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【第四章】女、愛を得る

内見と愛のエキス(1)

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 一概に“引っ越し-と言ってもこの国の人々は色々な方法をとる。なんせ魔法が蔓延る世界なのだ。町の人が家ごと動かしたり、荷物を小さくしてほぼ手ぶらで移動したりしている様子をリメイもこれまで数回目にしてきた。
 だからどんな引っ越しと聞いても驚かないはずなのに。


「こ、これは引っ越し?」


 家財道具一式何も持ち出せないまま大地が家を押し潰し、捏ねて伸ばして、広げて折りたたんで。今も目の前で蠢いていた。

 時間にして数十分経った頃、土が地中に還り大地が落ち着きを取り戻した後には、新築の一戸建てが完成していた。


「すごい……っ、え?」


 リメイの呟きと同時に水の膜が音を立てて割れる。落ちる体をホークが横抱きにして、二人の視線が合った。それから同時にゆっくりと、目の前の家を見上げる。

 それは以前と同じ二階立てで、大きさも変わらず外見に変化もない。ただ壁面も屋根からも新築の木の香りが漂ってきていた。


「中に入るわよ」
「じ、自分で歩きます」
「いやよ」


 抱きあげたままホークが家の中へ足を踏み入れる。自身の首に縋りつくリメイの耳にその薄い唇を寄せた。


「片時も離したくないからよ。察しなさい」
「っ!」


 赤らんだ顔を隠すように逞しい胸に顔を埋めるリメイを見て、ホークが楽しげに笑った。



     ◇◇◇



 中に入ったリメイの目にまず飛び込んできたものは、相も変わらず小さな火を爆ぜる暖炉だった。その前にはホーク愛用の大きな椅子もあって、馴染みのある景色に少しほっとする。

 キッチンや食卓、そして別々になっているトイレも風呂も以前より大きく作られていて、新しい魔道具の設備にリメイの心が少し踊った。

 階段を登っていくと扉が三つあり、それをホークが順番に開けていく。


「一番手前はタマの部屋よ」
「タマさんに部屋を?」


 中にはリメイのお手製でタマが気に入っている大きなクッションが置かれていた。
 もちろんこの部屋にはタマ用の水洗関係も揃っているし、なおかつ玄関を通らないで外に出られるよう窓に細工がされていた。これなら時たまふらりと森に行きたがるタマも過ごしやすいだろう。


「魔獣の癖して毎晩クッションで眠らせるなんて、ほんと甘やかしすぎよ」


 そう言いつつもこんな部屋をタマに与えるホークだって十分甘やかしているだろう、なんて言葉をリメイは飲み込んだ。



「その隣は書斎ね。以前よりも大きくしたわ。どんどん増えるんだもの」
「誰かさんが都市へ行く度に買ってくるからですよ」
「そう言うリメイだっていつも嬉しそうに読んでるじゃないの」


 ホークの空いている手が鼻をつまむので、リメイはいやいやと首を振った。閉じた目に唇を落とされてゆっくりと見上げると、ホークが優しく笑ってこちらを見下ろしている。


「こっちも、一段と大きくしたわ」


 他と比べて一際重厚なドアを二人でくぐる。残り一つしかないここがホークの部屋であることはリメイにもなんとなく予想がついていた。

 扉を開けたその先、目の前には以前からあった質の良いテーブルと大きなソファ。そして以前よりも大きくなった天蓋付きのベッドがあった。


「前のも十分大きかったのに」
「これからは手狭になるからね」
「え?」


 すぐ横にあるホークに視線を移したリメイは、不意に目に映った壁に扉があることに気づく。扉は二つあって、別の部屋と繋がっているようだった。


「ベッドの隣の扉はなんです?」


 ふふっ、と笑ったホークが魔法で扉を開ける。電気がついて見えた中は、どうやらシャワー室のようだった。


「シャワー? お風呂が一階にあるのに?」
「いちいち降りるの大変でしょう?」
「?」


 ホークは大の風呂好きで、仕事を終えて帰ってくるといつだって長いこと湯船に浸かっていたというのに。もしかしてこれまでも面倒に思っていたのだろうか。

 不思議に思うリメイのそばでカタンッと音が鳴って、見るとシャワー室の隣の扉が開いていた。そこは前世で言うところのウォークインクローゼットのようになっていて、見るとその中に並んでいたのは――


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