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ダンジョンスタンピード第二波 神代
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午後3時。
また雨脚が強くなった。ゲリラ豪雨のように強い雨…。そんな雨に降られてしまったオレ達は坂の上にあった神社に避難し、そこでしばらく雨宿りをさせてもらっていた。
避難先は高床式の本殿。その床下に粘液ドームで休憩スペースを確保。境内にも樹木を利用して粘液テントを張り、巨大化した塩太郎と運んできた巨大赤蠍の外殻を雨から守っている。
うん…巨大赤蠍のドロップ。
非常にデカイので運搬が大変。しかも大きいのと多過ぎでオレの空間庫には納まりきらず、さりとて非常に質の高い外殻なので、『これを捨てるなんてとんでもない!』との板挟みに遭っている。
そこで構築した空間庫から荷物を一度全部出すと、空間庫を再構築する形で容量アップを行なっている。今ならば巨大赤蠍から得た生命エナジーもあるので、より大きな空間庫を生み出すのも問題ない。従来の3立方mな空間庫を、出来たら5立方mくらいにはしたいものだ。
「あ~疲れたぁ~。もぉ足が棒…、クタクタだよぉ~…」
マスクだけを外した状態の瀬来さんは、粘液ドームのなかで仰向けに転がって手足をぷるぷると振っている。ごめんよ、疲れてるところに赤蠍外殻を運ぶのまで手伝ってもらって。
「ほら、瑠羽ちゃん。珈琲入れたでぇ」
「うん、ありがとう」
仁菜さんと瑠羽もスーツ姿だが、マスクは外して寛いでいる。神社の境内には樹木が多いのにモンスターの姿はなく、そのため安心して休めている。あれかな、神社に祭られている神の神気がモンスターを遠ざけてるとか?
「コーチ、ここに珈琲置いておきますね」
「ああ、ありがとう…」
オレはというと半瞑想状態というか、空間庫の再構築中なので今は座禅をしたまま動けない。
というのも【空間】のスキルを使う時は、事故や失敗があると大変なのでいつも慎重に行っている。なぜならば空間なんていうのは、普通には全く干渉できないようなシロモノ。もし空間というモノに対して何か物理学的に干渉をしようとしたならば、それこそブラックホールとかホワイトホールとか…ともかく超重力的な要素が必要になってくるって話だ。
だからそれを無闇やたらと『スキルだからなんだってアリ』みたいに考え安易に使ってしまうのは、非常に危険なことだと考えている。
だって、干渉するには超重力が必要ってなシロモノよ?人間ひとりが練り上げられる魔力だけでどうこうできるというのは、どう考えても必要なエネルギー量が足りないように思う。
だが…その一方でこの世界に散らばる伝説上の魔法やらマジックアイテムにも、そういった物理法則をガン無視したモノがゴロゴロしてるのも確か。
例えば西遊記の孫悟空。彼の持つ『如意棒』は、質量保存の法則を無視してどれだけ長くも短くもなるそうな。しかもサイズが変わっても、その硬さは変わらないという。またその物語の中で敵として登場する妖怪、金角銀角の持つ『紫金紅葫蘆(しきんこうころ)』という瓢箪は、呼びかけた相手が返事をすると中に吸い込み溶かしてしまうというエグい武器。これも『紫金紅葫蘆(しきんこうころ)』自体は普通の瓢箪サイズらしいので、質量保存の法則をガン無視である。
他にも有名なのでいえば『三枚のお札』なんてのがある。
