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宇宙戦士と計画的犯行

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オレは旅立つ。遥か銀河の彼方にある戦地へ。

そして、決して振り向きはしない。

振り向けば、そこには白い布の間仕切りがあり、折角盛り上がってきた興が削がれてしまうから。


で、ダンジョンの通路では迷彩服を着た小太りなおっさんが、エアーガンの自動小銃をダンゴ虫に向け乱射している。

『タパパ!タパパパパッ!……(パチパチパチパチッ!)』
「チッ!通常弾じゃまるで歯が立たないぞッ!徹甲弾を用意しろッ!」

『フキュ!フキュキュキュキュ!…(パチパチパチパチッ!)』
「チクショー!どんどん迫ってくるぞ!」
「ば、爆撃はまだか!?くそう!空軍の奴等なにをモタモタやってるんだ!」

今、オレの目の前にはバグズと必死に戦う勇敢な宇宙の戦士たちがいる。

迷彩服を着た小太りなおっさんたちがワーギャー騒ぎながらダンゴ虫をエアーガンで撃っているだけのようにしか見えないが、そこは脳内補正。彼らこそ地球を離れ遥かな銀河の果てで戦う、宇宙の戦士なのだ。

だってほら。あんなに愉しそうにしてるじゃないか。

オタとは大人になりきれなかった子供。いくら歳を重ねても精神はお子様のまま。見た目には小太りなおっさんたちでもその瞳を輝かせて〇ターシップ・トゥルーパーズごっこに興じる姿は、そういったいっしょに遊んでくれる友達のいなかったオレからすれば、とても輝いて見えた。

「すごいな…」
「へへ…どうだ、なかなかのモンだろ!メンバーの中にペンキ屋がいるんだよ」

「へぇ~」

だがミリオタ少女がオレの呟きにまったく見当違いの返事を返してくる。たしかに置かれているダンボールを着色したオブジェは、近未来チックで実にカッコイイ。

「しかしダンジョンに飛び道具は持ち込み禁止なはずだろ?よく許可してもらえたな」
「ああ~それな、地道な交渉ってヤツ?きちんと間仕切りして見張りを立てて、ダンジョンで怪我人を発見した場合にはその救助活動に協力するとか、けっこう色々とダンジョンでサバゲやるのに頑張ったんだぜ」

「なるほど」
「ま、一番はここに詰めてる警察官のひとりが、アタシのおじさんだからなんだけどな!」

「なんだ、コネかよ」

そこに中年の顔に深い皺の入った男性が通路の奥からやってきて、オレの隣に立つミリオタ少女に声を掛けた。

「おいシャーク、見張りはどうした。それにその男はなんだ?」
(シャーク…?)

「興味があるってんで見学させてるんだ。それにコイツ、M60持ってるらしいよ」

ミリオタ少女は相変わらず口が悪い。

「ほぅ、おい誰かシャークの代わりに見張りに立ってくれ!(くるり)…俺はこのサバゲサークル・トライデントの代表で、提督と呼ばれている。お前は?」

(シャークに提督ときたか…なら)

「よろしく提督。オレはまぁ…ジャングとでも呼んでくれ。ちなみにオレは榛名が好きなんだが、提督は?」

ジャングとは言うまでもなくオレの苗字の一部。ネットでよくハンドルネームに使っている。ただジャングムーンとすると、名前がモロバレなうえナルシストみたいに思われるのでジャングをよく使っている。ムーンを名前に付ける奴は、大抵ナルシストらしい。

「ムッ!榛名ときたか…。俺は扶桑、だが那珂ちゃんも捨てがたい!」
「ほう、さすが…。通だな提督」

「ふ、おまえもな…」

目の前にいるパッと見には渋い寿司職人みたいな提督を名乗るおっさん。だがどうやら彼はオレのよく知る提督だったようだ。うむ、彼とはなんとなく仲良くなれそうな気がする。

「なに二人で訳わかんない事言ってんのさ」

おっと。ミリオタ少女は『艦こ〇』をご存じないようだ。

「ふふふ…シャークに提督にジャングか、これはなかなか面白い組み合わせだ。ジャング、良ければ少し遊んでいけ。銃は俺のを貸してやる。おい、だれかジャングにルールを教えてやってくれ!」

