82 / 103
【第五章】皆、覚悟を決める
父子の共闘(2)
しおりを挟む
「魔術は使えねぇが、腕力なら!」
「俺たち、力なら誰にも負けねぇ!」
「そうだ! 俺たちも!」
一人の声が伝染していき何人もの男がわらわらと駆け寄ってくる。ついには伯爵邸に身を寄せていた漁師たちまで外に出てきて、皆が一列に並んで壁を押し出した。
「え……ま、まさか!」
一流の船大工や漁師たちの腕力は凄まじく、鍛え抜かれた騎士たち後からも加わり、リメイが前のめりになって転けるほど壁が動いた。
蠢く水獣が海へと押し戻され、それは神の救いにも思えるほど頼もしかった。
「しっかりしろ、ヤッバ」
「っ、アリエルさん」
「俺の仕事は人々の安寧を守ることだ。だからお前も耐えろ」
「分かってる!」
隣に駆け寄ってきて壁を押し始めたアリエルにリメイは強く言い返した。
しかし、水獣の力は弱まることを知らない。
トプンッ
「っ……は?」
水音がして見上げると頭上高くに覆ったゼリー状のひらがなの壁を押し破り、分身の塊が小さな隙間を縫ってボトンッと落ちてきた。
陸に降り立ったそれは二足歩行の獣に形を変えて、突如として中の人間に襲いかかる。まるで水でできた兵士のようだった。
「まさか陸上戦ができるの!?」
「俺に任せろ」
アリエルが腰の剣を携えながら走った。抜いた剣先が衝撃波を伴って水の兵士に当たる。
ビシャッ!
水音を立てて崩れ落ちたそれにリメイは息を呑んだ。
(あの水の兵士は物理攻撃が効くのね……それなら)
「出でよ《く》! 燃えろ《火 フォティア》!」
リメイが二つの《く》を放ち火を纏わせる。それをタマが咥え、ブーメランのように投げた。
ぐるぐると宙を回る《く》が落ちてきた水の兵士たちを散らせていく。簡単に海水に戻っていくそれらにリメイは少し安堵した。
その時――
「っ、きゃあああ!」
女の叫び声に視線をやると、一体の水の兵士が人に襲いかかってた。そこにいたのは――
「っ! マリィっ!」
「ばかな! あの子まで!」
リメイとその後ろにいた伯爵が同時に叫ぶ。かつての側仕えとその脇にもう一人小さな子どもが背中を見せて蹲っていた。
「出でよ! 《ふ》!」
リメイの手元から大きな《ふ》が飛び出て、鳥のように両側の点を羽ばたかせながらマリィのもとへ飛んでゆく。近くの騎士が水の兵士を散らせ、その間に《ふ》がゆっくりと降り立った。
「マリィ! 乗りなさい!」
「え、っ」
「早く! 逃げて!!」
安心する間もなく近くにもう一体水の兵士が現れる。壁から離れられないリメイに代わり、タマがひとっ飛びで駆け寄った。
喰らい尽くした水の兵士を尻目にリメイとマリィの金切り声が同時に響き渡る。
「~~っ、お嬢様!」
「いいから! 乗りなさい!」
泣き叫ぶマリィをすくい上げるように背に乗せ、《ふ》が高く飛び上がった。小さい子どもも無事なようでリメイは大きく息を吐く。
リメイはもう一度前に向き直って自身の両手を見つめた。息が上がり、その手は震えている。これまでにないほど魔力を消耗し体が重く感じた。
(だけどまだ……まだやれるわ)
「俺たち、力なら誰にも負けねぇ!」
「そうだ! 俺たちも!」
一人の声が伝染していき何人もの男がわらわらと駆け寄ってくる。ついには伯爵邸に身を寄せていた漁師たちまで外に出てきて、皆が一列に並んで壁を押し出した。
「え……ま、まさか!」
一流の船大工や漁師たちの腕力は凄まじく、鍛え抜かれた騎士たち後からも加わり、リメイが前のめりになって転けるほど壁が動いた。
蠢く水獣が海へと押し戻され、それは神の救いにも思えるほど頼もしかった。
「しっかりしろ、ヤッバ」
「っ、アリエルさん」
「俺の仕事は人々の安寧を守ることだ。だからお前も耐えろ」
「分かってる!」
隣に駆け寄ってきて壁を押し始めたアリエルにリメイは強く言い返した。
しかし、水獣の力は弱まることを知らない。
トプンッ
「っ……は?」
水音がして見上げると頭上高くに覆ったゼリー状のひらがなの壁を押し破り、分身の塊が小さな隙間を縫ってボトンッと落ちてきた。
陸に降り立ったそれは二足歩行の獣に形を変えて、突如として中の人間に襲いかかる。まるで水でできた兵士のようだった。
「まさか陸上戦ができるの!?」
「俺に任せろ」
アリエルが腰の剣を携えながら走った。抜いた剣先が衝撃波を伴って水の兵士に当たる。
ビシャッ!
