上 下
39 / 613

恋愛相談

しおりを挟む
瀬来さんから、電話番号が送られてきた。

なんてことだ。コミュ障オタのオレが女の子から電話番号を教えてもらうなんて、もちろん初めての事。なので突然宝くじの一等に当選してしまったような気分で、ついオタオタと取り乱してしまう。

「待て!いや待て待て待て待て…ッ!?ふぅ~!はぁ~ッ!ふぅ~!はぁ~ッ!落ち着けオレッ!うん、これはきっと孔明の罠だッ!!」

そうだ、こんな美味い話がそうそうオレのもとに舞い込んでくるはずないじゃないか。きっと電話を掛けた途端に『知りもしない変なおっさんに繋がってしまう』とか、『ざんね~ん♪ドッキリでしたぁ♪』なんて、電話の向こうで瀬来さんら女子大生三人がケラケラと笑っているのだろう。

うん、アイツら平気で年上のことからかうからなぁ。

そうだな。きっとそうだ。そう考えると、だいぶ落ち着いてきた。なら出来る。女の子に教えてもらった電話番号に、オレだって電話くらいかけてみせる!ようし…。

『ピポパピプペポ…(プルルルル…プルルルル…)』

ドキドキ…。

『(プルル…ッ)はい、瀬来です』
(あ、かかった!)

良かった。どうやら電話をかけたら変なおっさんに繋がってしまうルートは回避できたようだ。

「もしもし、江月です」
『あ、江月さん。すぐに連絡くれたんだ。ありがとう~。この間はいっぱいご馳走になっちゃって、あの中華!とっても美味しかったですよねぇ』

瀬来さんは電話の相手がオレと解ると、いつもの快活な調子で話しはじめた。あの後、4人で食事している時の写真がお礼のメッセージと一緒に送られてきたんだよね。なかには『三人の美人女子大生を侍らせて豪遊するオレ』といった構図の写真もあったりして、オレ史上近年稀にみる実に愉しい時間だった。

「ああうん、どうしたしまして。それで…電話番号送られてきたから掛けたんだけど、オレが言うのもおかしいけど大丈夫?そう詳しく知りもしない男性に電話番号なんか教えたりして?」

『ああ、それはぜんぜん平気です。こっちの番号はいつでも解約できる料金安い受信用の電話だから。ふふっ…そんなことまで心配してくれるなんて、江月さんやさしいね」

なんだ、そうだったのか。道理で気安く番号を教えてくれた訳だ。しかし今日日の女の子はしっかりしてるよ。オレなんか電話番号教えてもらっただけで瀬来さんにも脈があるんじゃないかって、すっごいドキドキしたのに。

しかし気になっていたことを初めに確認できてよかった。でなければオレは、瀬来さんにも脈があるんじゃないかって勘違いしたまま間抜けな勘違い野郎で今後の話をしなければならなかったのだから。

「いえいえ、それで…番号送ってくれたのは糧品さんのこと…かな?」
『うんそうなのぉ!私もすっごくビックリしちゃってさぁ!ルウって見た通り大人しい子でしょ。いままで恋話しても、私は別に…なんて言ってぜんぜん男性の話なんかしなかったのにぃ~』

確かに糧品さんは、奥手で引っ込み思案そうな雰囲気がある。て、見た目からしてそうだけど。

「へぇ~、そうだったんだ。それが急に?」
『うん…相談があるからって二人きりになれる場所に連れて行かれてね。コーチのこと好きになっちゃった…万智ちゃん、私どうしよう…って!キャーッ!ルウ可愛くないッ!?』

電話の向こうで瀬来さんが、糧品さんの恋話に盛り上がっている。

反面オレは若干のトーンダウン。うん、解ってはいても、惹かれていた女性に『あなたには全く異性として興味持っていません』といった態度を、こういった形ででも示されてしまうと意外に傷つくもんだ。

だが、コミュ障オタとはいえオレも大人の社会人。

ま、現在は無職だけど。でもそんな気持ちを切り替えて糧品さんについて訊いてみることに。そう、オレのオアシス。彼女になってくれるかもしれない糧品さんについて早速リサーチだ。

「そうか、そんな風に思ってもらえるなんて光栄だな。で、瀬来さんが恋のキューピッド役を引き受けた訳だね」
『ああ…うん、そのことなんだけどね。ルウに、私から江月さんにルウのことどう思ってるか訊いてほしいって頼まれたから、今の話をしたんだけど…』

ん、なんだ?急に瀬来さんの言葉に切れがなくなってきたぞ。今の話の流れ的には、どう考えてもオレと糧品さんをくっ付けて、めでたしめでたしなのでは?

