上 下
406 / 613

negotiation

しおりを挟む
「こっちこっち!」

背の高くしっかりと日に焼けた女子高生が仲間を呼ぶ。

するとすぐにはじめの女子高生と似た雰囲気の女子高生らが現れ、バッティングセンター内に立ち入るとまっすぐ小柄な少女のもとへ向かっていく。

(ん、これは不味いか…)

いくらホームランを連発する運動神経抜群の少女でも、自分より背も高く年齢も上の者達に取り囲まれては竦み上がってしまうのでは。そう考え、オッチャンは座っていた椅子から腰を浮かしかけた。

「あ、あなたたちはるりちゃんと同じ学校の…?」
「「「はい!その節はありがとうございました!」」」

しかし糧品瑠羽を取り囲んだ日焼け女子高生たちは大きな声でお礼を述べたうえ、前傾90度の見事なお辞儀もしてみせたので、オッチャンの出番はまるでなかった。

「あ、うん…。どういたしまして?」

しかしこの子達と話したことは無いので、瑠羽自身には面識もほとんどない。

学校の門を警備してただろうから、姿をみかけたことはあったかもという程度。なのでただダンジョンスタンピード第二波の時には、たくさんの避難者を連れて行っちゃって申し訳なかったなという気持ちの方が大きかった。

「それで、今日はご相談というか、お願いがあってきたんですけど…」
「おねがい…?」

5人の女子高生が並び、そのなかで頭ひとつ背の高い子が代表して話し出したのに瑠羽はコテンと首を傾げる。

(なんだろう?万智ちゃんや静ちゃんにお願いだったら解るけど。一番頼りない私にって、いったいなんのお願いだと思う?)
(ホ~ムラ~ン?)

「…あの!わたしたち、どうしてもフェアリーナイトになりたいんです!」
「でも!万智おねえさまは忙しいみたいで、なかなか指導してもらえなくて…」

「それに利賀さんの指導は、あの、なんていうか兵隊みたいで…。その、ちょっと、違うかなって…」

リーダーらしい子が話し出したものの二の句が告げられないでいるのに焦れたのか、ほかの子達が堰を切ったように話し始める。

(ああ…、万智ちゃん。それにるりちゃんも…)

瑠羽もフェアリーナイトの話は聞いていた。そしてダンジョンでステータスを取得させた子達の訓練に、るりちゃんが手を焼いていたことも。

そこでコーチが一計を案じ、そんな子達の前でピクシークィーンを神秘的に降臨させてみせたという。そしてその驚きと興奮を、訓練に身が入るよう点火剤にしたのだと話していた。

でも、いま瑠羽の目の前にいるのは、そんな薬が効き過ぎちゃった子達らしい。

しかし思春期の多感な時期にそんな超絶神秘を間近で見せられては、すっかりそれに入れ込んでしまったとしても無理からぬこと。瑠羽がコーチに惚れたのだって強くて優しいだけじゃなく、どこか底の知れない部分をすごく神秘的に感じたからでもあった。

そしてそれとは別に、万智が学校にいた際にはノリノリで女子高生たちを指導していたにも関わらず、その後はほったらかしにしていたことも知っていた。

その後、連絡先を交換した女子生徒から頻繁に指導のお願いがあったものの、「あの時は流れで指導したけど、わざわざコッチから出向いて指導するってものねェ~」と、持ち前の気まぐれさと飽きっぽさを発揮していたのだった。

(コーチが能力値には一風変わったモノもあるって話してたけど…、万智ちゃんは絶対に気まぐれさと飽きっぽさはダントツだよね…)
(ホームラン!)

(でもどうしよう。私に指導なんてできないし…)
(ホ~ム…、ホームラン?)

(え、同じ人間に学んでて、一番勉強してるのはワタシ?なら一番指導者に向いてるんじゃないかって??)
(ホームラン!)

(そっか…、そうだよね。それに親友なんだから、親友のしたことのフォローもしてあげないとだよね)
(ホームラン!)

「あ、あのそれで…、すこしでもいいんで、指導してもらえないでしょうか」
「「「おねがいします!」」」

「あ、えと、じゃあそういうことなら―」

と、そこへバッティングセンターへふらりと入ってきたおじさんが、場の空気も読まずに話しかけてきた。

「ああキミたち。ちょっといいかな。ココにホームランを連発するダンジョン能力者の女の子がいるって聞いて来たんだが、なにか知ってるかい?」

その言葉に糧品瑠羽と女子高生たちが目を向けると、そこには赤い野球帽に口髭グラサンという恰幅の良いおじさんの姿。

はたして糧品瑠羽を探すこのおじさんの正体とはいったい…。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

処理中です...