俺の好きを信じてよ

あまき

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好きになってから

勉強合宿with人人

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「で?」
「ん? で?」
「いやだから……で?」
「え? なにが……で?」
「いやいやいやいやいや…………は?」
「へ?」


 んん?


 今日は夏休み最終日。義人の家で隼人と共に勉強合宿、と言う名の『夏休み課題追い上げ合宿』を行っています。






 ◇◇◇



「よくもまぁ、ここまで何もせず課題を放置できたよね」
「そんな褒めるなって」
「むしろ貶してるんだけどね」


 隼人が胸を張って言うと、義人がジトッと睨みつけてからため息をついた。確かに、夏休み前から配られていた隼人の分厚いワーク集は、最終日の今も手つかずのままであったのだから。義人のため息は頷ける。


「つーかさ、春樹はほとんど終わってんじゃん。どうなってんの」
「どうもこうも、俺は隼人と違って毎日コツコツ頑張ってたんだよ。なぁ義人、ここちょっと分かんなくてさ、聞きたいんだけど」
「いいよ。どれ?」


 この裏切り者ー! なんて叫び声を無視して横並びの義人に近づく。義人の教え方は本当に分かりやすくて、ここ数日分からず悩んでいた問いを、いとも簡単に理解することができた。「すっげぇ!」と感心すると「それほどでも」なんて涼しい顔をする義人。いや義人先生。お見逸れしました。


「でもさぁ、春樹」
「ん?」


 義人先生の教えを無駄にしないようノートに書き込んでいると、訝しげに覗き込んでくる二名の人人。


「な、なんだよ」
「春野くんには聞かないの?」
「え? なにを?」
「分からない問題」


 聞かれていることの意味が分からず、俺は首を傾げる。


「ん? なんでここで倫也?」
「夏休み、会ってたんでしょう?」
「な、ななななんでそれを!」
「いや分かるから。普通に」


 「まぁ、隼人はまだ分かってないっぽいけど」「はぁ? なんの話だよ」「そういうところだよ」「どういうところだよ!」
 なんて会話が目の前を飛び交い、目をぱちくりさせる。

 つまりえっと、どういうこと?


「ほら。夏祭り一緒に行ったんだろ?」
「っ、ああ! その! 話!」
「他になんの話があるの」


 呆れた物言いの義人を他所に、俺はうんうんと頷いた。


「夏祭り行ったよ! すっげぇ楽しかった!」
「あー、でしょうね」
「倫也、射的うまくてさぁ。バレーでアタックがうまいのも、そういう狙いの定め方がうまいのかなぁって」
「まんまとアタック決められた奴もいるしね」
「なんて?」
「なんも」


 義人が頬杖をついて微笑ましそうに見るから、俺は首を傾げる。隼人を見ても「なにがなんだか」なんて肩をすくめるので、ますます不思議に思うばかりだ。


「夏祭りは射的楽しんだだけ? 勉強会とかしなかったの? 今みたいな」
「あ、勉強会は何度かしたよ。隼人じゃないけど、俺も倫也や義人がいなきゃ課題終わらせられなかったし、ほんと感謝してる」


 「だからありがとうな!」と握手を求めると、義人は一度げんなりと項垂れてから俺の手をとってくれた。なにそれ。そんなに嫌だった? 握手。


「で?」
「ん? で?」
「いやだから……で?」
「え? なにが……で?」
「いやいやいやいやいや…………は?」
「へ?」


 んん?
 俺が眉をひそめて首を傾けるほどに、義人の目が見開かれていく。


「お泊まりとかしなかったわけ?」
「なっ! な、なんで!」
「あ、したの?」
「し、ししししてねぇよ!」

「……え? なんで?」
「な、なんでって……普通に夕方解散だったし」


 そもそも、義人や隼人とは勉強合宿だのゲーム大会だのと予定を立てて泊まりで遊んだりするものの、他の友だちとはそこまでの交流はないし。遊ぶにしても昼前から集まって夕方解散が普通の流れであって。


「べ、別に……そんな流れにもならなかった、し」
「そんな流れって?」
「と、泊まったり、とか」


 正直言うと、倫也の家に行った時も倫也が俺の家に来た時も、泊まって次の日の朝まで一緒に過ごせたりするのかなって、期待していたところもある。倫也とはその……恋人、だし。俺は倫也とずっと一緒にいたいと思ってるし。

 でも倫也の方にはそんな気持ちはなかったようで。夕方になると「暗くなるといけないから送るよ」って帰らそうとしたり、「あんまり遅くまでいるとお家の人に迷惑だから」ってさっさと帰り支度をしたりするし。

 まぁ恋人とはいえそんなもんなのかって、俺は自分に言い聞かせていたところであって。

 そんなむやむやした気持ちがうまく言葉にならなくて、口をモゴモゴさせていると義人が「いやいや」と少し強めに声を上げた。

「おかしいでしょ」
「な、なにが」
「だって二人は――あぁ~そうか、なるほど。つまり春野くんはヘタレなんだね」
「と、倫也はヘタレじゃねぇし! いつもかっこいいし!」
「あーそうですね、そうなりますよね、ハイハイ」


 呆れてうなだれる義人は「つまり二人はまだ進んでない系? 夏休み40日もあったのに? あのヘタレ王子め」とかなんとかブツブツ言っていたけど、俺にはよく聞こえなくて。

 それは隼人も同じだったのか、俺と同じように首を傾げている。


「義人はさっきから何言ってんの?」
「春野くんはヘタレだけどかっこいいねって話」
「そりゃ王子なんだから、かっこいいだろ。部活ん時のギャラリーまじでやべぇから」
「いや、春樹が言ったのはそういう意味のかっこいいじゃなくて……まぁいいや。ここで隼人が入ってくるともっとややこしくなる」
「なんだよそれ! 言っとくけど俺はお前に言われて、ちゃぁんと春樹が幸せに過ごせるようによぉ~く見張ってたんだぞ?」
「それで? 春樹の幸せは守れたの?」
「おうよ! 任しとけ!」
「なら春野くんとの進展は?」
「しんてん……ってなんだ?」
「もういい」


 眉間に手をやった義人は隼人を制しながら一つため息をついて、ゆっくりと俺に視線を向けた。


「ちなみにだけど。俺の家に今日集まってそのまま泊まることは、春野くんも知ってるの?」
「え? いや、勉強会のことは言ったけど……そーいえば泊まりのことは言ってねぇ、かも?」
「あー今すぐ連絡しようか」
「え、なんで?」
「俺は自分の命がかわいいから。さ、早く」
「は、早くって…………もう0時回るけど……?」
「んんー…………」


 眉間の皺をそのままに自分のこめかみを指でとんとんと叩く義人に、俺と隼人は顔を見合わせて目をぱちくりさせるばかりで、ますます響き渡る義人の大きなため息が天井に吸い込まれていった。







 






 




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