『悪いんだけど江月さんには、ルウに交際を申し込まれても返事を待ってほしいんだよね…』
(なんですとッ!?)


……。


『…ッ!ッッ…!もしもし!聞こえてる江月さん!?』
「ん…ああ!聞こえてる…ちょっと電波が悪かったみたいだ」

はい、ほんとは若干の思考停止に陥っておりました。だって、『交際の話をしておいて、その返事を待て』とは…。

恋愛レベルの低いオレには、ちょっとこの難解なパズルは解けそうにない。そうなると、あとはもう恥を忍んで瀬来さんに理由を問うより他にない。

「え~と、話としては解ったけど…。その理由や背景が、いまひとつ理解できてないかも。よければ瀬来さん、説明してもらえるかな?」

『うん、そうだね。これは江月さんにも解っておいてもらった方がいいから、説明するね。ほら、ずっと恋愛にも奥手だったルウが急にこんな事言いだすのって…やっぱりすこし変なんだよね』
「うんうん…」

『で、私考えたんだけど…。普通、初対面で虫みたいな恰好した男性に一目惚れする??』
(ゴハァッ!そ、それは…オレの事かあぁぁぁ~~ッ!!)

うん…ていうかオレ以外にいないわな。彼女達からすれば、オレは虫みたいな恰好をした変なおじさんだ。

『それにあの日、ルウはダンジョン初体験だったでしょ。ゴブリン殺して、酷いショックも受けちゃってたし…。だからそんな時に近くに頼りになる男性。この場合は江月さんだけど、だからショックと吊り橋効果でルウは江月さんのことを好きって勘違いしてるだけだと思うんだ…』

ぐぬぅ…、なんて理路整然とした論拠と結論だろうか。

確かに。人間怖い思いをすると、種の保存本能が仕事をして子孫を残そうとするよう気持ちが動かされるという。それが吊り橋効果。そして危険なダンジョンは、吊り橋と同じだ。

さらには強いショックを受けた状態でそこに頼れる異性がいたなら、本能的にそこに依存しようとする気持ちの動きも理解できる。

うむむ…反論の糸口を見いだせず、オレは何も言い返せなかった。

「な、なるほど…。そうか、糧品さんには怖い思いをさせてしまって申し訳なかった…」
『ううん、それはルウを強引に誘った私が悪かったから!ルウは仲間外れになるのが嫌でついてきただけなのに、無理させちゃったのは私だから…』

「でもこれで解った。糧品さんがそんな事を言い出した理由も、瀬来さんがそれに待ったをかける理由も。じゃあオレはどうすればいい?今度会った時にでも、糧品さんにその話をすればいいのかな?」
『江月さんにそこまでしてもらうのは悪いから、それは私からうまくルウに話しておきますね。なんだか変な話しちゃってすみません』

ちょっと調子を改めた瀬来さんが、真面目な口調で話す。お店で見る接客モードに近い口ぶりだ。

「うん、そういうことなら任せるよ。じゃ、この話はここまでにして、今週末も指導した方がいいのかな?」
『はい、おねがいします。ルウもシズも楽しみにしてるみたいなんで』

「そうか。じゃあ次の日曜もムシムシ先生のダンジョン指導だ。無理ない程度に身体を鍛えておくように」
『は~い、それじゃあ(…プッ)』



オレは通話の切れた後、数秒あちこちと視線を彷徨わせ、それから一際長い溜息を吐いた。

「…。…、…。はぁ~~~~~…ッ」

瀬来さんには脈これ無し。糧品さんも吊り橋効果による勘違い。オレはたかだか10~20分の間に、二重三重に失恋を経験したみたいだ。

「ハァ…そもそもオレみたいなコミュ障オタが、可愛くて美人な女子大生たちに相手される訳もないか…。あ~あ、やんなっちゃった。もう今日はクソして寝ようかなぁ」

こうして失恋に似たショックを受け、オレは三日ほどダラダラとして過ごしたのだった。


……。


が、明日は女子大生たちを鍛えるダンジョン指導の日だからと、少し身体を動かしていた土曜日の午後。再び瀬来さんからメッセージが届いた。

『ルウが大学休んでます。明日お見舞いに行くので、江月さんも付き合ってもらえますか?』
「なぬぅッ!?」

(なぜ糧品さんのお見舞いに、瀬来さんがオレを誘う?それに明日のダンジョン指導は…??)

なんだか事態は、オレの思いもよらぬ方向に転がりだしていた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...