これは要約すると小坊主が三枚のお札を使って鬼婆から逃げてくる話だが、そのお札が万能すぎ。『小坊主の代わりに返事はするわ、大きな川になるわ、山火事になるわ』の大活躍。たぶんだがこの霊験あらたかなお札を三枚同時に使って『あの鬼婆を滅せよ!』とか命じたなら、なんの法力も持たない小坊主であったとしても、恐ろしい鬼婆を倒せるほどの性能だった事だろう。
だがそれでは話がつまらないので、最後はお寺の和尚さんと鬼婆による直接対決が待っている。しかしそれも頓智勝負で和尚さんが鬼婆を小さな豆に化けさせると、それを食って倒してしまうというオチ。
うん…まぁ内容はともかく、コレも質量保存の法則とかをガン無視のオンパレード。だからそういうファンタジーな視点で視るならば、あんまり科学科学と肩肘張って考えるのも良くないのかもしれないとも思う。
ま、それでもよく解らないモノだ。慎重に扱うに越したことはないだろう。
ちなみにこの『三枚のお札』の話も、伊邪那岐命の黄泉国探訪が元ネタらしい。ほんと、話がすごく酷似してるし。
黄泉の国に死んだ妻、伊邪那美命に会いに行く伊邪那岐命。
でも『待っててね』って言われたのを待てずに覗きに行ってしまい、死に腐れた姿を視られた妻は憤慨。『約束も守れない男ってサイテー!』と、黄泉の軍勢を差し向けいきなり夫を殺しにかかる。『自分も死んだから、このさい夫も殺してしまえ』のブッ飛び論法だ。
でも夫である伊邪那岐命も、妻が死ぬ原因として生まれてきた火之迦具土神を、『おまえ何してくれてんねん!』と斬り殺しているので、揃いも揃ってとんだDQN夫婦である。
流石にこれには『神なのにそんな事態も想定できなかったのかよ!』と、盛大にツッコミを入れたいところ。
だがこの二柱は子供の作り方も知らないで『あのぉ~、そういえば子供ってどうやって作るんでしたっけ…?』などと天界の神々に訊きに戻るくらい頭の方はアレな感じ。それこそ生命誕生パワー極振りで、それ以外はからっきしだった模様。
まぁそれはともかく、黄泉の軍勢から逃れるため伊邪那岐命は、『髪飾りが葡萄に、櫛が筍に、途中に生えていた桃の木の実』と色々投げつけ難を振り切った。これを口伝で伝えるうちに情報が劣化したのか、もしくは子供でも解りやすく改変したのが『三枚のお札』というお話であろう。
ン…と、そろそろ空間庫の再構築が終わりそうだ。でも、よく考えたらコレって神社で思うような事じゃないよな。それこそ罰でもあたらなきゃいいけど…。
…。
『サァーー……ッ』
「静かやねぇ。こうしてると、キャンプにでも来とるみたいやん」
降りしきる雨の景色に眼を向け、仁菜さんが寛いだ様子で口を開く。
「うん、ここに神社があって良かったね」
「ほんと、助かったよぉ。そういえばなんて神さまが祭られてるんだろうね?」
「たしか大国主命って、書いてあったよ?」
「へぇ~、ルウはどんな神さまだか知ってる?」
「ううん、知らない」
美人女子大生3人は輪になって話しているが、大国主命については知らないようだ。惜しい、3人寄れば文殊の知恵というのに。
「江月さんなら、なんか知ってそうだよね?」
「ん?まぁ、そうだな…」
オレはアニメ、ゲームが専門分野であるが、そういった神話をテーマにしたモノも多少は知っている。まぁ俄と馬鹿にされない為に調べたりもしたから。それにファンタジーファンとしてそれなりに知識はある方だと自負している。
「ウチは少しだけ知っとるよ。因幡の白ウサギやろ?」
「お、仁菜さんは知ってたか。さすが博識だね」
「そないなことないてぇ」
「え、なになにズルい!私にも教えてよぉ!」
「ははは、そうか。じゃあ…」
