうるけど。しかしダンジョン能力者であれば、戦うか逃げるかの二択。そして力を持つ者の思考で、ならまずは戦うか…とつい考えてしまう。

ダンジョンスタンピード第二波の時には、大勢のダンジョン能力者が集まっていたにも関わらず全滅という場面にも出くわした。そういった事も考えると、危ないからただ力を持たせればいいという考え方も、また危険だ。

「ふたりとも仁菜さんに似て、歳の割に賢い子達だ。でも力を手にした時、その心境の変化でどう変わるかは解らない。なのでどうだろう?ここにいる間に、雛形くんから合気道を学ぶというのは」
「え、結月ちゃんから?」

「そう。シャークもまぁ相変わらずだけど、合気道を学んだことで、すこしは落ち着きがみられるようになっただろ?だからいきなり力を与えてしまうのではなくて、段階的に様子をみてはどうだかな?幸い合気道は、守勢を旨とする。そんな武道から入るのなら、ふたりもそう好戦的な性格には育たないと思うけど?」

すると仁菜さんは今までの悩み顔から真剣に思案する顔になり、その細い顎の先にこれまた細く綺麗な指をあて考え始めた。

「そう…やね…。ウチもいっしょにいる間にどうにかせんとって、焦ってたのかもしれん。能力者にならんでも、しっかり地力をつけとったら、どうにかできることもあるもんな」
「そうさ。テレビで観た力士たちも、しっかりと日頃の稽古を積んでいたからこそ、ダンジョン能力者になった途端あんな風にとんでもない力を発揮するようになったんだろうし」

うん。オレが視た限りでも、聖力士と化したお相撲さんたちは人間の壁をかるく超えていた。

そう、あの上限500の壁だ。それが神的な存在からのバフなのなんなのかは不明だが、恐らくは成長限界に達してしまったであろう自衛官たちより、強力な存在なのは間違いない。

「せやね。明日にでもふたりに話して、結月ちゃんにもお願いしてみるわ」
「ああ、そうするといいよ。きっと結月ちゃんも快く引き受けてくれるだろう」

うん、もしダメでもあの子ってば、ピクシーをダシにすれば大抵の事は引き受けてくれそうだし。

「ハァ、これで安心して眠れるわ。コォチ…、相談に乗ってくれてありがとなぁ」


そう話しつつ助手席を降りた仁菜さん。すると車の前をまわって運転席側にくると、頬にキスというプレゼントをくれ新宅へと戻っていった。

うむむ、よほど弟くんたちのことが心配だったらしい。ホント、家族思いのいいお姉さんだな。
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