水音を立てて崩れ落ちたそれにリメイは息を呑んだ。
(あの水の兵士は物理攻撃が効くのね……それなら)
「出でよ《く》! 燃えろ《火 フォティア》!」
リメイが二つの《く》を放ち火を纏わせる。それをタマが咥え、ブーメランのように投げた。
ぐるぐると宙を回る《く》が落ちてきた水の兵士たちを散らせていく。簡単に海水に戻っていくそれらにリメイは少し安堵した。
その時――
「っ、きゃあああ!」
女の叫び声に視線をやると、一体の水の兵士が人に襲いかかってた。そこにいたのは――
「っ! マリィっ!」
「ばかな! あの子まで!」
リメイとその後ろにいた伯爵が同時に叫ぶ。かつての側仕えとその脇にもう一人小さな子どもが背中を見せて蹲っていた。
「出でよ! 《ふ》!」
リメイの手元から大きな《ふ》が飛び出て、鳥のように両側の点を羽ばたかせながらマリィのもとへ飛んでゆく。近くの騎士が水の兵士を散らせ、その間に《ふ》がゆっくりと降り立った。
「マリィ! 乗りなさい!」
「え、っ」
「早く! 逃げて!!」
安心する間もなく近くにもう一体水の兵士が現れる。壁から離れられないリメイに代わり、タマがひとっ飛びで駆け寄った。
喰らい尽くした水の兵士を尻目にリメイとマリィの金切り声が同時に響き渡る。
「~~っ、お嬢様!」
「いいから! 乗りなさい!」
泣き叫ぶマリィをすくい上げるように背に乗せ、《ふ》が高く飛び上がった。小さい子どもも無事なようでリメイは大きく息を吐く。
リメイはもう一度前に向き直って自身の両手を見つめた。息が上がり、その手は震えている。これまでにないほど魔力を消耗し体が重く感じた。
(だけどまだ……まだやれるわ)
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
設定めちゃくちゃな乙女ゲームのモブに転生したら、何故か王子殿下に迫られてるんですけどぉ⁈〜なんでつがい制度なんてつくったのぉ
しおの
恋愛
前世プレイしていた乙女ゲームの世界に転生した主人公。一モブなはずなのに、攻略対象の王子に迫られて困ってますっ。
謎のつがい制度と設定ガバガバな運営のせいで振り回されながらすごす学園生活
ちょっとだけR18あります。
【完結保証】
つがい 男性 ハデス
女性 ペルセポネ
↑自分でもわからなくなっているので補足です
書きたいものを好きに書いております。ご都合主義多めです。さらっと雰囲気をお楽しみいただければ。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
騎士団長の欲望に今日も犯される
シェルビビ
恋愛
ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。
就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。
ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。
しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。
無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。
文章を付け足しています。すいません
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる