上 下
65 / 613

しおりを挟む
その夜、オレは奇妙な夢を視た。

帰宅し瀬来さんと外食をしながら打ち合わせ内容を聞かせてもらい、さらに瀬来さんからもマッサージを受けつつ「旅費のほうはなにとぞ♪」と念押しでお願いされた。そんな夜の夢。

いわゆる明晰夢というヤツだ。どういうことかというと、自分で夢であると自覚している夢。

そんな夢の中で取り留めもない日常を過ごしていると、突如吸い上げられるかのようにして天へと昇り始めた。それに「ハァ~。これはまるで、UFOキャッチャーの景品になったみたいだなぁ~」なんて考えている間にみるみる高度は増していき、遂には雲を越え辺りは真っ白な世界へ。

うむ、白い。本当になにも視えない真っ白な世界だ…。

鳴人なきひと…、鳴人なきひとよ…」

するとそんな真っ白な世界で、オレの名を呼ぶ声が。で、声のしたほうに振りかえると、そこには白い髭をたくわえたちっさな老人が浮いていた。

(アッ、まさか…!もしやこれが神との邂逅というやつか?!)

今までに蓄えたオタ知識が、すぐさま今の状況をファンタジーあるあるに結びつける。

だがオレの知るファンタジー知識では、こういう時に現れる神さまはたいてい間の抜けた女神さまとか、いかにもゴッドといったテイストの存在なはず。しかしオレの目の前に現れたのは、なんだかUFOキャチャーの景品みたいなサイズのちっさい老人…。

「だれが景品じゃ!」
(おわ!もしや心を読まれた…?)

「あ、あなたは神さまですか?」
「あんだってぇ~??」

あれ、なんだか耳は遠いようだ。心は読めるのになして??

「あーなーたーはーッ!かーみーさーまーでーすーかーッ!!」
「…とんでもね!アタシゃ神さまだよッ!!」

『ズコーッ!』

するとなぜか盛大にズッコケねばならぬ気がして、膝から崩れ落ちた。

「うむ、鳴人よ…。よくぞ塩の精霊たちと心を通わせた。その働き真に見事である!」

しかしちっさな老人の神さまは、オレががんばってズッコケたことには一切触れず話をすすめた。なんだかズッコケ損である。

(しかし…塩?ああ!もしかして塩サウナで聞こえた、あの塩の粒たちの声のことか…)

「よっておぬしには褒美をとらせよう…。それぃ!」
『きゅわ~ぱわわぁ~!』

宙に浮かぶちっさな老人の神さまがその手に持つ杖をかざすと、迸った光がオレを包み込む。

「こ、これは…!?」
「これからも精進するが良い。鳴人よ、ソルトと共にあらんことを…」

(え、そんな純和風な出で立ちなのに、なに決め台詞っぽいトコだけ横文字使ってんの??)

そんな事を思っている間に、ちっさな神さまは光り輝きながら白い世界の彼方にフェードアウトしていったのだった。


………。


チュンチュン。

「ハッ…!ゆ、夢か…!?」

細部まで、実にリアルな夢だった。でもどうせならちっさな老人ではなく、瑠羽ともっとイチャイチャするような夢だったら良かったのに。

(鳴人よ、ソルトと共にあらんことを…)

そうだ!あれが何かの啓示だとするならば。

           現在    前回
レベル        37      36
種族:       人間

筋力        212      200
体力        218      201
知力        215      202
精神力       240      220
敏捷性       220      208
運         133      103
器用さ       221      200

加護:
【塩の加護】

技能:
【強酸】1.1・【俊敏】・【病耐性】5・【簒奪】・【粘液】2・【空間】2・【強運】1.3・【足捌】・【瞑想】・【塩】5

称号:
【蟲王】・【ソルトメイト】・【しょっぱい男】


ステータスを確認してみると、唐突に加護なんて項目が増えていて【塩の加護】なんてものが追加されていた。とすると…やはりあのちっさな老人は、本当に塩の神さまだったのか。

