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「すぅ~~ッ…、こはぁ~~ッ…」


蟲王スーツに身を包み、錆びつく鉄扉を抜けた地下1層で深々と深呼吸。マスク越しに感じるのは、ダンジョンの涼しい空気。それは今も変わらない。

約半年前にこの扉を潜ってから始まった、オレの冒険。

強くなったり弱くなったりしながらも、今なおこの場に立ち続けている。そんな万感の思いを籠め、汽笛は鳴る。

いや…まぁそれは気分の問題で、実際に鳴り響いている訳ではないけれど…。

つまりは何が言いたいかというと、『よくがんばったよなぁ~オレ』という話だ。片足失ったりしながらも蠅の女王を倒し、女になってしまったりしながらも、ダンジョン探索を続けた。そんなことを思い返すと、つい感慨深くもなろうというもの。

ん、でも今日のオレは、ちょっとおセンチ…?

しかし心に精霊や妖精が住みついたり、40もあったレベルが11にまで下がったりしてしまえば、多少は心境に変化があったとしても無理からぬことであろう。

「まぁいい、ではそろそろやるか。…全召喚ッ、ピクシーズ!(バッ)」
「「「(キラリララァ~☆)ぴぴぃ~!」」」


魔力を籠め宙に舞い飛ばした無数の銀板が光り輝くと、毎度おなじみの騒がしい面々が姿を現す。

「よし、ピクシー達。今日のキミたちのお仕事は、スライムを倒してドロップを集めることだ。瑠羽たちがいないけど、上手に出来るかなぁ??」
「「「ぴぴぃ~!」」」

そう少し自尊心を煽るようピクシー達に訊ねると、『まかせて!』とばかりに小さな胸を叩いてみせる。

「おお!それは心強い!ではみんな、しっかりと頼むぞ。さて、ではオレはもっと下に降りるから、クィーンはピクシー達の監督をよろしく」

胸からぽわんと現れたピクシークィーンが、相変わらずのスンとした表情でこくりと頷く。

うん、これで良し。瑠羽たちもまた大学が始まって、朝からダンジョンとはいかなくなってしまったからな。その分はピクシー達に頑張ってもらおう。

で、オレは地下2層に向う道中に見かけたスライムを、核を引き抜く攻撃で屠る。

「すべてを差出し果つるを誉れとし、心安んじて逝くがあかよろし…【簒奪】ッ!」

そうしてスライムの核を握りつぶした手の平を開くと、そこにはスキルオーブ。

ふむ…やはり100%とはいかないまでも、スキル【簒奪】と相手から能力を奪うという明確な意志を持てば、スキルオーブ獲得の確率は上がるらしい。

でも、これは使わずに瑠羽たちの為に取っておこう…。

…。

『『『がさ…がさわさ…!ずぞぞッ…がさがさ…!』』』
「うむむ…これはまた、なんともすごい数だな…」

次いで地下2層に降りると、だいぶほったらかしにしていた巨大ゴキたちが『ワッサァ~!』だ。それはもう壁から天井から至るところに張り付いているので、ダンジョン内が暗く感じるほど。

「う~む…。これを見たなら気の強いシャークも負けん気の強い瀬来さんも、さすがに泣きが入ったか…」

ふたりがギャン泣きしていた様子を思い出して、苦笑する。

とはいえ、この数はさすがに増え過ぎ。しかしオレは蟲王の称号を持つからして、巨大ゴキたちはそんなオレへと頭を垂れる。だもんだからゴキとはいえ頭を垂れる者を邪魔だと殺すのは流石に如何なものか。

と、腕組みをして考え込んでしまう。

「ふ~む、これはホントにどうしたものか…ん?」
『(かぱっ…ぴこぴこ)』

と、見れば義足の粘液注入口から顔を出したレッドスライムが、オレに向け手を振っているではないか。まぁどこが頭で手なのやらだが…。

『(ぬろぉ~ん、ぴんぴょこ!ぴんぴょこ!)』
「なに?ここは自分に任せてほしい?」

『(ぷるぷるぷるぷる…!)』

さらに注入口から抜け出てきたレッドスライムが、縦横に伸び縮みしてアピールしてくる。

ふむ、オレの足代わりをしているレッドスライムだが、モンスターでもあるしコイツなら巨大ゴキを倒してもノーカンなのか?

