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模擬戦後
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模擬戦が終了するとメディナ先生は血相変えて校舎に戻っていき、クラスメイト達がその事態にざわつくなか、オレはデロンに対し強力にゴマを吸っていた。
(あれ、こういうのって胡麻を擦るだっけ?)
ともかく相手は貴族で、オレ平民。
魔法模擬戦の最中だったとはいえ、平民が貴族に対し怪我を負わせてしまうというのはたいへんな重罪にあたる。なにせ魔術学園の生徒のほとんどが、貴族。そこにちょっと魔力を持って生まれた平民の子が、お情けで通わせてもらえているというのが実情なのだから。
それには恐ろしい魔物から人の領域を守るのに、どうしたって魔力を持つ人間が欠かせないという事情があってのことだけど。
そこで。
「ああ、デロン様はなんてご立派なんだ!デロン様がその大きな胸を貸してくださったおかげで、オレはこうして成長できました!」
「え?そ、そうなの…??」
「そうですとも!すごいうえにその御心もお優しいデロン様は、オレのような平民にもその慈悲をたれてくださったのですよね!」
「お、う、うむ…!ま、まぁな」
「ああ、やはりそうでしたか!では今まで厳しいこと言われていたのも、実はすべてオレのことを気にかけてくださっていたからだったのですね!!」
「あ、あ~。まぁお前はなかなかに見どころのあるヤツだと、…エヘン!なにせ俺は慈悲深いからな!」
「わぁ~!さすがはデロン様です!」
オレがデロンを称賛し褒めそやすと、デロンも解ってくれた。デロンは話せば解かってくれる、とっても良いヤツだった。
そうだ。彼は、いうなればオレの一番の被害者だ。
オレが一年近くも魔力凝結魔石化法の行にかかりきっていたせいで、彼の存在に気付かずお辞儀をしなかったと何度も注意を受けた。それが積もり積もって、オレに悪意を持つようになってしまったのだから。
なので悪いのは、みんなを危険に晒したうえずっと不敬だったオレだ。
だから魔力凝結魔石化法の行が成った今、いままで迷惑をかけた分をいい気分にしてお返しするのが当然の筋というモノだろう。
…。
しかし一方で解ってくれてない感じのメディナ先生が、校舎からほかの先生方を引き連れて戻ってきた。
「あの生徒です!あの生徒がほかの生徒に癒しの効かない怪我を!おそらくは魔物に憑りつかれているんですッ!!」
するとその声にクラスメイト達はいっそうざわつき、オレはやってきた先生方にすっかり囲まれてしまった。
「さ、デロンくん!早くこっちに!」
「あ、あぁ…はい」
メディナ先生に名を呼ばれ、こちらを振り返りつつデロンがオレの元から去っていく。これにより完全に包囲網が完成した形だ。
「あのぼんやりグロウが魔物に?」
「にわかには信じられませんな…」
「本当です!呪文を詠唱せずに魔法を使ってもみせました!」
そんな先生方のやりとりの後、一番年配でご意見番のゲルーダ先生がオレの前に歩み出た。
「かの者からの悪意を読み取れ、イビルセンス!…さて、グロウじゃったな。おぬしは魔物に憑りつかれておるのか?」
いきなり自分に向け魔法を使われたのでビックリしたけど、それはどうやら悪意を読み取る魔法だったようだ。ヘタに反応しなくてよかった。もし抵抗なりをしていれば、それで魔物憑きだと判断されていたかもしれない。
「いえ、ゲルーダ先生。オレは魔物になんか憑りつかれてはいません」
「ほぉ…。ではなぜ、急に変化があった?今のおぬしは昨日までとは、まるで別人のような魔力だぞ…」
年老いたゲルーダ先生がその垂れ下がった白い眉毛の向こうから、オレに鋭い眼光を注ぐ。うん、ならここは、ウソ偽りなく本当のことを話す方がいいだろう。
「実はオレ、いままで自分で考えた秘密の行に挑んでいました。それが今朝、遂に成ったんです」
「ほお、そんなことをしておったのか。で、その―」
「おもしろい話をしているようですね。ですがその話、落ち着いた場所でしっかりと聞く必要があるようです」
「が、学園長…」
よく通る落ち着いた声がその場に響くと先生方の人垣が割れ、学園長が歩いてくるのがみえた。
(あれ、こういうのって胡麻を擦るだっけ?)
