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好きになるまで
電子辞書
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「恋人になったらすることってなんだろう」
俺がそう言ったら、春野くんは「名前で呼び合うことかなぁ」なんて笑って言った。
「……春樹」
「え? あ、と、倫也! なに、どしたの?」
休み時間に教室の入口から声が聞こえて、窓際の席で友人らと駄弁ってた俺はビクリと跳ねてしまった。ちょっと声が裏返ってしまったことを恥じつつ倫也へ駆け寄ると、優しい笑顔で俺を見ている。
「電子辞書持ってる? 俺、忘れちゃってさ」
「え? も、持ってるよ! ちょっと待って!」
急いで席に戻って引き出しの中を漁っていると、集まっていた友人らが声をかけてきた。
「なに、お前王子と仲いいの? いつから?」
「え!? いや、まぁ、ほら、体育館一緒に使ってるし!」
「でもバレー部とバスケ部って接点ないだろ」
「ま、まぁでも、挨拶したことくらいあるよ」
訝しげに見つめる隼人に、俺は喉を詰まらせながら言葉を捻り出す。
同じバスケ部の隼人は「そうだっけ?」と興味ありげに廊下の倫也を見ていた。
「でも、名前で呼び合うなんて相当仲いいんだね」
中学から仲の良い義人も「俺も王子と仲良くなりたいなぁ」なんて言いながら倫也を見ている。
名前で呼び合う件に関してはあの告白の場面が思い出されて、少し顔に熱が籠もったのは言うまでもない。
「で? 王子がなんて?」
「うぇ? あ、なんか、電子辞書貸してほしいって」
「「辞書~?」」
声の揃った二人を放って、俺は廊下で待たせている倫也のもとへ走った。
「倫也! ごめん、遅くなって」
「ううん、大丈夫だよ。ごめんね急に」
「俺のクラスもう英語終わったら、大丈夫!」
眉を下げて申し訳なさそうに謝る倫也をこれ以上困らせたくなくて、俺は努めて明るく言った。
顔の横でピースなんて作った俺を見て、倫也はふふっと笑う。そっと手を伸ばしてきて、俺のピースしたままの手を掴んだ。
「ありがとう。次の時間終わったらまた返しに来るね」
「え、あ……お、おう!」
するりと手の甲を撫でて離れていった温もりに、なぜか胸がどきどきした。そして次の休み時間も倫也に会えることを喜んでいる自分もいて、その気持ちに俺が気づくのはまだもう少し先の話。
◇◇◇
「……春野くんってさ、学年主席だよね?」
「しかも帰国子女だし、英語完璧だろ」
「こないだもReadingの先生が春野くんに発音の仕方聞いてたらしいよ?」
「電子辞書なんて、いらないだろ」
「使わないよねぇ~」
倫也に手を振って戻った俺を「「ふぅ~ん……」」と声を揃えて出迎えた二人の友人に、俺は首を傾げた。
俺がそう言ったら、春野くんは「名前で呼び合うことかなぁ」なんて笑って言った。
「……春樹」
「え? あ、と、倫也! なに、どしたの?」
休み時間に教室の入口から声が聞こえて、窓際の席で友人らと駄弁ってた俺はビクリと跳ねてしまった。ちょっと声が裏返ってしまったことを恥じつつ倫也へ駆け寄ると、優しい笑顔で俺を見ている。
「電子辞書持ってる? 俺、忘れちゃってさ」
「え? も、持ってるよ! ちょっと待って!」
急いで席に戻って引き出しの中を漁っていると、集まっていた友人らが声をかけてきた。
「なに、お前王子と仲いいの? いつから?」
「え!? いや、まぁ、ほら、体育館一緒に使ってるし!」
「でもバレー部とバスケ部って接点ないだろ」
「ま、まぁでも、挨拶したことくらいあるよ」
訝しげに見つめる隼人に、俺は喉を詰まらせながら言葉を捻り出す。
同じバスケ部の隼人は「そうだっけ?」と興味ありげに廊下の倫也を見ていた。
「でも、名前で呼び合うなんて相当仲いいんだね」
中学から仲の良い義人も「俺も王子と仲良くなりたいなぁ」なんて言いながら倫也を見ている。
名前で呼び合う件に関してはあの告白の場面が思い出されて、少し顔に熱が籠もったのは言うまでもない。
「で? 王子がなんて?」
「うぇ? あ、なんか、電子辞書貸してほしいって」
「「辞書~?」」
声の揃った二人を放って、俺は廊下で待たせている倫也のもとへ走った。
「倫也! ごめん、遅くなって」
「ううん、大丈夫だよ。ごめんね急に」
「俺のクラスもう英語終わったら、大丈夫!」
眉を下げて申し訳なさそうに謝る倫也をこれ以上困らせたくなくて、俺は努めて明るく言った。
顔の横でピースなんて作った俺を見て、倫也はふふっと笑う。そっと手を伸ばしてきて、俺のピースしたままの手を掴んだ。
「ありがとう。次の時間終わったらまた返しに来るね」
「え、あ……お、おう!」
するりと手の甲を撫でて離れていった温もりに、なぜか胸がどきどきした。そして次の休み時間も倫也に会えることを喜んでいる自分もいて、その気持ちに俺が気づくのはまだもう少し先の話。
◇◇◇
「……春野くんってさ、学年主席だよね?」
「しかも帰国子女だし、英語完璧だろ」
「こないだもReadingの先生が春野くんに発音の仕方聞いてたらしいよ?」
「電子辞書なんて、いらないだろ」
「使わないよねぇ~」
倫也に手を振って戻った俺を「「ふぅ~ん……」」と声を揃えて出迎えた二人の友人に、俺は首を傾げた。
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