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ウェルカム囲炉裏端

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母屋に案内され、土間にて瀬来さんのお爺さんを紹介してもらう。

アイボリーの作業着を身に纏い、農協の帽子を被ったどっからどうみても農戦士なお爺さん。土の匂いの薫るなんとも温和そうな顔立ちだが、少し厳しそうにもみえるかな。そして小柄でも足腰はしっかりとしており、腰も曲がっていない。

てか、このお爺さんもダンジョン能力者じゃね?

「おじいちゃん、こっちのおっきな男の人が江月さんで、こっちがシズね」
「「はじめまして」」

「万智の友達け?よぉ来なすった。いま茶ぁ淹れるでな」
「大丈夫よおじいちゃん、そういうの私がやるから。それよりホントにどこも怪我してない??」

「なんもね。タロが勇んでくれたでな。ありゃ良い犬だ」
「そっか~、タロがおじいちゃんを守ってくれてたんだ。ありがとねタロ~ッ!!」

そう言うと瀬来さんは土間の端に座りハッハしていた犬を呼び、その首を抱いてワシワシ撫でる。

うむ、以心伝心。魚心あればウォーターハート。自分達の面倒をみるために残ってくれたお爺さんを、犬の方でも懸命に守ろうとしたのだな。

うん。ていうかこの犬、ものすごく賢そう。さっきもなんの指示もされた風でもないのに、綺麗に鶏を小屋に誘導してたし。なんていうか、難しい漢字の技名でも噛まずに言えそうなくらい賢そうだ。

で、これまた趣満点の囲炉裏端でティータイム。

うむ、まさにタイムスリップ感が満点。そこには電化製品の類はひとつも見当たらず、かろうじて電気照明と黒電話が置いてある程度。これは時間の停止っぷりが、仁菜さんの住んでるすみれ荘と同レベルだな。

「だからね?おじいちゃんが倒してたのは猿じゃなくて、モンスターなのよ」
「もんすた…?ありゃ、どう見ても猿じゃろ??」

「だからちがうのよぉ~~ッ」

う~む、しかしお爺さんへのダンジョンについての説明は難航していた。

別にお爺さんがボケてるとかそういうのじゃなくて、単純に理解の範疇を越えてるのだろう。テレビやラジオも一切興味ないってタイプの人みたいだし。

あ~、それにしても熱く淹れてくれたビワの葉茶が美味しい。

囲炉裏に下げられた鉄瓶で煮出したから、これは鉄分もたいへん豊富で健康にも非常にグッド。世情には疎い感じのお爺さんだが、このビワの葉茶もお爺さんの手作りだそうな。

庭には深く掘ったという井戸もあるし、畑には丹精込めた野菜がたくさん。とするとこれはもう、ほぼ完全に自給自足で賄えているといっていい。

ほんと、籠城するにはもってこいの場所。お爺さんが独りでも無事だった理由は、こういう地の利があったからだな。

「う~ん…あ、そうだ!おじいちゃん、昔私に山に入っちゃいけないって言ってたよね?その理由ってなんだった??」
「んぁ?そりゃおめぇ…山には神隠しの祠があって、入ると二度と帰ってこれなくなるでな」

「そうソレッ!いま日本には神隠しの祠がたくさん生まれててね、そこから出てきた魔物があの猿なんだよ!」
「そ、そりゃおめぇ、なんだ…」

お、どうやら瀬来さんが巧い糸口を掴んで切り込んだぞ。神隠しの祠なんてのは子供が山に入らないようにする理由として使ってたんだろうから、お爺さんもその返答に困っている。

「だからあの質の悪い猿もホントは猿じゃなくて、ゴブリンていう魔物なの」
「う~む…、するとありゃ本当に猿でねぇだか??」

「猿に化けてる魔物やねぇ。妖怪には化け猿や、猿に似た鵺なんていうんも、おるんやろ?」
「そうだなぁ。まぁ山ゴブリンしか視たことがないのなら、猿と勘違いしてもおかしくはないが…。で、お爺さん、どこかでなかの光ってる洞窟に入ったりしませんでした?」

うむ、犬のタロと同じように瀬来さんのお爺さんもステータスを取得したダンジョン能力者。

歳の割に動きがやたらスムーズだし、かなりシャキッとしている。なによりオレのオーラ視でも、ダンジョン能力者特有の魔力の気配を感じる。

「ん~…、そいやいつだったかの。山さ入った時に、足とられて滑り落ちた先がそげな穴だったかもしれん。あん時は尻さ強く打ってなぁ…。タロがおらんかったら帰れんとこやった」
「ソレだァ!それだよおじいちゃんッ!」

ビンゴ。瀬来さんのお爺さんとタロは、その時にステータスを取得したのだな。

その後は飼ってる鶏や鯉を狙ってやってきた山ゴブリンを猿と勘違いしたまま駆除していて、知らぬ間に能力があがったのだろう。大きな重機と違って、トラクターくらいなら倒したモンスターの生命エナジーを取得できる高さだもんな。

「はぁ~良かった、そういうことだったのか~」
「良かったなぁ万智」

うん、瀬来さんもこれで納得が出来たようで、安堵の表情を浮かべている。

まぁ電話線なんかは山ゴブリンがイタズラして、断線させてしまったようだ。さっき黒電話を確認してみたが、完全に沈黙していた。

仁菜さんに言うには受話器を耳にあてて何か音がしていると、その電話が生きてる証拠らしい。へぇ~良く知ってるよねそんなこと。なんて思ったけど、すみれ荘の玄関にあったあの黒電話。現在でも普通に使えるそうな。

て、アレも健在だったのか、スゲェな。なんかそっちの方が驚きだよ。

とはいえこれでお爺さんの無事が確認できた。じゃあお腹も減ったし、そろそろ飯の支度でも致しましょうかね。
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