こうして、オレは提督の銃を貸してもらい〇ターシップ・トゥルーパーズごっこに参戦した。

愉しかった。実に楽しかった。思い切り童心にかえって遊んでしまった。オレも小太りのおっさんたちに混じって「このバグズ野郎めッ!」などと叫びながらエアーガンを撃ちまくり、ダンゴ虫の体当たりでピンチに陥った戦友を助けて英雄扱いされたりと、気付けばモンスターをまったく倒していないのに3時間が過ぎていた。

「いやぁ、ジャングは力があるから助かったぜ!」
「ああ!あのバグズを素手で押さえ込めるんだからな!」
「またいっしょに戦おうな、ジャング!」

「おう!」

オレは一緒に戦った小太りの迷彩服おっさん達と、とても仲良しになった。

「ジャング、お前ならトライデントはいつでも歓迎する。また遊びに来てくれ」
「提督、世話になった。できたらまた遊びに寄らせてほしい」

「月末の日曜なら大概ここでやってるぜ!今度はおまえのM60も持って来いよなジャング!」
「ああ、次は必ず持って来よう。ただずっと放置したままだ。うまく作動しなくても怒るなよ?」

「そん時はアタシが手入れを手伝ってやるよ!またなジャング!」


………。


虫ダンジョンで、サバゲーサークル『トライデント』のメンバーと仲良くなった。実に楽しかった。しかしダンジョンの調査はそのせいで全く進まなかった。が、まあ愉しかったから良しとしよう。

その後は瀬来さんをバイト先に迎えに行き、銭湯を経由し、瀬来さんのリクエストで今日は蕎麦屋で天丼を食べて帰ってきた。

「ああ美味しかった~。ご馳走様、師匠ッ!」

アパートに着くと、瀬来さんがご機嫌でオレの両肩に後ろから手を置きじゃれついてくる。ふふふ、これに大概の男はやられてしまうのだな。だがオレは騙されないし揺るがないぞ。今、オレの心の中心には、瑠羽というとっても可愛い彼女が鎮座ましましているのだ。

しかし今日も瀬来さんはストーカーというか、バイト中にジロジロと見てくる男達の視線に晒されストレスマッハだった。そのご機嫌が良くなっただけでも僥倖だ。お蕎麦屋さん最高価格を誇る特上天丼のパワーは伊達じゃないのだ。

そしてそんなご機嫌な瀬来さんは、ご機嫌でオレに恩返しのマッサージをしてくれるという。

そう言われるとオレもそれは吝かではない訳で、瀬来さんの恩返しマッサージを受けることに。まずは高級羽毛布団の掛布団の上に胡坐をかいたオレの肩を、瀬来さんが揉んでくれる。

「んしょ♪んしょ♪(ぐいぐいっ)、どう師匠、気持ちいい?」
「ああ…きもちいいよ…」

湯上りすっぴん美人女子大生、寝間着姿の瀬来さんから受ける寝る前のマッサージは最高だ。マッサージの技量云々ではなく、そのシチュエーション自体が至福。この状況を金銭で購おうとしたならば、いったい幾ら必要になるのだろうか。

きっと送り迎えのバイクのガソリン代、銭湯代、特上天丼の代金では贖い切れないだろう。

「…まだ暑いねぇ(ぐいぐいっ)」
「そうだな~」

ふむ、部屋には帰ってきてすぐエアコンをかけたので、そう部屋が暑いという訳でもない。きっと昨今の天候の事を言ってるのだろう。

「はい♪横になって~♪(ぐいぐいっ)、あ~あ、今年の夏ももうすぐ終わりだねェ」
「ん~、そうだな~…」

「今年の夏が終わる前に、海とか行きたいねぇ~(ぐいぐいっ)」

ん、あれ?これってもしかして、おねだりされるお父さんのパターン??

「う~ん…でも今から予定立てたりしても、間に合わないだろう…」
「そんなことないよぉ♪(ぐいぐいっ)、ね?師匠はルウの水着姿…見たくないの??」

「み、水着姿だとッ…!?」
『ガタッ!』



「そうだよぉ~。今年の夏が終わっちゃえば、次にルウの水着姿を見られるのは来年だよぉ?」
「うむむ…」

「ルウと師匠が来年も仲良く付き合ってくれてればいいけど…。人生何が起きるか解らないもんねェ…ハァ…」

おい、縁起でもないことを言うんじゃない。

その後「シズがそういうの詳しいから相談してみたら?」というアドバイスに従いメッセージを送ってみたら、その日のうちに仁菜さんから旅行計画書という名の見事な見積書がオレの通信端末に送られてきたのだった。

は…嵌められた。
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