俺の好きを信じてよ

あまき

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好きになってから

文化祭(上)

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 高校生活の醍醐味といえば、その2、文化祭!


 10月の頭に開催されるそれは、体育祭同様なかなかの盛り上がりを見せる行事だ。なんせこの時ばかりは学校も開放されて他校の生徒もやってくるから、女子も男子も浮かれきっている。


 新学期の始まった学校では、夏の余韻もそこそこに慌ただしく準備が進められていた。
 俺たち2年生は学年で模擬店をやることになっていて、出店したいグループに別れて仕入れから設営、販売を任されていた。

 グループ、とはいってもだいたいは部活のメンバーで集まる風習があり、それぞれ先輩の味を受け継ぐ由緒ある出店をすることが多い。

 かく言う俺らバスケ部も、受け継がれし“味”を身に着け今年も歴代同様模擬店売上一位を目指し奮闘する、わけだが。


「チュロスの味なんてどうやって受け継ぐんだよ」
「ばっかお前。味付けとかあるだろうが!」
「全部冷凍をあっためるだけじゃん」
「ばっかお前。そのあっため加減とかあるだろうが!」
「レンタルしたウォーマーなのに?」
「ばっかお前。レンタルしたウォーマー加減とかあるだろうが!」


 ウォーマー加減ってなんだよ、なんてツッコミはとりあえず飲み込んで、やる気満々の隼人の隣で谷口と二人目を合わせる。
 こういうお祭りが大好きな隼人は、試合でも出したことのない輝きを見せていた。


「特に! 今年は打倒バレー部だからな!」
「なんでバレー部限定なんだよ」


 拳を掲げる隼人に、谷口がため息混じりに聞く。
 隼人がフフンと鼻を鳴らしてドンッと胸を叩き谷口に向き合う。そんな二人の様子を横目に、俺はチュロスの価格表を見比べていた。


「いいか? バスケ部とバレー部は毎年一位二位を争う仲だ。ここ数年はバスケ部がそれまでの伝統を泣く泣く捨て去りチュロスを売り始めたことで見事女子受けをし、一位に輝いているわけで」
「薄っぺらい伝統だな」
「今年、相変わらずバレー部は古き伝統を受け継ぎ“すいとん”を作るようだし。今年の売上一位ももはやバスケ部の手の中にあるようなものだろう」
「高校の模擬店で“すいとん”はねぇよな。しかも10月上旬、そんなに寒くねぇし」
「しかぁし!!」


 突然隼人が声高々に叫ぶから、俺の肩もびくついてしまった。見るとその目はメラメラと闘志を燃やしている。


「今年の模擬店には! 奴がいる!」
「やつ?」
「我が校きっての! 王子が!!」


 その叫びに、俺の手からボールペンが零れ落ちた。その音に谷口が俺を見て声をかけてくるが、今は正直それどころではない。


「あの身長! シャツ越しに分かる筋肉! なによりあの! ルックス!! 我が校だけでなく他校の女子からも絶大の人気を誇るプリンスが模擬店に立つ、ともなれば……ここまで言えば愚民なお前らにも想像がつくだろう」
「あーつまり、女子の人気が欲しくて健気にもチュロスにシフトチェンジした俺たちだが、すいとんのプリンスの人気には叶わねぇって……まぁそんな感じ?」
「ハイ、谷口くん座布団10枚」
「あざーっす」


 わざとらしいコントを繰り広げる二人を、同じ部活のメンバーが早仕立てながら見ている中、俺は煩い心臓を落ち着かせることができないでいた。


 そうだ。隼人の言うとおり、倫也の身長、筋肉、ルックス、どれをとっても人気要素しかなく。現に夏のバレー県大会でなかなかいいところまで行った倫也たちは、部の人気もうなぎのぼり状態で。つまりそれは倫也の人気にも比例した。

 それは一緒に下校している時にも感じていたことだ。だってこれまで電車の中ではチラチラ見られるだけだったのに、今は毎日のように知らない女子から声をかけられている。

 声をかけられた倫也はいつだって冷たくはないものの、バッサリと切り捨てるように返事をするから不安になるなんてことはないが、改めて第三者の口からその人気ぶりを聞くとどうにも、胸のあたりがざわざわとした。


「春樹? おーい、どした?」
「なんか俺……自信ない、かも」
「チュロスのこと? 大丈夫だって! まだ一ヶ月あるし隼人もやる気だし、みんなで対策練ろうぜ」


 「にしても春樹もやる気満々だったんだな~」なんて頷いて見せる谷口に、俺は曖昧な笑みしか返せなかった。


 バレー部の出店に人だかりができたらどうしよう。
 それが全部、倫也狙いだったら?
 俺、その様子を今までどおり気にすることなく見てられるかなぁ。


「あぁ、そうかこれが」


 嫉妬ってやつ、なのかも?
















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