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ダンジョンスタンピード第二波 震動

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「(おはヨ~ございます…。くんかくんか…ぐふっ!)」

なんてな、冗談冗談。

いくらオレでもこんな非常時にそんなことしないよ。ただ初めてラブホテルなんかに入ったもんだから、チラとそんなことを思ったりしただけだ。

現に今のオレは、3人の眠るベッドからは離れたソファーに腰を下ろしている。

ここで様々な思考に時間を費やしたり、背中や腰の粘液を湿布みたいな冷たいモノに置き換えたりして体調の回復に努めているのだ。

…。

「ん…なん?どないなっとるん…?」
「おはよ、仁菜さん。心配しなくても大丈夫だよ」

12時半。昼を過ぎて、ようやく仁菜さんが眼を覚ました。

先ほどからしきりに寝返りを打っていたのでそろそろ起きるかな~なんて見守っていたが、起きると同時に場所が見慣れぬ室内なのを不思議に感じている様子だ。

「ん、あれ…スーツのままなん?」

手を顔に持っていき、指がスーツに覆われていることに気付いた仁菜さんが寝起きの目を擦れずに困っている。どれ、いまジイが濡れたおしぼりを持って参りますよお嬢様。

「はい、ジッとして…」
「あ、りがとぉコォチ…」

目元をおしぼりで拭ってあげると、顎をあげされるがままにジッとしている。そういえばマスクを被るために後頭部に結んだお団子がそのままで、寝苦しくはなかったろうか?

「よく眠れた?」
「うん。…何時間くらい寝とった?」

「丸一日近く、でもそれくらいで済んで良かったよ。下手したら3日くらい寝込んでしまうかも、と心配してたから」
「そやったんやぁ。みんなも無事で…ずっと守ってくれとったんやね、ありがとぉ…」

まだ眠っている瑠羽と瀬来さんに視線を向けた仁菜さんが、状況を把握できたようでこちらに手を伸ばしてくる。それに応えて頬を触れあわせる抱擁をすると、魔力を流してスーツを緩めてあげる。

「ここはひとまず安全だから、熱いシャワーでも浴びて目を覚ましてくるといいよ」
「うん…、ほんならそうさせてもらうわぁ」

スーツの背中が割れ、まるで羽化でもするようにして仁菜さんの白く輝くような裸体が現れる。その肌は潤滑の為の粘液に塗れているので、本当に羽化をしているようだ。

「よ…しっかり立てるよね?濃い生命エナジーが直接能力値に影響を及ぼしているはずだから、力の加減には気を付けてね」
「おおきに…、ほな眼ぇ覚ましてくるな」


「ん…ッ、んぅ…ッ!」
「おぼれるぅ…おぼれちゃう!」

仁菜さんをエスコートしてバスルームから戻ると、話し声で目が覚めてきたのか瑠羽と瀬来さんも起きる兆候を見せていた。

小動物のようにまるまった姿勢でピクピクしている瑠羽に、溺れる夢でも視ているのか懸命に手を伸ばして空を掴もうとする瀬来さん…。おっと、加減が解らずに変なモノでも掴んでしまっては大変だ。

『『『ブラバババババババ…ッ!!!!』』』

と、突如として響く轟音。それと同時に建物全体がビリビリと激しい振動で震えはじめる。

(なんだ…ッ!?)

咄嗟に姿勢を低くしてまだベッドで寝ている瑠羽たちを庇おうと近づくが、その途中で轟音の正体がヘリであろうと感付いた。

「うぅ…ッ!」
「なに…?」

「ふたりとも起きて!」

「コォチ、なんなんこれ!?」
「たぶんヘリだ。しかもかなり低く飛んでる…。そのせいで建物が震動してるんだろう」

「ちょッ、どないするん!?」
「外の様子をみてくる!仁菜さん悪いけどシャワーは切り上げて!」

バスルームから濡れた髪のまま顔をみせた仁菜さんに返事をかえすと、蟲王マスクを手に部屋を飛び出す。

この状況下で飛行しているヘリなんて、まず自衛隊機しかいないだろう。ただ建物が激しく震動してしまうほどに低く飛んでいることに、嫌な違和感を感じざるを得ない。

ならばここは、一体なにが起きているのかを確認しておくべきだろう…。


…。


『『『ブラバババババババ…ッ!!!!』』』

ラブホテルの外へと出ると、影を落として頭上をヘリが通過してゆく。

丸い、いわゆるヘリコプターといった形のヘリ。たぶんUHなんちゃらとかいう型式だったと思う。しかしかなり低い高度だ…。あと少し下げてしまえば電線に触れてしまうような低さで、ヘリは飛んでいる。