ふむ…、では知りたがりの瀬来さんの為に、少々授業の時間を設けるか。
「むか~しむかし、小さな隠岐島に住んでいたお調子者の白ウサギは、ずっと大きな因幡国に行ってみたいと思っていました…」
『あ~あ、ちっちゃな島じゃつまんないな。あ、そうだ!海にたくさんいる鮫たちを並べて、その背を渡ってやれば…。キシシシ…!ねぇねぇ!シャーク!シャークってば!お~い!』
『ん…なんだよ万智?』
「ちょっとぉ!なんで私が白ウサギになってるのぉ!?」
「いや、その方が解りやすいと思って」
「ははは、ええやん。万智に似合おうとるよ」
「じゃいいわよ。次、話聞かせて!」
『ねぇねぇシャーク。あんたの一族と私の一族、どっちが多いか勝負しましょ!』
『なんだよソレ…。でも、いいぜ。ぜったい万智には負けねぇ!』
『じゃあ、アッチの島までズラッと並んでごらんなさいよ!私がその上を歩いて数えてあげるから』
『解った。おじさん!賢治兄ぃ!それから親父たちも集まってくれ!』
「鮫を騙くらかして因幡国へと行こうとした白ウサギ。ですが事がうまく運びすぎたことで調子に乗り、渡りきる前についそのことを鮫たちにバラしてしまいます」
『シャークのば~か!や~い、だまされてんの~!私は島から出たかっただけだもんね~!』
『てめぇ万智!もう許さねぇ!オラァ!』
『ぎゃあああ!』
「こうして鮫を欺いた白ウサギですが、その報復として毛皮を剥かれてしまいました」
「私ひどッ!」
「万智ちゃん、嘘はダメだよ…」
「せやなぁ…」
「と、そんなズル剥けになった白ウサギの前に、ガラの悪い八十神(やそがみ)たちがゾロゾロとやって来ました」
『ひ~ん!痛い!痛いよぉ~!』
『ギャハハハ!お前酷くネ?ズル剥けとかマジウケる!』
『あ、俺ソレ治す方法とか知ってるし!海に浸かってさ、高い山で乾かしてみ?即行で治るしマジで!』
「そんな八十神(やそがみ)のアドバイスに従った白ウサギは、海水が乾いてズル剥けのうえカッピカピ、地獄の苦しみを味わうことになりました」
「ちょっと江月さぁん!私、もう泣くよ?いいの…泣くからねッ??」
む、白ウサギにされた瀬来さんがむくれ顔で詰め寄ってくる。
「まぁまぁ…。とそこに!大きな荷物を背負った大国主命。この時は兄である八十神らに奴隷の如くこき使われていた、大穴牟遅神が現れました!」
『おや、これは酷い!今すぐ川で身体を洗い、蒲の穂綿を敷き詰めその上を転がりなさい。そうすれば綺麗に傷も癒えるでしょう』
「え…なに?助けてくれる人きたの?」
「そうだよ。大穴牟遅神の言う通りにした白ウサギには綺麗な白い毛皮が戻り、サクッと完治しました」
「よかったなぁ万智」
「うん、うん…グズッ、ありがとう…。私助かった。もう嘘つかないよ…」
「こうして白ウサギを救った大穴牟遅神。だが兄である八十神らに色情の縺れから何度も殺され、その度に母に助けてもらい復活。その後は素戔嗚尊の所に行って姫と武器を奪って逃走。それらの武器を手に兄らをブッ殺すと、国造りを開始しました」
「え~と…アレ?良い人…じゃなくて良い神さまだったんだよね??」
「ん~…まぁ世の世知辛さや荒波に揉まれるうちに、次第に強かになっていったのかな?素戔嗚尊にも殺される勢いで弄られるし…。で、兄たちを軒並みブッ殺した後は、須勢理毘売や八上比売、沼河比売など多くの女神を妻として、ハーレム築いて幸せにやってた神さまでした」
「なんや、それやったら今のコォチと同じやないの?」
「あ~そうだよ!それじゃまるで江月さんと私たちみたいじゃない!」
