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【第三章】女、愛を知る

大魔法使いの真実(2)

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「っそれでどうしたの? この後なにがあったの?」


 ホークから送られてくる《記憶》はホークが全属性の力を手に入れたところで止まっている。その後を敢えて見せなかったホークにリメイは問うた。
 ホークは優しくリメイの背中を撫でながら穏やかな声で零す。


「どうもしてない。王宮に駆けつけた後、ハンの亡骸は俺が消し炭にしたし、その後王宮も変わらず機能したままだ」
「復讐は考えなかったの」
「考えたさ。国をどう終わらせてやろうかとそればかり考えていた……だが」


 一度言葉を詰まらせたホークはそっとリメイを引き剥がす。涙に濡れる頬を優しく撫でて、そのこめかみにキスを贈った。


「ハンから連絡蝶が来たんだ。自分を忘れるなと、そう言われた。それはきっとこれまでハンから習い、もらった多くのことを忘れるなって意味だ。国を滅ぼすなんてハンの教えにはなかった」


 もし師弟の契が解消された後にあの優しい連絡蝶か届いたのだとしたら。絶命した師への悲しみと国への怒りに燃えるホークに、〝忘れるな〟と伝えたのだとしたら。なんて残酷なメッセージだろうと思った。

 リメイが嗚咽を堪えながらホークの漆黒を見つめると、ホークは柔らかく笑った。それは流れてきた《記憶》にあった、ハンバーの笑顔のようで――


「それに王族を滅ぼしたところで、国が乱れ害を被るのはいつだって国民だ。大切な人間が国に殺され嘆くのは……俺だけでいい」


 掠れたその声を聞いて、リメイは今度こそ顔を歪めて大声を上げて泣いた。
 ホークもまた込み上がる思いを堪えるように眉を寄せている。それを隠すようにリメイの脇に手をやり抱き上げ、その胸元に顔を寄せた。
 悲しみに揺れる二人はそうして暫くの間強く抱き合っていた。



     ◇◇◇



「死んだハンの生きた記録自体をいじることはできない。だから生きている人間の《記憶》を無くすことが一番の供養だと思った」


 その日を境に、大魔法使いハンバー・ホークは世界中の人間の記憶から消され、代わりに全属性の魔術と《記憶》の固有特性を持つ“神に最も近き者”、ホーク・サルーンが生まれたのだった。


(誰も知らない……辛く悲しい歴史……)


 ホークに抱きかかえられて湯船から上がったリメイはホークの魔法で全身を乾かされ、今は大きな暖炉の前の大きな椅子に二人で座っている。ホークの膝の上で横抱きにされながら、その分厚い体に身を寄せるリメイはまだ少し鼻をすすっていた。


「ホークは……どうしてこんなにも長く生きているの?」


 それはリメイがずっと気になっていて聞けなかった話だった。ホークの肩がピクリと揺れる。


「……探しものをしている」
「探しもの?」
「ハンが趣味で打っていた鉄。それによって作られたものをすべて」
「どうして?」
「ハンの作ったものにはハンの魔力が宿る。あいつは強い力を持っていたから、死んだ今も魔力が滲み出ているんだ。すべて回収して弔いたい」


 大切な人を失ったこの世界で、永遠のような時間を生きるホーク。その途方もない年月を考えただけで、リメイの目は涙で滲んだ。


「わ、私も手伝う。ホークのお師匠様だもの、私も手伝う……だからもう、一人で抱え込まないで」


 その首に腕を回し、リメイはぎゅうっと抱きついた。ホークが優しく背中を撫でるので、余計に涙が溢れてその肩口を濡らしてしまう。


「リメイ、答え合わせをしようか」
「っ……こたえあわせ?」
「うん。唯一無二の、答え合わせ」


 そう呟いたホークの声はとても寂しそうだった。




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