だが速度は出ておらず、まるで獲物にソロソロと近づくかのようにしてゆっくりと進んでいく。それに対し『いったい何をしているんだ?』と小首を傾げていると、いきなりヘリから機関銃が発砲された。

『ヅパパパパパッ!パパパッ!ヅドパパパパパッ…!!』

(マジか!?今まで頑なに市街地での発砲を控えていた自衛隊が、こんな街のど真ん中で戦争映画みたいな真似をするなんて…。それだけなりふり構っていられないという事か!)

ドアガン射撃を行うヘリからは真鍮製の灼けた薬莢がヂャリヂャリと降ってきて、アスファルトや車のボンネットに落ちてはキンキン跳ね散っている。

ダンジョンからモンスターが溢れ出てきたことも異常事態。だが、自衛隊のヘリが日本の街中で機関銃をブッ放すというのは、本当に在り得ない事態。

その様子を歩道の緑地に身を隠しながら見上げ、普段ものすごく真面目で大人しい人物が突然キレて暴れ出してしまったような空恐ろしさを感じ、背筋が寒くなった。

(む、だがあれは…?)

とはいえ一体何を攻撃しているのかと首を伸ばして覗いてみると、そこには着弾にその身を削り散らされてる巨大黒蜘蛛の亡骸が…。

(え、いったいどういうことだ…?)

巨大黒蜘蛛はオレ達が倒したことで、とうにひっくり返った状態で骸を晒している。だというのになぜああまでして執拗に攻撃を行なっているのか。

などと考えていると自衛隊ヘリは発砲を止め、急に上昇して離れていく。

しかし二秒と経たずに『バシュウゥーッ!』と空気を切り裂くような音がしたと思ったら、次の瞬間には巨大黒蜘蛛が『ズバムッ!!』と爆発し巨大な火柱が上がる。

30メートル以上離れているというのに、激しい衝撃と腹に響く震動が伝わってくる。

『『『ババババババババ…ッ!!!』』』

そしてビルとビルの合間を縫って、白煙の尾を引く戦闘ヘリの姿が通り過ぎて行った。

(な!…ヒューイコブラ!?あんなのどっから飛んできたんだ!?)

目に視えるのは、まるで怪獣映画の世界。巨大黒蜘蛛はあの対戦車ヘリコプターに装備されていたロケット弾か対地ミサイルを浴びて、爆発炎上したのだ。

『『『きゅボンッ!ぼぉぉおおおぉぉおぉぉ…ッ!』』』
「あ…」

自衛隊ヘリの攻撃であがった炎。それに色々と漏れていたスーパーが引火してしまった。しかも充満していたガスのせいで大爆発。黒い煙が沸き起こり、たちまち周囲を飲み込んでいく。

マズイ、このままじゃ火事に巻き込まれてしまう。早くこの場を逃れよう。

『『『コォォォォォォオォォォォォォ……!』』』

そんな逃げる最中にも空気を震わせる轟音が上空に響き、見上げると戦闘機が凄まじい速さで空を駆け抜けていく。

(まさか、アレは米軍機…?横須賀の空母からか!?)

自衛隊のヘリもあり得ないと思ったが、まさか都内の上空を米軍の戦闘機が飛んでいるとは。さすがに攻撃まではしないよな…??

