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バッティングセンターを出た野球帽に口髭グラサンのおじさんは、高級外車へと歩いていく。

八重樫小五郎やえがし こごろう

彼は名の知られた敏腕プロデューサーとして、テレビ業界では成功者に数えられていた。だが、八重樫自身はそんな評価に鼻白んで苦笑をみせる。なぜならその評価は、彼を詳しく知る者の評価ではないからだ。

運転席に乗り込むとエンジンをかけ、車のスピーカーからスローテンポな品の良いジャズを流す。若作りして流行の曲を聴いているよりも、こういったモノの方がウケがいいかもと聴きはじめたが、それも今では気に入っている。

電話をかけ部下に取材班の空いているスケジュールを確認するよう伝えると、先ほど話した内容を忘れぬよう手帳にメモをとり始めた。

「ふふ、しかしあんな年頃の子達が化け物と戦うなんて、とんでもない時代になったものだな。だがま、俺が部長なんて職におさまってるんだから、世の中なにが起きるか解らんか…」

そうして若者たちと出会ったことで、自身の若かりし頃をふと思い出す。

グズの八重カス。AD時代にはよくそう怒鳴られて、何度ケツを蹴られたことか。そして上司は当然のこととしてタレントに、そのマネージャーに。苦情や嫌味を言われ頭をさげない日なんてないといった毎日だった。

『もっと手際よく!もっと要領よくやれよ!』

幾度となく、そう言われたモノ。

だがそうして手際よく要領よくやっていった者達から、なぜか八重樫よりも先に消えていった。ある者はより高みを目指して他局へ転職したり、ある者は出世したことで権力に溺れ、職権を乱用し自滅していった。

そう、だからなんのことはない。八重樫が今の地位にいるのは、上がいなくなり単に繰り上がっただけのこと。

そして長年番組作りに携わっていれば、どういうわけか時流に乗ってブレイクする番組が出てきたりするもの。そういったことが偶々続いただけのことで、それを自分の実力だなどと八重樫はまるで思っていなかった。

なぜならそういった番組の陰には、鳴かず飛ばずで終わった数多くの番組もまたあったからだ。

しかしそんな八重樫の飄々とした態度が、過去を知らない人達からすれば実力を鼻にかけない気さくな人物として映り、それがまた八重樫の評価に繋がっていったのはいったいなんの皮肉か。

ともかく八重樫は自分に才能のないことは解っていたので部下となった若手の意見をよく聞き、それを番組作りに活かすことでさらに人気番組を連発するようになっていった。

だから昔をよく知る数少なくなった仕事仲間と酒を酌み交わす時には、「昔は一番バカだグズだとケツを蹴られていたのに、なんだか不思議なモンだよなぁ」と首を傾げて苦笑しあうのだった。

「にしても、探していた子があんなに幼い感じの子だったとは…」

ダンジョンで得た身体能力によりホームランの連発する美少女とは、糧品瑠羽という高校生よりも幼く見える女子大生だった。

「ふぅむ…予想とはちがった。だがJrたちと絡ませるには、逆にその方がいいかもしれん。同年代や年上異性との絡みは、ファンが嫌がるからな。そうだ。彼女の見た目なら妹ポジションでも充分通じる…。それで何かしらのチャレンジでグダグダになっても『もう、しっかりしてよお兄ちゃんたち!』でオチがつけられる。うん、うん、コレはいいぞ…」

自身の頭の中で番組を構成していき、何度も頷いて考えをまとめる八重樫。

そんな様子を「あれ?あのおじさんまだ駐車場にいるねぇ」などとバッティングセンターから出てきた女子高生たちが見かけるのだった。
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