え…?いやいやとんでもない!オレは目の前のことだけで精いっぱいの、ただの小さな小さな人間でございますよ。
また雨脚が強くなった。ゲリラ豪雨のように強い雨…。そんな雨に降られてしまったオレ達は坂の上にあった神社に避難し、そこでしばらく雨宿りをさせてもらっていた。
避難先は高床式の本殿。その床下に粘液ドームで休憩スペースを確保。境内にも樹木を利用して粘液テントを張り、巨大化した塩太郎と運んできた巨大赤蠍の外殻を雨から守っている。
うん…巨大赤蠍のドロップ。
非常にデカイので運搬が大変。しかも大きいのと多過ぎでオレの空間庫には納まりきらず、さりとて非常に質の高い外殻なので、『これを捨てるなんてとんでもない!』との板挟みに遭っている。
そこで構築した空間庫から荷物を一度全部出すと、空間庫を再構築する形で容量アップを行なっている。今ならば巨大赤蠍から得た生命エナジーもあるので、より大きな空間庫を生み出すのも問題ない。従来の3立方mな空間庫を、出来たら5立方mくらいにはしたいものだ。
「あ~疲れたぁ~。もぉ足が棒…、クタクタだよぉ~…」
マスクだけを外した状態の瀬来さんは、粘液ドームのなかで仰向けに転がって手足をぷるぷると振っている。ごめんよ、疲れてるところに赤蠍外殻を運ぶのまで手伝ってもらって。
「ほら、瑠羽ちゃん。珈琲入れたでぇ」
「うん、ありがとう」
仁菜さんと瑠羽もスーツ姿だが、マスクは外して寛いでいる。神社の境内には樹木が多いのにモンスターの姿はなく、そのため安心して休めている。あれかな、神社に祭られている神の神気がモンスターを遠ざけてるとか?
「コーチ、ここに珈琲置いておきますね」
「ああ、ありがとう…」
オレはというと半瞑想状態というか、空間庫の再構築中なので今は座禅をしたまま動けない。
というのも【空間】のスキルを使う時は、事故や失敗があると大変なのでいつも慎重に行っている。なぜならば空間なんていうのは、普通には全く干渉できないようなシロモノ。もし空間というモノに対して何か物理学的に干渉をしようとしたならば、それこそブラックホールとかホワイトホールとか…ともかく超重力的な要素が必要になってくるって話だ。
だからそれを無闇やたらと『スキルだからなんだってアリ』みたいに考え安易に使ってしまうのは、非常に危険なことだと考えている。
だって、干渉するには超重力が必要ってなシロモノよ?人間ひとりが練り上げられる魔力だけでどうこうできるというのは、どう考えても必要なエネルギー量が足りないように思う。
だが…その一方でこの世界に散らばる伝説上の魔法やらマジックアイテムにも、そういった物理法則をガン無視したモノがゴロゴロしてるのも確か。
例えば西遊記の孫悟空。彼の持つ『如意棒』は、質量保存の法則を無視してどれだけ長くも短くもなるそうな。しかもサイズが変わっても、その硬さは変わらないという。またその物語の中で敵として登場する妖怪、金角銀角の持つ『紫金紅葫蘆(しきんこうころ)』という瓢箪は、呼びかけた相手が返事をすると中に吸い込み溶かしてしまうというエグい武器。これも『紫金紅葫蘆(しきんこうころ)』自体は普通の瓢箪サイズらしいので、質量保存の法則をガン無視である。
他にも有名なのでいえば『三枚のお札』なんてのがある。
これは要約すると小坊主が三枚のお札を使って鬼婆から逃げてくる話だが、そのお札が万能すぎ。『小坊主の代わりに返事はするわ、大きな川になるわ、山火事になるわ』の大活躍。たぶんだがこの霊験あらたかなお札を三枚同時に使って『あの鬼婆を滅せよ!』とか命じたなら、なんの法力も持たない小坊主であったとしても、恐ろしい鬼婆を倒せるほどの性能だった事だろう。
