10 / 23
好きになるまで
体育祭(下)
しおりを挟む
体育祭は大いに盛り上がりを見せている。各色大きく点差が開くこともなくどの競技も接戦で、それがまた生徒たちの気持ちを沸かせていた。
俺たち2年生男子の旗取りは結果、青組の隼人が身軽に登って旗を取って、総当たり戦のトップに立った。
「隼人かっこよかったねぇ~……って、春樹? どした?」
「うぇっ! あ、は、隼人ね、かっこよかったね!」
「……春樹、隼人見てなかったでしょ」
同じチームの義人に話しかけられて肩がはねる。確かに隼人よりも見ていたのは対戦相手である倫也だったから、義人の指摘にうっかりドキッとしてしまう。
「そ、そんなこと! 倫也を見てたなんてことないから!」
「ふぅ~ん、王子を見てたんだ」
「え、あ、ち、ちがう! 見てない! 見てないからな!」
「ほんと? なんか顔赤いけど」
「あ、赤くないし、見てない! 赤くない!」
「ふぅ~ん、見てなかったんだ……だ、そうだよ? 春野くん」
「え」
義人の言葉の意味が理解できず、けれど嫌な予感がして勢いよく顔を上げる。その先にはしょんぼり顔の倫也と何故か笑ってる義人がいて、俺の体は硬直してしまった。
「春樹、俺のこと見てなかったの?」
「み、見てた! 見てたよ! か、かっこよかった!」
「ほんと? 負けちゃったけど」
「ま、負けたとか関係ないよ! 隼人が身軽なのは知ってたけど、倫也も足早いんだなぁとか。そ、それに」
「それに?」
「っ、い、言わない!」
「え? なに、それどういう「春野ー!」……っあ、ごめん、呼ばれたみたい。行くね」
「え、あ……うん」
俺の帽子をぽんっと叩いてから行ってしまった倫也を、目で追うこともできないたま俺はまた下を向いていた。
「春樹、言い淀んでどうしたの。王子行ったよ」
「し、仕方ないだろ? 呼ばれたんだから…」
「でも言いたいことあったんじゃ?」
「そ、それは」
倫也がかっこよかったのは事実だ。でも……
「上登ってく時にちらっと見えた倫也の腹、割れてたなぁとか思ったら……なんかもう、だめだった」
「ふはっ!」
「わ、笑うなよ!」
思いっきり吹き出して笑う義人に思わず怒鳴った。目尻に涙をためている義人は、腹を抑えながら話す。
「それさぁ、言ってあげたらいいのに。王子に」
「や、やだよ! だって」
「だって?」
「み、ミーハーなファンみたいじゃん」
「でも、喜ぶと思うよ?」
「じ、じゃあ後で言う」
「でも、女子たちが先に言っちゃうかもよ?」
「え」
「いいの? 先取りされちゃって。王子も先にそっちで喜んじゃうかもよ」
「え、あ、そ、それは……っお、俺! 言ってくる!」
「いってらっしゃ~い」
それはなんだか悔しいかもと思った俺は、急いで少し距離のあいた倫也に向かって走り出した。
◇◇◇
「おーい義人ー春樹ー! 見てたか、俺の有志……って、あれ、義人だけ? 春樹は?」
「俺が楽しいから、ケツ叩いてやった」
「はぁケツ? 痛いじゃん! 義人ドSかよ!」
「隼人のオツムもそろそろなんとかしないとな」
「なんだよそれぇ! って、あれ? 春樹帰ってきたな……って、お前なんだよその腰に巻いてる長袖ジャージ! 春樹これから選抜リレーだろ…………は、なに? 巻いとけって言われた? 王子に? なんで…………え? 腹が見えるといけないから? って、お前何言ってんの。腹がなんだってんだよ。なぁ義人……って、義人お前はなんでそんなに笑ってるんだよ。そんでなんで春樹は顔赤くしてんだよ! なんだよお前ら! 俺を置いて! 俺にも教えろー!!」
結局春樹は、その後すべての競技をシャツインして出ることになり、それを爆笑しながら見る義人と、「ダッセー!」と叫ぶ隼人と、にこやかに見つめる倫也がいましたとさ。めでたしめでたし。
体育祭編、完
俺たち2年生男子の旗取りは結果、青組の隼人が身軽に登って旗を取って、総当たり戦のトップに立った。
「隼人かっこよかったねぇ~……って、春樹? どした?」
「うぇっ! あ、は、隼人ね、かっこよかったね!」
「……春樹、隼人見てなかったでしょ」
同じチームの義人に話しかけられて肩がはねる。確かに隼人よりも見ていたのは対戦相手である倫也だったから、義人の指摘にうっかりドキッとしてしまう。
「そ、そんなこと! 倫也を見てたなんてことないから!」
「ふぅ~ん、王子を見てたんだ」
「え、あ、ち、ちがう! 見てない! 見てないからな!」
「ほんと? なんか顔赤いけど」
「あ、赤くないし、見てない! 赤くない!」
「ふぅ~ん、見てなかったんだ……だ、そうだよ? 春野くん」
「え」