技能には【塩】5というのが追加されている。ておい、いきなり5かよ!すごいな。…でも塩。これはちょっと喜んでいいのかどうかよく解らない。

そして、称号にも変化が。

【ソルトメイト】は親友ソウルメイトにかけてるんだろうけど、【しょっぱい男】ってなによ。称号に軽くディスられてるんだけど。

ま、いいか。

ただ寝ていただけなのに、こんなにも色々と頂けた訳だし。何も損はないのだから。


…。


で、今朝も瀬来さんをバイト先にバイクで送っていく。

背中に感じる柔らかな感触が、今日も朝からオレの心も弾ませる。気分爽快なエロといった感じか。ふむ、これも瞑想によりオレの精神が安定してきた影響だろうか。

そしてもやは定番となりつつあるファストフード店での朝食。二人掛けのテーブルに瀬来さんと向かい合って座ると、朝食セットのハンバーガーの包み紙を剥いていく。

(あ、そういえばスキル【塩】ってどんな感じなんだろう?)

ふとそんな事を思いついて、ハンバーガーのバンズを外しスキル【塩】の発動を念じてみる。

(かぁるく…かぁるく…、パラパラ~ってな感じで…)
『パラパラ~(キラキラ)』

おぉ、出た出た。ここのハンバーガーもこれはこれで美味しいけど、もうすこし塩気が欲しいと思ってたんだよね。うん、神さまっぽい老人から頂いたスキルだから、食べても特に問題はないだろう。

「(バクリッ…じゅわ~~)んんぅ?!…美味ぁい!!」

なんだこの塩ッ!すごい美味いぞ。ただの塩じゃない、ピリリとしたパンチのある強い塩気の後には旨味が追い撃ちを掛けて来るような…うぅむ、言うなれば、これはまるで一袋で千円とか二千円もするような塩の味だ。

「なぁに師匠?子供みたいに大袈裟に喜んじゃって。いつも食べてるじゃない?」

向かいに座っている瀬来さんには、スキル【塩】を使っているとは解らないようバンズで指先を隠していた。だからその反応も無理はない。

しかし、指先から塩か。ふふふ…なんだかどこかの聖人みたいだぞ。きっと山奥の未開の村なんかに行ったら、ホントに聖人扱いしてくれそうだ。

「ふふふ、瀬来さん。ちょっとした手品を見せるから、そのハンバーガー貸してみて」
「えぇ~?そんなこと言って私のハンバーガー食べないでくださいよぉ~?」

「だいじょうぶだいじょうぶ…(ぱか…ぱららぁ…ぱふ)、ハイ、どうぞ召し上がれ」
「え…それだけですか?なにが手品だったんです…??ただハンバーガーを開いて、閉じただけですよね?」

「まぁまぁ、いいから食べてみて」
「んぅ~??なんか怪しいなぁ…。急に激辛になってたりなんかしたら、怒りますからね(ぱく…もぐもぐ)」

そんなことを言いながらハンバーガーを口にした瀬来さんが、しばらくして眼を大きく見開いた。

「んんん~~っ!!なんでッ!?師匠、いったい何をしたの!?」
「ハハハ、だから手品だって言っただろ。どうだ、美味いだろう」

「…スッゴイ美味しい!(むぐむぐ…)なんだろうコレ?塩…?塩を足したの!?」
「ご名答!ちょっといい塩を頂いたから、試しに使ってみたんだ。でも想像以上だったな」

目を丸くしながら美味しい美味しいとハンバーガーをぱくつく瀬来さん。そんな彼女を周囲のお客さんが、『なんでそこまで?』と不思議そうな表情で見ている。そんなとても美味しそうにハンバーガーを頬張る瀬来さんを前に、オレもちょい足しソルトのハンバーガーに嚙り付く。

『(じゅわぁ~~)』

ファーストフード店のさして厚くもないハンバーグから、なぜかたっぷりと旨味を含んだ肉汁が口の中に溢れ出てくるような。だがこれはパンチの利いたスキル【塩】により、唾液の分泌が活発になったせいなのだろう。しかしまぶされた塩が、肉の旨みを引き出しているのもまた事実。それらが合わさってこの『美味いぞ~!』に繋がっているのだ。

「や~ん!すっごく美味しい!もうバイト行きたくないッ!」

いやいや、バイトには行ってくださいよ瀬来さん。せっかくここまで送り届けたんだから。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

処理中です...