だがそれでは話がつまらないので、最後はお寺の和尚さんと鬼婆による直接対決が待っている。しかしそれも頓智勝負で和尚さんが鬼婆を小さな豆に化けさせると、それを食って倒してしまうというオチ。
うん…まぁ内容はともかく、コレも質量保存の法則とかをガン無視のオンパレード。だからそういうファンタジーな視点で視るならば、あんまり科学科学と肩肘張って考えるのも良くないのかもしれないとも思う。
ま、それでもよく解らないモノだ。慎重に扱うに越したことはないだろう。
ちなみにこの『三枚のお札』の話も、伊邪那岐命の黄泉国探訪が元ネタらしい。ほんと、話がすごく酷似してるし。
黄泉の国に死んだ妻、伊邪那美命に会いに行く伊邪那岐命。
でも『待っててね』って言われたのを待てずに覗きに行ってしまい、死に腐れた姿を視られた妻は憤慨。『約束も守れない男ってサイテー!』と、黄泉の軍勢を差し向けいきなり夫を殺しにかかる。『自分も死んだから、このさい夫も殺してしまえ』のブッ飛び論法だ。
でも夫である伊邪那岐命も、妻が死ぬ原因として生まれてきた火之迦具土神を、『おまえ何してくれてんねん!』と斬り殺しているので、揃いも揃ってとんだDQN夫婦である。
流石にこれには『神なのにそんな事態も想定できなかったのかよ!』と、盛大にツッコミを入れたいところ。
だがこの二柱は子供の作り方も知らないで『あのぉ~、そういえば子供ってどうやって作るんでしたっけ…?』などと天界の神々に訊きに戻るくらい頭の方はアレな感じ。それこそ生命誕生パワー極振りで、それ以外はからっきしだった模様。
まぁそれはともかく、黄泉の軍勢から逃れるため伊邪那岐命は、『髪飾りが葡萄に、櫛が筍に、途中に生えていた桃の木の実』と色々投げつけ難を振り切った。これを口伝で伝えるうちに情報が劣化したのか、もしくは子供でも解りやすく改変したのが『三枚のお札』というお話であろう。
ン…と、そろそろ空間庫の再構築が終わりそうだ。でも、よく考えたらコレって神社で思うような事じゃないよな。それこそ罰でもあたらなきゃいいけど…。
…。
『サァーー……ッ』
「静かやねぇ。こうしてると、キャンプにでも来とるみたいやん」
降りしきる雨の景色に眼を向け、仁菜さんが寛いだ様子で口を開く。
「うん、ここに神社があって良かったね」
「ほんと、助かったよぉ。そういえばなんて神さまが祭られてるんだろうね?」
「たしか大国主命って、書いてあったよ?」
「へぇ~、ルウはどんな神さまだか知ってる?」
「ううん、知らない」
美人女子大生3人は輪になって話しているが、大国主命については知らないようだ。惜しい、3人寄れば文殊の知恵というのに。
「江月さんなら、なんか知ってそうだよね?」
「ん?まぁ、そうだな…」
オレはアニメ、ゲームが専門分野であるが、そういった神話をテーマにしたモノも多少は知っている。まぁ俄と馬鹿にされない為に調べたりもしたから。それにファンタジーファンとしてそれなりに知識はある方だと自負している。
「ウチは少しだけ知っとるよ。因幡の白ウサギやろ?」
「お、仁菜さんは知ってたか。さすが博識だね」
「そないなことないてぇ」
「え、なになにズルい!私にも教えてよぉ!」
「ははは、そうか。じゃあ…」
ふむ…、では知りたがりの瀬来さんの為に、少々授業の時間を設けるか。
「むか~しむかし、小さな隠岐島に住んでいたお調子者の白ウサギは、ずっと大きな因幡国に行ってみたいと思っていました…」