…。

そんなひっちゃかめっちゃかの事態に面喰いつつもラブホテルへと戻ると、なぜか玄関を塞ぐようにして黒い車が横付けされていた。

(ん、なんだこの車?さっきまでなかったのに…。まぁいい、ともかく早く移動しないと)

と、急いで部屋に戻ってみると、なぜか扉に鍵がかけられていて開かない。

(あれ、部屋を間違えたかな?って違うな…)

オーラを放って気配を探ると、室内には瑠羽たちの他にも人の気配が。

「(ちょっとぉ!あなたたち誰ッ!?)」

「(ほら、助けてやるから安心しろって!)」
「(そうそう!女の子だけじゃ危ないだろ?俺達が守ってやるよ)」

なんだ?感知した侵入者は…男4人の模様。それに瀬来さんがキツイ口調で誰何している。

「(近づかないでよ!私たちを守ってくれてる人が戻って来たら、承知しないわよ!」

「(男?…そんなのはもう戻ってこないさ。なぁ)」
「(ああ。だから俺達の言う通りにすればいいんだよ)」

ふぅむ…、どうやら善意の一般人という訳ではなさそうだ。

あのガラの悪い車も、玄関を塞ぐように停めてあったしな。どうもオレ達が這う這うの態でここに逃げ込むのを見かけて、隙を狙っていたのだろう。で、オレが出て行ったのを視てチャンスとばかりに襲いに来たと…。

どうもコイツ等はホテルに逃げ込むとこだけを視て、オレ達が巨大黒蜘蛛を倒すほどのダンジョン能力者だとは解っていないらしい。しかしまぁ、姿を視て解らないもんかね…。

(ああまったく、こんな非常時に何をしてるんだかこのバカどもは!)

オーラを操り、念動サイコキネシスで扉の鍵を開ける。それはスキルを魔力で操るダンジョン能力者のオレにとっては、もはや造作もない事。コツは力のかけにくい鍵穴ではなく、扉裏のつまみを対象に力を加えること。

「ほら、いいからおとなしくしろ!」
「触らないでッ!」

『バキッ!』
「ぎゃあッ!」

鍵を解除し部屋に入ると、ちょうど手を伸ばした男の腕をベットの上にいる瀬来さんがチョップでへし折るところだった。

うんうん、ダメだよ無理強いは。

瀬来さんは数々の恋愛トラブルやストーカー問題で酷い男性不信になっている。そんな彼女にもの凄く気を遣って接してるオレですら、機嫌の悪い時は持て余すんだから。だから乱暴に言う事を聞かせようなんてしたら、腕くらいへし折られても仕方ない。

「このアマァ!」
「やりやがったな!」

はいはい、おまえらのそんな糞雑魚ムーブなんざ見たくもない。

「ザ・ミューカス!」
「「「むぐぐぅ…ッ!?」」」

生み出した粘液で暴漢ども頭からスッポリ絡め取ると、纏めて廊下へと放り出す。

『『『ドカッ!バキッ!ぐしゃ!』』』

おっと、さすがに4人いっぺんは無理があったか?扉の鉄枠に肩とか脛が当たって、だいぶ酷い音がしたな。

「コーチッ!」
「江月さんッ!」

「うん、外は爆発が起きたりして大変な事になってるよ。急いでここを出るから準備して!」
「「はいっ!」」

返事をするふたりに頷き返すと、捕えた暴漢4人をずるずると引き摺っていき非常口から外へと投げ捨てる。

『『『ドカッ!バキッ!ぐしゃ!』』』

ん?またけっこういい音したな。ああここ2階だったか、忘れてたよ。

「「「ガゥッ!ギャワゥ!!」」」
『『『ガツガツ!』』』

さらに下にはモンスターまでいた模様。ああ、それも気付かなかったよ。こりゃまた失礼…。

そうして部屋に戻ると、3人とも万端準備を整え待っていた。

「みんな、近くで火の手が上がってるから急いでここを離れよう」
「江月さん…、あの連中は?」

「ああ、すこしお仕置きして解放してやったよ」
「そうなんだ…」

「だいじょうぶ、もう付きまとって追って来たりはしないから」
「そう…、ならいい」

ヤツ等を粘液で締め上げて窒息させ、あちこち打撲させたうえ2階から放り出すトコまでがお仕置き。

その後の事は…、まぁオレのあずかり知る所ではないのだ。
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