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魔力凝結魔石化法

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魔力凝結魔石化法。魔術学園の入学試験を受けている時。ふと出題されていた問題文から、オレはそのヒントを得た。

問12:なぜ魔物は呪文の詠唱なく魔法が使えるのか答えよ。

その答えは、魔物はみなその体内に魔力の根源たる魔石を備えているからだ。これにより咆え声ひとつあげられないような魔物でも、呪文の詠唱なく魔法が使える。だがその問いは、試験が終わった後でもずっとオレの心を縛り続けたのだった…。


オレは、本当に何もない辺境の小さな村で生まれた。

そして生まれつき人より魔力が多いとかで、流行病で両親が死んでからは村でひとりだけの女まじない師マルローがオレを育ててくれた。

本当に何もない村だ。

それに加え時折魔物が現れては、その度に村人や家畜の数が減った。それでもマルローが村人の為に薬を作り、オレに教えてくれた魔法で畑を荒らす獣を退治できたから、なんとかふたりで暮らしてこれた。獣を倒した時に手に入る毛皮や肉が、村ではお宝だったんだ。

そうして年貢の季節になったある時、徴税官の護衛で村にやってきたランベルトがオレをみつけた。ランベルトは領主の下で騎士をやっていて、自分の部下に魔法使いが欲しいとずっと思っていたそうだ。

それからはあっという間に話がすすんだ。

オレはただ風の魔法で枯葉を集めて堆肥を作ってただけなのに、それを見たランベルトが領主を口説いてオレを魔術学園に入れるための学費を出させたんだ。

条件はただひとつ。魔術学園を卒業後は、即ランベルトのいる騎士団に入ること。だからオレに、職業選択の自由なんてなかった。

そんな風に思うのは、オレが生まれる前の記憶をおぼろげながらも持っているからだろう。

マルローに訊いたら、普通はだれもそんな記憶は持ってないと言っていた。でもオレには生まれる前の記憶みたいなモノがあって、それでは連なった鉄の箱に毎朝ぎゅうぎゅうと奴隷が詰め込まれる酷い国で生きてたみたいだ。

そのせいか、オレは他の人間より少しだけ我慢強いのかもしれない。

ともかく入学試験の時に思いついた魔力凝結魔石化法を、試してみたくて仕方なかった。でも、魔物の魔石を人間が取りこむのはダメだ。むかし、そうやって自分の魔力を高めようとした魔術師が大勢いたらしいが、だれもみな人から恐ろしい魔物に変わってしまったという。オレも小さい頃、赤くて甘そうな丸い魔石を口に含もうとしてマルローに酷く怒られたことがある。

なら…、どうすればいい?そうだ、自分で自分のための魔石を生み出せばいい。

魔力を圧縮し、どんどんどんどんと凝縮していけば、いずれは魔石のように結晶化するはず。そうすれば自分で生み出した魔石なのだから、決して魔物化することもないだろう。

その一念で、オレは入学直後から魔力を圧縮し続けていた。

時間はこの、魔術学園にいる間しかない。騎士団に入れられてしまえば、魔法を使わないなんてワガママは許されない。それにオレの直感が、成長期の今ならば魔力を圧縮するその高い負荷にも、カラダが耐えられると告げていたのだ。


そして、今現在。。。

「おい、タリィぞこのインチキ野郎!」

体力教練でみんなより何周も遅れたオレは、その背中に罵声をあびていた。

「なんでこんなヤツが入学できたんだ?」
「ハッ、マジで信じられんな!」

学園の校庭をぐるぐると走る教練で、追い越しざまに罵声を浴びせゆくクラスメイト。それは入学試験以降一度も魔法を使って見せたことのない、オレへの罵倒。

(いやダメだ、集中をみだすな。オレには今しかないんだ。平常心、平常心…)

それにいつものように、心を静め集中を乱さず魔力を圧縮し続ける。

騎士団に入れられてしまえば、そこはもう魔物の跋扈する辺境の戦場だ。

村はずれで訓練をする騎士たちを見たことがあったが、みなオレではとても歯が立たないような強い騎士たちばかりだった。それでも魔物との戦いでは、簡単に死んでしまう。

ならこの学園でオレのやるべきことは、ちょっと強くなったり使える魔法の数が増えたりといったことではなく、何匹もの魔物と戦っても勝てるくらい強くなることだと思う。そのための、魔力凝結だ。

でも半年ぐらいで出来るだろうと踏んでいた魔力凝結は、一年近くたった今でもまだ成功していなかった。

(それでも…、最近はだいぶ今までと違った感じがしてるんだ。だからきっと、きっとあと少しだ…)


時を告げる鐘が鳴り、教練を終えたクラスメイトが校舎へと戻っていく。

それでも時間かけつつ同じ周回を終えると、開いた肩幅の片足に体重をかけ、首を大きく左に傾け、そうして空いた方の肩を教鞭でトントンと叩いている片眼鏡をかけた魔導教官のメディナ先生がオレを待ち構えていた。

ああ…、アレは見るからに、『あなたには本当に、呆れ果てています』のポーズだ。

「グロウくん!いつもいつも同じことを言うのは私も嫌なんだけど。あなたは身体強化の魔法ひとつ使えないの?なぜずっと魔法を使わないんです??」

入学当初はやさしかったメディナ先生も、オレがずっと魔力を溜め圧縮していることを黙っていたせいで、今ではだいぶ厳しい口調に変わってしまった。

「…先生すいません。魔法は使えます。が、前に話したように今は事情があって使えません。でもそれは時がきたら、先生にも必ずお話しします」

うん、今は担任のメディナ先生にも決して言えない。

だってオレがやっているのは、超危険な魔力圧縮。それをもう入学から一年近くやり続けているんだ。もしこれが暴発したら、それこそ周囲一帯がド派手に吹き飛んでしまってもおかしくはない。だからそんな真似をずっとしているとは、口が裂けても言えない。ぜったい今すぐやめろと言われるから。

ふつう魔力圧縮といったら、溜めてすぐ撃つチャージショットみたいなモンだ。て…あれ、なんだっけチャージショットって?

「ハァ…またその言い訳ですか!もういい加減にその言い訳も聞き飽きました!いいでしょう!あなたがそういうつもりならもう結構です、堪忍袋の緒が切れました。グロウくん!覚悟しておきなさい!!」

そう言ってメディナ先生は高いヒールを履いた踵を返すと、足早に去って行ったのだった。
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