『あ~あ、ちっちゃな島じゃつまんないな。あ、そうだ!海にたくさんいる鮫たちを並べて、その背を渡ってやれば…。キシシシ…!ねぇねぇ!シャーク!シャークってば!お~い!』
『ん…なんだよ万智?』
「ちょっとぉ!なんで私が白ウサギになってるのぉ!?」
「いや、その方が解りやすいと思って」
「ははは、ええやん。万智に似合おうとるよ」
「じゃいいわよ。次、話聞かせて!」
『ねぇねぇシャーク。あんたの一族と私の一族、どっちが多いか勝負しましょ!』
『なんだよソレ…。でも、いいぜ。ぜったい万智には負けねぇ!』
『じゃあ、アッチの島までズラッと並んでごらんなさいよ!私がその上を歩いて数えてあげるから』
『解った。おじさん!賢治兄ぃ!それから親父たちも集まってくれ!』
「鮫を騙くらかして因幡国へと行こうとした白ウサギ。ですが事がうまく運びすぎたことで調子に乗り、渡りきる前についそのことを鮫たちにバラしてしまいます」
『シャークのば~か!や~い、だまされてんの~!私は島から出たかっただけだもんね~!』
『てめぇ万智!もう許さねぇ!オラァ!』
『ぎゃあああ!』
「こうして鮫を欺いた白ウサギですが、その報復として毛皮を剥かれてしまいました」
「私ひどッ!」
「万智ちゃん、嘘はダメだよ…」
「せやなぁ…」
「と、そんなズル剥けになった白ウサギの前に、ガラの悪い八十神(やそがみ)たちがゾロゾロとやって来ました」
『ひ~ん!痛い!痛いよぉ~!』
『ギャハハハ!お前酷くネ?ズル剥けとかマジウケる!』
『あ、俺ソレ治す方法とか知ってるし!海に浸かってさ、高い山で乾かしてみ?即行で治るしマジで!』
「そんな八十神(やそがみ)のアドバイスに従った白ウサギは、海水が乾いてズル剥けのうえカッピカピ、地獄の苦しみを味わうことになりました」
「ちょっと江月さぁん!私、もう泣くよ?いいの…泣くからねッ??」
む、白ウサギにされた瀬来さんがむくれ顔で詰め寄ってくる。
「まぁまぁ…。とそこに!大きな荷物を背負った大国主命。この時は兄である八十神らに奴隷の如くこき使われていた、大穴牟遅神が現れました!」
『おや、これは酷い!今すぐ川で身体を洗い、蒲の穂綿を敷き詰めその上を転がりなさい。そうすれば綺麗に傷も癒えるでしょう』
「え…なに?助けてくれる人きたの?」
「そうだよ。大穴牟遅神の言う通りにした白ウサギには綺麗な白い毛皮が戻り、サクッと完治しました」
「よかったなぁ万智」
「うん、うん…グズッ、ありがとう…。私助かった。もう嘘つかないよ…」
「こうして白ウサギを救った大穴牟遅神。だが兄である八十神らに色情の縺れから何度も殺され、その度に母に助けてもらい復活。その後は素戔嗚尊の所に行って姫と武器を奪って逃走。それらの武器を手に兄らをブッ殺すと、国造りを開始しました」
「え~と…アレ?良い人…じゃなくて良い神さまだったんだよね??」
「ん~…まぁ世の世知辛さや荒波に揉まれるうちに、次第に強かになっていったのかな?素戔嗚尊にも殺される勢いで弄られるし…。で、兄たちを軒並みブッ殺した後は、須勢理毘売や八上比売、沼河比売など多くの女神を妻として、ハーレム築いて幸せにやってた神さまでした」
「なんや、それやったら今のコォチと同じやないの?」
「あ~そうだよ!それじゃまるで江月さんと私たちみたいじゃない!」
え…?いやいやとんでもない!オレは目の前のことだけで精いっぱいの、ただの小さな小さな人間でございますよ。
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