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鬼婆とキュアポーション

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「ぶるらぁぁぁあああぁ!どこぢゃぁ狼ッ子ぉおぉ!出てこぉいぃ!」

巨大鬼婆が象の走っているかの如き地響きを立て、太い竹をばきばきと折りしだきながら姿を現した。折れて飛び散る竹片に、もうもうと沸き立つ土埃。なんだか夢だというのに、物凄い臨場感だ。

それに…鬼婆ってこんなにデカかったんだ。スゲェな、マジでビックリだよ…。その身の丈は優に3メートル超…、頭のサイズも1メートル超…って、ちょ、頭デカくね?

あれ、東北の風習にさ、『悪ぃ子はいねぇがぁ!』ってお宅訪問してくる迷惑な鬼がいるじゃん。

青森…秋田だっけ?そうそう、なまはげってヤツ。あの行事は人間が鬼の被り物してるからあんな頭でっかちになってるけど、そんななまはげですらスタイリッシュに見えるほど、目の前の鬼婆の頭がデケェのよ。もう三頭身じゃん、骨格どうなってんだ?

(にしても、鬼…か。厄介だな)

鬼、西洋風に言えばオーガ。

コイツ程有名でありながら、かつ捉えどころのない存在も無いだろう。日本では子供の頃から、豆まきやらそういった風習でその存在を教えられるモンスター。でありながらも、時に神、時に妖怪、時に悪霊と呼ばれるほどそのカテゴリーは多岐にわたり、『一体おまえら何者なんだ!?』と、マジ突っ込みを入れたくなる存在でもある。

「うぅん?なんじゃぁあ!うぬぅわぁああああ!?(ずしむん!ずしむん!)」

しかしそんな苦悩を余所に、左右に首を巡らせた巨大鬼婆はついにオレの存在に気付きそのギョロリと血走った眼を向けてくる。

うわ、やだな。いちいち声が馬鹿デカいうえ、喋る度に唾が周囲に飛び散ってひどくバッチい。そのうえ口から覗くのは黄ばんだ汚らしい乱杭歯。なんかここまでキツイ口臭が匂ってきそうだ。

と思ったらほんとに生臭い風がウゾゾと吹いてきて、周囲の竹がその風に激しく揺れる。さらには急に辺りが暗くなって空には暗雲が垂れこみだしてきた。

え、なにこれ?全部この鬼婆の仕業?うむむ、なんて迷惑なヤツなんだ。絶対コイツのご近所には住みたくないぞ。

「ぶるらぁあああぁ!うぬわぁワシの獲物ぉ奪う気かぁ!!」
(て、あれ?)

ふと気づいてチラリと背後に目を向けると、いつの間にやらオレの背に身を隠していたケモミミ少女。尻尾を巻いてブルブル震え、うるうるとした涙目で『助けてけろ!』と懇願している。うむむ、こんなに近づけるつもりは無かったのだが…。

夢とは解っていても、急にシーンが飛ぶとさすがにちょっと焦るな。

ま、それはともかく、問題は巨大鬼婆の方。右手には『それどこで売ってたの?』っていうくらい馬鹿デカい出刃包丁を持って、それを振り回しながら近づいてくる。

「おい、ちょっと待った。こっちに争う気は―」
「ぶるらぁあああぁ!ぬしゃあ、ワシの獲物ぉ奪う気かぁああぁ!!」

おわっ、危ねっ!いきなり斬りつけてくるなよ!太くて短い腕だったから軌道が読みやすかったけど、下手したら当たってだろ!

「避けるなぁ!ごるぅらぁあああぁ!!」

いや避けるだろ!なんだと思ってるんだ。それに奪う気かって…。なんでオレが鬼婆と同じような感じで見られてんだ?いや、まぁいい。そっちがその気ならやってやるぞ!スキル【塩】ッ!

「おい鬼婆よ!これを見よッ!(びゅききぃぃん!)」

オレは天高く手をかざし、その手に光り輝く白き刀身の剣を生み出す。どうだ、聖なる力を宿した塩の剣、ソルトブレイドだぞ。

「ぎゃああ!そ、それわぁ~ッ!?」
「ふははは!どうだ見たか!生憎と三枚のお札も桃の実も持っていないがな、オレにはこの塩の加護があるのだッ!!」

すると鬼婆は白く輝くソルトブレイドを見て、めちゃくそビビっている。うむ、効果はばつぐんだ。


「ひぃやあぁ~ッ!」
「どうだ、恐れ入ったか!聖属性のコイツであれば、悪鬼羅刹といえど斬り伏せられよう。お前も成敗してくれる!」

「ま、待て!話を―」
「うるさい!斬りかかってきたヤツを許すと思うのか!死ねェ!」

飛びあがって鬼婆の額にソルトブレイドを叩きこむと、縦一文字に真っ二つ。

「ぎゃあああああぁぁ!!」
「ふ…、頭のデカさが仇となったな…」

斬りかかられた鬼婆は手にした出刃包丁でソルトブレイドを受けとめようとした。が、頭がデカすぎて上まで届かなかったのだ。

そうして真っ二つにされた鬼婆は、白い光の泡となって次第に宙へと消えていく。

そして…、最後にはなぜかその場に、小柄な全裸少女だけが残った。

「びゃあああぁ!ワ、ワシの妖力纏いがぁ~~ッ!?

なに、妖力纏いとな?とするとさっきの鬼婆姿はパワードスーツ的なモノで、この小柄な全裸少女こそが鬼婆の正体ということか!?

