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学園長室

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「「……」」

学園長室に沈黙がおり、緊迫した空気につつまれる。つぎに学園長が発した言葉次第で、オレの運命は決してしまうのだろう。

でも学園長は口元にあった両手で顔全体を覆うと、さらに沈黙を続けた。

「「……」」

「…なぜだ」
「は…?」

そしてだいぶ経ってからのつぶやきにも似た問いかけに、意味が読み取れず困惑。

「なぜキミのような人の子が!メテルリアにも出来なかったことをッ!!」

(え…いったい、なにを??)

それは問いかけなのか、慟哭なのか。感情を昂ぶらせた学園長の眼がオレを見据える。しかしそれはノックをする音が響いたことで、オレから後ろの扉へと外された。

「…入りたまえ」

気を静めた学園長がいつもの口調で入室を許可する。と、背後から快活な女性の声がひびいた。

「失礼します。お呼びになりましたか伯父さま。でも魔法で私を呼び出すなんていったい―」
(おじさま…?)

が、入室してきた女性は学園長以外の人物が室内にいるとは思っていなかったらしく、オレの存在に気がつくと口調をあらため言い直した。

「…魔法科2年のリュデルニア、参りました」

そしてオレの横に並んで立つと、不躾な視線を投げかけてくる。それはいかにも、「なんでアナタみたいのがここに居るの?」といった様子。

「よく来てくれたリュディ。さて、早速だが隣にいる彼になにか感じるかね?」
「この生徒に、ですか…?」

すると学園長にリュディと呼ばれた女性は、さらにマジマジとオレの顔を覗きこんでくる。

ブロンドの艶かなストレートに、若草の色を思い出させるような明るい緑の瞳。そして抜けるような白い肌と人間よりも大きく伸びた耳。彼女も学園長と同じエルフだ。ただエルフの女性がこの学園の制服を着ていることに、なぜだろうと疑問に思う。

「…え、ヤダなに!?」

だがそうしてオレの顔を覗きこんでいたエルフの女性が何かに気づいたようにして驚くと、今度は近視のひとがするように眉間にしわを寄せ、さらに顔を近づけてきた。

「むぅぅ~~…ッ!」
(な…?ちょ、ちかい…!)

「ちょっと!うごかないで!」
「えぇ!?」

おでこもくっ付かんばかりに顔を近づけてくるので下がって逃げようとすると、それを動くなと両肩をつかまれた。

「うそ…、なんで…?この魔力量、わたしより多い!?」

と、ようやくショックを受けてあとずさってくれたので、オレはようやく彼女から解放された。

「ふぅむ…、時間がかかりすぎだよリュディ」
「ですけど伯父さま!これはどういうことですの!?エルフの私より魔力量の高い人の子がいるなんて!」

「ああ、その件できみにこうして来てもらったんだ…」

ショックを受けているエルフの女性を落ち着かせるように、学園長はゆっくりとした口調で会話をつづける。

「…そこにいる彼はね、どうやらハイエルフ化の修行をやり遂げてしまったそうだ」

「そんなッ!あの伯母さまでも爆散したのにッ!!」
「え?伯母さんが爆散ッ!?」

言ってしまってからハッと口を手で覆うエルフの女性。そして、それに釣られオレも失言してしまったことにハッとする。

それにおそるおそる視線を向けると、いつも穏やかな笑みをたやさぬ学園長の顔に沈痛な思いがにじんでいた。
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