ともかく相手は貴族で、オレ平民。
魔法模擬戦の最中だったとはいえ、平民が貴族に対し怪我を負わせてしまうというのはたいへんな重罪にあたる。なにせ魔術学園の生徒のほとんどが、貴族。そこにちょっと魔力を持って生まれた平民の子が、お情けで通わせてもらえているというのが実情なのだから。
それには恐ろしい魔物から人の領域を守るのに、どうしたって魔力を持つ人間が欠かせないという事情があってのことだけど。
そこで。
「ああ、デロン様はなんてご立派なんだ!デロン様がその大きな胸を貸してくださったおかげで、オレはこうして成長できました!」
「え?そ、そうなの…??」
「そうですとも!すごいうえにその御心もお優しいデロン様は、オレのような平民にもその慈悲をたれてくださったのですよね!」
「お、う、うむ…!ま、まぁな」
「ああ、やはりそうでしたか!では今まで厳しいこと言われていたのも、実はすべてオレのことを気にかけてくださっていたからだったのですね!!」
「あ、あ~。まぁお前はなかなかに見どころのあるヤツだと、…エヘン!なにせ俺は慈悲深いからな!」
「わぁ~!さすがはデロン様です!」
オレがデロンを称賛し褒めそやすと、デロンも解ってくれた。デロンは話せば解かってくれる、とっても良いヤツだった。
そうだ。彼は、いうなればオレの一番の被害者だ。
オレが一年近くも魔力凝結魔石化法の行にかかりきっていたせいで、彼の存在に気付かずお辞儀をしなかったと何度も注意を受けた。それが積もり積もって、オレに悪意を持つようになってしまったのだから。
なので悪いのは、みんなを危険に晒したうえずっと不敬だったオレだ。
だから魔力凝結魔石化法の行が成った今、いままで迷惑をかけた分をいい気分にしてお返しするのが当然の筋というモノだろう。
…。
しかし一方で解ってくれてない感じのメディナ先生が、校舎からほかの先生方を引き連れて戻ってきた。
「あの生徒です!あの生徒がほかの生徒に癒しの効かない怪我を!おそらくは魔物に憑りつかれているんですッ!!」
するとその声にクラスメイト達はいっそうざわつき、オレはやってきた先生方にすっかり囲まれてしまった。
「さ、デロンくん!早くこっちに!」
「あ、あぁ…はい」
メディナ先生に名を呼ばれ、こちらを振り返りつつデロンがオレの元から去っていく。これにより完全に包囲網が完成した形だ。
「あのぼんやりグロウが魔物に?」
「にわかには信じられませんな…」
「本当です!呪文を詠唱せずに魔法を使ってもみせました!」
そんな先生方のやりとりの後、一番年配でご意見番のゲルーダ先生がオレの前に歩み出た。
「かの者からの悪意を読み取れ、イビルセンス!…さて、グロウじゃったな。おぬしは魔物に憑りつかれておるのか?」
いきなり自分に向け魔法を使われたのでビックリしたけど、それはどうやら悪意を読み取る魔法だったようだ。ヘタに反応しなくてよかった。もし抵抗なりをしていれば、それで魔物憑きだと判断されていたかもしれない。
「いえ、ゲルーダ先生。オレは魔物になんか憑りつかれてはいません」
「ほぉ…。ではなぜ、急に変化があった?今のおぬしは昨日までとは、まるで別人のような魔力だぞ…」
年老いたゲルーダ先生がその垂れ下がった白い眉毛の向こうから、オレに鋭い眼光を注ぐ。うん、ならここは、ウソ偽りなく本当のことを話す方がいいだろう。
「実はオレ、いままで自分で考えた秘密の行に挑んでいました。それが今朝、遂に成ったんです」
「ほお、そんなことをしておったのか。で、その―」
「おもしろい話をしているようですね。ですがその話、落ち着いた場所でしっかりと聞く必要があるようです」
「が、学園長…」
よく通る落ち着いた声がその場に響くと先生方の人垣が割れ、学園長が歩いてくるのがみえた。
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