義人の言葉の意味が理解できず、けれど嫌な予感がして勢いよく顔を上げる。その先にはしょんぼり顔の倫也と何故か笑ってる義人がいて、俺の体は硬直してしまった。
「春樹、俺のこと見てなかったの?」
「み、見てた! 見てたよ! か、かっこよかった!」
「ほんと? 負けちゃったけど」
「ま、負けたとか関係ないよ! 隼人が身軽なのは知ってたけど、倫也も足早いんだなぁとか。そ、それに」
「それに?」
「っ、い、言わない!」
「え? なに、それどういう「春野ー!」……っあ、ごめん、呼ばれたみたい。行くね」
「え、あ……うん」
俺の帽子をぽんっと叩いてから行ってしまった倫也を、目で追うこともできないたま俺はまた下を向いていた。
「春樹、言い淀んでどうしたの。王子行ったよ」
「し、仕方ないだろ? 呼ばれたんだから…」
「でも言いたいことあったんじゃ?」
「そ、それは」
倫也がかっこよかったのは事実だ。でも……
「上登ってく時にちらっと見えた倫也の腹、割れてたなぁとか思ったら……なんかもう、だめだった」
「ふはっ!」
「わ、笑うなよ!」
思いっきり吹き出して笑う義人に思わず怒鳴った。目尻に涙をためている義人は、腹を抑えながら話す。
「それさぁ、言ってあげたらいいのに。王子に」
「や、やだよ! だって」
「だって?」
「み、ミーハーなファンみたいじゃん」
「でも、喜ぶと思うよ?」
「じ、じゃあ後で言う」
「でも、女子たちが先に言っちゃうかもよ?」
「え」
「いいの? 先取りされちゃって。王子も先にそっちで喜んじゃうかもよ」
「え、あ、そ、それは……っお、俺! 言ってくる!」
「いってらっしゃ~い」
それはなんだか悔しいかもと思った俺は、急いで少し距離のあいた倫也に向かって走り出した。
◇◇◇
「おーい義人ー春樹ー! 見てたか、俺の有志……って、あれ、義人だけ? 春樹は?」
「俺が楽しいから、ケツ叩いてやった」
「はぁケツ? 痛いじゃん! 義人ドSかよ!」
「隼人のオツムもそろそろなんとかしないとな」
「なんだよそれぇ! って、あれ? 春樹帰ってきたな……って、お前なんだよその腰に巻いてる長袖ジャージ! 春樹これから選抜リレーだろ…………は、なに? 巻いとけって言われた? 王子に? なんで…………え? 腹が見えるといけないから? って、お前何言ってんの。腹がなんだってんだよ。なぁ義人……って、義人お前はなんでそんなに笑ってるんだよ。そんでなんで春樹は顔赤くしてんだよ! なんだよお前ら! 俺を置いて! 俺にも教えろー!!」
結局春樹は、その後すべての競技をシャツインして出ることになり、それを爆笑しながら見る義人と、「ダッセー!」と叫ぶ隼人と、にこやかに見つめる倫也がいましたとさ。めでたしめでたし。
体育祭編、完
1
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件
水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。
そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。
この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…?
※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
当たって砕けていたら彼氏ができました
ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。
学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。
教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。
諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。
寺田絋
自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子
×
三倉莉緒
クールイケメン男子と思われているただの陰キャ
そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。
お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。
お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる