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害虫人生

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エクスカリバールを両手に携え、地下8層へと初めて足を踏み入れた。

バールでの戦闘は良好。ならばこの機に地下8層の様子も窺っておこうと判断した為。地下8層は地下6層と造りが似ており、違うのは若干天井部が高いところ。いつもの如く階段付近にスパイダーネットで簡易陣地を構築し、歩を進めてみる。

スキル【粘液】で生み出したスパイダーネットは、長持ちするように念じてそこそこの魔力を注いで生み出してやれば、1時間程度は充分に持つ。ちなみに戦闘時に使う時は、3分から5分もつくらいの魔力で生み出してやるのが、一番魔力と効果のバランスが良かった。

そして、通路の奥から姿を現した地下8層のモンスター。

「むぅ、やっぱり…そうきたか」

またしても害虫。いや、もしかしたらただの不快害虫かもしれないが、それはどちらにしてもな話。

地下8層のモンスターは蛾だった。そしていつもの如くサイズがおかしい。その胴体部は人の上半身ほどもあり、気味の悪い目玉模様のついた翅を、ヒラヒラではなくワッサワッサと羽ばたかせながらこちらに近づいてくる。翅を広げた全幅は2メートル近くもありそうだ。

そんな巨大蛾が、そのデカい複眼を光らせ車の毛バタキみたいな触角を揺らしながら迫ってくる。

「スパイダーネット!(しゅばぁ!)む!?素早い!」

その近づいてくる速度なら、まず回避出来ないだろうと踏んで放ったスパイダーネット。しかし巨大蛾はすんでのところで身を翻して、スパイダーネットへの衝突を避けた。

「やるな、だがすでに対空戦闘も想定済だ!オタの妄想力イマジネーションを舐めるなよッ!喰らえ粘着空間アドゥヒィーシィヴフィールドッ!!」

『キュフワァァァァァァ……』

巨大蛾が飛んでいる通路の空間が白い霧に包まれる。

危険を察知した巨大蛾がさらに距離を取ろうと翅を羽ばたかせるが、もう遅い。翅を羽ばたかせたせいで白い霧状の粘液同士が結びつき、動いている綿あめ製造機のなかに手をつっこんだ時のようにベタベタになってしまうのだ。

「…ッ!?…ッ!(ふらふら…)…!?(どぐしゃ!)」

そのクルクルと巻いたストローのような口では声が出ないのか、巨大蛾はなんの鳴き声もなく、ただもがく様にして翅を羽ばたかせながら墜落した。

粘着空間アドゥヒィーシィヴフィールド、それは対飛行型モンスター用に開発した新技。ただまぁ理屈は酸霧と同じ。酸を霧状に散布するのと同じように、粘液を霧状に散布した空間を生み出したのだ。

今の場合でいえば、『飛んできた蛾にスプレー糊をぶっかけまくった』とでもいえばいいだろうか。

巨大蛾の翅は鱗粉で水などを弾きそうだが、糸状に結び付いた粘液同士が絡み合い、外から包み込むようにして巨大蛾の動きを封じた。

「また繭の状態に戻ったみたいだな。どれ、記録はできているな?ここからは分析時間アナライズタイムだ」

スパイダーネットの向こうに墜落した巨大蛾を、頭部に装着したカメラで撮影。緊縛された巨大蛾の生態を、詳らかにするのだ。

ふむ、まず外観は蛾。色は茶色い。焦げ茶色だ。山のキャンプ場に行った時に、夜のトイレや水場の蛍光灯の明かりに寄ってきている虫のなかでも、一番目立つデカい蛾に似ている。

但しサイズはモンスターサイズ。このダンジョンは『デカくすればなんでもモンスターになる』とか、思っていそうだ。

「しかし…蛾か。こういったモンスターはどういった攻撃手段を取るのだろう?」

蛾の害といえば、幼虫なら作物や庭木の園芸植物への食害。毒針毛や毒棘による皮膚炎の原因にもなる。しかし成長して蛾になった後も、その毒を持っているのかな?

