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【第二章】少女、友を得る

魔獣と希望(2)

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「っ……! 『目を開けろ!』」


 その時、騎士が叫んだ言葉にリメイはタマの声が重なって聞こえた。

 『目を見開いていないと見えるとのも見えないぞ』とリメイに教えてくれたのは誰でもない、タマだ。


(タマさんの教えに、今ここで背いたらいけない!)



「っど、どいてえぇぇ!」
「な、っ! 来い!」
「へ?」
「受け止める! 来い!」


 リメイが何か《ひらがな》を出そうと大きく息を吸った瞬間、避けるかと思ったその騎士の出で立ちの男が前に腕を差し出した。
 リメイも咄嗟に手を伸ばす。


ガシィッ……!


「~~ーーっ……はっ、はぁ……い、生きてる」
「ぶ、無事だったか? 良かった」


 鍛えられたその腕に抱きとめられ、リメイは怪我一つ負うことがなかった。背の高いその男の、けれどホークよりも薄い胸板にリメイは顔を寄せてその細い首に腕を回し掴まる。

 二人はしばらく見つめ合い、はっと思い出したかのように声を荒げた。


「だ、だだ、だれですか!」
「だ、だだ、だれだ!」


 同時に揃った声は図らずとも大きな音となって辺りに響き渡る。目が合ったまま離れない二人は瞬きのタイミングさえも一緒だった。


 ……その時。


ガウゥゥゥゥ!


 大きな吠え声が聞こえて、二人はまた同時に首を向けた。そして今度は頬を寄せ合って大きく息を吸う。


「いやああああ!」
「うおおおおお!」


 騎士の装いの男がリメイをぎゅっと抱え直し走る。そのスピードたるやリメイの全速力を持ってしても追いつけないほどで、そのクマのような大型魔獣もあっという間に引き離した。

 大型魔獣の姿が見えなくなったところで、いつまでも叫び声を上げて走る男の背をリメイが思い切り叩く。


「木! 木に登って!」
「お? おおおお、おう!」


 男が幹を駆け登り、太い枝に二人で座り込んで大きく息を吐いた。


「はぁ、はぁー……た、助かった」


「引き離しているとは思わなかったのでな。いつまでも走るところであった。いやぁ、かたじけない」


 頭の後ろをポリポリと掻くその男は照れた様子を見せるだけで、息は少ししか乱れていない。
 対するリメイは運ばれていただけだというのに大きく肩を上下させていて、体力の違いが浮き彫りになっていた。やはり、この人は――


(本当に騎士様なの……?)


 年は二十代前半といったところか、ホークの外見年齢よりも少し若く見える。甘いミルクティブラウンの髪は短くスッキリ整えられていて、リメイにも爽やかな印象を与えた。その腰には大振りの剣がぶら下がっている。


「君は何者だ? どうして幼い子が一人、こんな山奥に」
「あなたこそ……普通は年長者から名乗るものでは?」


 もしこの男が本当に騎士団の関係者なら、リメイにとってこれほどまずい状況はなかった。


 騎士団――それは大国における国王直属の部隊のこと。騎士とは魔力を用いて剣などの武器を強化し魔獣や他国、それに魔法使いと戦う魔法剣士のことを指す。

 リメイは左手の紋様を服の袖に隠した。


(どうか騎士様じゃありませんように……!)


 この男が何者であったにせよ、リメイが魔法使いだと赤の他人にバレるわけにはいかない。


 しかし、現実とは時に無情である。


「大変失礼した。俺は大国ランドローバー第五騎士団十二部隊所属、アリエル・アトムだ。君の名は?」
「っ!や、やっば!」
「ほほう、“ヤッバ”と言うのか。変わった名だな」
「え? まさかの天然なの?」
「ん? 何か言ったかな?」
「いえ、なにも」


 この状況の打開策を急いで頭の中で探すものの、何も見当たらないリメイであった。





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