「いやでも、けっこうな数よ?ひとりで平気?」
『(ぷるぷるぷるぷる…びゃんっ!じゅわわわぁ~…!)』

そう問いかけるとレッドスライムは手近にいた巨大ゴキに飛び付き、すぐさま覆い尽くして分解を始める。おおう、圧倒的ではないか。さらにアン・ドゥ・トロゥワな勢いで次々に襲いかかり、思った以上の分解速度で殲滅をはじめる。

「解った。じゃあここはおまえに任せるよ。帰りに迎えに来るから、それまで間引きをよろしく!(チャ!)」

なんだか思った以上に強くて、オレの言う事をよく聞く良い子なレッドスライム。

とはいえレベル38だったオレの左足を喰ったんだから、低位なスライムなら相当レベルアップしたはずだもんな。まぁやる気になってくれているので、そんなレッドスライムに地下2層の間引きを任せてオレは地下3層へと急ぐ。

いや…、レッドスライムお食事風景って物凄くグロいからさ…。

…。

そうして到着したのは地下3層。で、ここにも醜い姿をした病鼠たちがわんさといる。

『ぐっぱ…ぐっぱ…』

拳をにぎにぎして、感触を確かめる。なにせ大幅な能力値ダウンをしたばかり。能力値オール500とか400の感覚に慣れていたので、だいぶ身体の動きも遅く感じる。なので今の能力値に感覚を慣らしていかないと、思わぬ事故に繋がりそうだ。

「「ギィチュウウウー!!」」
『ッパァーーン!パァーン!』

なのでここはひとつ、襲いかかってくる病鼠を岩塩パンチで迎え撃つ。

病鼠も素早い類のモンスター。だが今の能力値でも難なく相手できる。でもワンパンで爆ぜ飛んでしまうでの、返り血を浴びないよう気を付ける方が大変だ。

「おっと、ここはだいぶ溜っているぞ…。でもしっかり間引いておかないとウチの冷蔵庫ダンジョンまで溢れかえってしまうからな。ヨシ、唸れ雷鳴!轟け黒雲!酸の力で強力分解!溶殺、アシッドレインッ!!」

「「「ギチュヴヴヴゥゥゥ~…!!」」」

と、溜っていた病鼠を酸で纏めて屠ったところで、レベルが上がった。


           現在     前回
レベル        12       11 
種族:       人間
職業:       教師

能力値
筋力:         266      245
体力:         258      226
知力:         251      238
精神力:        265      244 
敏捷性:        253      237 
運:          390      386 
やるせなさ:      554      556

加護:
【塩の加護】奇御霊・【小妖精女王の加護】幸御霊

技能:
【強酸】2・【俊敏】・【病耐性】7・【簒奪】・【粘液】7・【空間】6・【強運】1.4・【足捌】・【瞑想】・【塩】5・【図工】・【蛆】・【女】・【格闘】6・【麻痺】4・【跳躍】9・【頑健】8・【魅惑】

称号:
【蟲王】・【ソルトメイト】・【しょっぱい男】・【蟲女王】・【女殺し】


うん…。上昇値が20前後とは、かなり良いのではないか?

運がちょっぴりだけど、何気にやるせなさの数値が下がっているのが逆に嬉しい。ほんとなんなのよ、このやるせなさってパラメーターは。

でもだ。やはりレベルが下がったことで、再び上がりやすくなっている事の確認が取れた。

ゲームなんかの上位職への転職や転生システムだと、レベルが1に戻ったうえ成長まで遅くなっているからな。それが無いと解っただけでもありがたい。

もしそんなのがあったりしたら、瑠羽たちにレベルが追い抜かれてしまうことだろう。

…。

「ずびびびぃ~~ッ!!」
「おっ、やる気かこの野郎!…っといかん。すべてを差出し果つるを誉れとし、心安んじて逝くがあかよろし…【簒奪】ッ!」

『ぼふん!…コロン』
「ふふふ、よしよし。ナメクジは数が少なくて見つけるのに手間がかかる。この調子で一匹一匹、丁寧に仕留めていかないと…」

こうしてしっかりと意識しながら狩ってみると、やっぱりスキル【簒奪】は『ある一定の確率でモンスターの能力を奪えるスキル』という事が解ってきた。

確率に関しては…ちょっとまだよく解らないな。

結構波があって連続でスキルオーブがゲットできる事もあれば、まったくドロップしないなんて事がずっと続くこともある。

それでも比較的層の浅いモンスターはドロップしやすく、深いほどドロップし難くなるようだ。

【酸】に【俊敏】に【病耐性】…それに【粘液】と、ウンコ猿は【空間】だもんな。うちの冷蔵庫ダンジョンはモンスターの質はともかく、スキルに関しては良スキルが揃ってる。特に【粘液】と【空間】は良スキルだから、この際だしもっとレベルを上げておきたい。

ただ…それを集めるには馬鹿デカくて気味の悪い巨大ナメクジと、自分のウンコ投げつけてくる下品極まりない猿と延々戦い続けないといけないのが辛い…。うむむ、ピクシー達も嫌がるだろうしなぁ~。

ハァ…。でももっと強くなる為には、ガマンガマンだ…。
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