蛾なので、一目で牙や爪といった武器になりそうなモノは見当たらない。ただ胴体には棘のようなモノが生えているのが見えるので、不用意に触らない方がよさそうだ。

口はクルクルと巻いたストロー状。もしかしたら、これを他の生き物にブッ刺してその体液をチューチューと吸うのかもしれない。翅からは、もがいて羽ばたく度に鱗粉が零れ出ている。キラキラとしてラメのようで少し綺麗だが、これも何かの攻撃手段になりそうだ。

「ふむ…きちんと撮れているな。よし、では最後に生命力の確認だ…そのままジッとして動くなよ(ドゴッ!グシャ!バキッ!)」
「…ッ!?…ッ!…ッ!?」


……。


今度の日曜も、女子大生三人を指導する日にした。

仁菜さんからは『付き合いだして初めての休みやし、ふたりでデートしてきたらええやん♪』と、メッセージがきたり、瀬来さんからも『私たちの事は気にせずに、遊んできたら?』とありがたい申し出があった。

が、オレがそれらを断った。

それはなぜか?オレが彼女となった瑠羽とのデートより女子大生三人の指導をとった理由は、実はけっこう真面目なモノだったりする。

何度も記したとおり、オレは学生時代いじめられていた。だがその原因を記憶を遡って思い返してみると、小学生時代にあったように思う。

小学生だったオレは、友達とも遊ぶ普通の、いや少し騒がしいアホな小学生だった。しかしある時、なにかの弾みで遊んでいた友達とケンカになった。そして意地っ張りだったオレは、その友達とすぐに仲直りができなかったのだ。

ケンカをした後で気まずくなり、いっしょに遊ばなくなって距離を置いた。しかしそうして疎遠になったケンカをした友達は、周りの友達に対ししきりにオレの悪口を言っていた。

そうしてその話を聞いたクラスメイトやらがオレを責めたり馬鹿にしてきたものだから、またそのクラスメイトともケンカになって、オレは次第に孤立していきクラスでも浮いた存在になってしまったのだ。

そんなこんなで小学校から中学校に上がった時には、すっかりオレは『いじめられて当然のヤツ』みたいに周囲から見られるようになってしまったのだと思う。

『じゃあ散々いじめられていたとか言ってたのに、結局原因オマエやんか!』

という意見にも頷ける。今ならね。

ただ当時のオレには、ケンカをした相手の友達からだけ話を聞いてオレに文句を言ってくるクラスメイトが『なんで関係もない奴が、正義感ぶって嘴挟んでくんねんッ!』と我慢ならなかったのだ。だからまたそんなクラスメイトともケンカになった。

今でいえば一元的な情報しか知らないのにそれを鵜呑みしネットで個人叩きをしている連中と、当時のクラスメイトは同じだったように思う。

そこで担任の教師がアホな小学生同士のケンカでも双方の意見を訊いて名裁きでも見せてくれれば良かったのだが、担任のおばはん先生は、『みんなの意見を聴いて、みんなあなたが悪いと言っている。だからアナタが謝りなさい』と、一方的にオレに謝罪を要求したんだなこれがまた。

『え?なに!?オレの意見は一言も聞いてくれないのッ??』

オレという少年が、酷くショックを受け、ひねくれる引き金となった瞬間だった。

その後はクラス会議でヤリ玉にあげられたオレ。あまりのショックに、クラスメイトの前で謝ったのかそうでなかったのかすら覚えていない。

…。

ま、それらはもう取り返しのつかない、しょうもない昔話だ。

だが、瀬来さんと瑠羽は違う。

今ならいくらでも関係を回復するチャンスがある。『いま、彼女らの心の距離をひらかせてはいけない!』と、オレのゴーストがしきりにそう囁いているのだ。

だからオレは、『日曜はみんなでダンジョンに行った後で、スーパー銭湯にいって焼肉パーティーだぞッ!!』と、三人が悦びそうなメッセージを送っておいた。

願わくは、若く美しい彼女たちには健やかに成長してほしい。オレのようにひねくれて、世を恨む様な人間にはなって欲しくなかったからだ。。。
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