「うッ?なッ…!?ワシまで浄化されておるのかッ!?」

そして自分の手足をペタペタと触っては、焦りまくっているツルペタ全裸少女。

ふむ、どうやら聖なる力を秘めたソルトブレイドに斬られた事で、鬼婆の邪気的なモノまで祓われてしまったようだ。

「おい、おまえが鬼婆の正体だな?」
「ヒッ!?」

まぁ返事を聞くまでもない。なぜならばツルペタ少女の額には、ちいさな角が二本生えている。なので正体見たり、コイツが鬼婆の正体でファイナルアンサーだ。

「こ、降参じゃッ!もう二度と悪事は働かぬ故、ゆるしておくれ!!」

小柄でプリケツ晒した鬼少女が、ダイビング土下座で命乞いしてくる。

うむむ…なにやら浄化されたせいか、清々しいまでの改心っぷり。それによく視れば、なかなかにキュートなぷりちーガールではないか。これは…ごくり。

「うむ、それはいい。だが改心したからといって、それで今までの悪行がチャラになるなどと思うなよ!?」
「ひひぃ~ッ!どうか滅するのだけはご勘弁をッ!!」

「よし、ではオレが直々におしおきをしてやろう。そのおしおきをもって、罪過の償いを果たした事としよう」
「お、おしおき…?」

「フ…それは知れた事。ゆくぞ!おしおきソォードッ!!」
「きゃあああ~~!」

男が可愛い女の子を前におしおきといえば、つまりはそういうことなのだ。ぐふふ。


………。


「いやぁ江月さん!助かります!こんなすぐに…、それもこれほどの量を用意してくださるなんて!」
「いやいや、今回は偶々ですよ。それでも喜んでいただけて何よりです」

真田薬品ビルの地下駐車場にレンタカーを乗りつけたオレ。そうして田所さんに集めたドロップ品を見てもらうと、ブンブン握手で感謝感激してくれた。

朝早くに宿を出発したオレ達は、一度帰宅し準備を整えると瑠羽たちを大学に送り届けた。そしてその後はこうして、独り納品に来たという訳だ。

「う~ん、それにしてもスゴイ…、アッ!これは高霊人参(こうれいにんじん)じゃないですか!」

と、涎を垂らさんばかりにドロップ品の収まったビールケースを覗いていた田所さんが声をあげる。

「え、高麗人参?いえ、それは吸血人参の落とした」
「いえいえ、高麗人参とは違いますよ。これは高霊人参(こうれいにんじん)といって、高い薬効と、魔力とか言われるモノにも作用のある素材として希少なんです」

「なるほど、そうでしたか」
「それに、こっちは暴れ竹のドロップですね。これはいい!こっちのケースは暴れアロエの…ッ!」

ふむふむ、田所さんはカンフーバンブーのことを暴れ竹と呼ぶのか。まぁカンフーバンブーって名前はシャークが勝手につけてただけだしな。それにしてもモンスターの名称は、人や地域によって呼び方がコロコロと変わる。

まぁ色々とそういった情報を纏めているサイトもあるにはあるが、それも雨後のタケノコのように乱立していてまだ画一的な名称の定まっていないモンスターも結構多かったりする。

ともかく興奮する田所さんとやってきた白衣の職員さんにビールケースごとドロップ品をお渡しすると、今日のオレのお仕事は終了だ。


荷物も届けたことで心も軽やかにレンタカーのハンドルを握り、帰路に着く。ちなみにハンドルというのも、英語圏ではステアリングと言わないと通用しないらしいぞ。

「ふんふんふ~ん♪」

ああ、田所さんが喜んでくれて良かった。なにせうちのお得意様だからな。普通、ああいった大企業は、個人の口座しか持たない者なんか相手にはしてくれない。オレが勤めていた中小企業ですら、そうだった。

そんな個人相手に便宜を図ってくれているのは、これ一重に田所さんのおかげ。

まだ入手ルートがしっかりと確立できていないというのもあるだろうけどさ。ただ、今のオレにとってはそれが唯一の収入源な訳だから、本当にありがたいことだ。

「にしても、変な夢見だったなぁ…」

レンタカーを返しに行きながら、ふと昨夜の夢を思い返す。

昨晩は仲良く入浴した後、4人で愛情100万パワーのマッスルドッキングをし大満足で眠りについたはず。なのに、どうしてあんな夢を視たんだか…。

馬鹿デカい鬼婆が出てきた時にはウゲゲだったけど、最終的にはツルペタ鬼少女にムフフとおしおきをするという夢だった。

それとまぁ、鬼少女におしおきした後で、その一部始終をガン見でフンフン!していたニホンオオカミ娘の方も、おいしくいただきました。なんかフワフワモコモコで、とってもおいしかったです。ごちそうさまでした。

ただそのせいか、ちょっと気怠いんだよな。うん、今日は早く帰って休むとするか。

『え~続いてのニュースは…、なんとぉ、アメリカの製薬会社大手カイザーが、怪我も一発で治ってしまうという夢の薬を開発したと発表がありました!』
『わぁ、それはスゴイですねぇ!』

『この夢の薬、キュアポーションという名前だそうで、近いうちにお目見えするのではと今から期待と注目を集めています!』

と、何の気なしに点けていたラジオから、けっこう重要なニュースが流れてきた。

なんと、遂にアメリカも回復薬の開発に成功したのか。

うむむ、こうなってくると海外から良い条件を引き出そうと出し惜しみしていた日本政府は、その切り札ともいうべきカードをまったく使うことなく失ってしまったに等しいのではないか。

国家間が色々と睨み合いを続けているなか、これはまた事態が大きく動きだしてしまいそうだ。
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