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【第二章】少女、友を得る

波乱の幕開け(1)

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 それはとある日のこと。

 今日はリメイが伯爵令嬢としてこの世に生を受けた日。

 波乱は突然やってきた。



……バァーンッ!


「さぁて! 魔力の最大値を知る修行をするわよ!」
「え?」


 勢いよくドアを開けてリメイの部屋に入ってきたのは、がちむちホークその人だった。


「珍しいですね。ホークがこんなにも早く起きるなんて」
「ちょっとなんで起きてるのよ。まだ朝の五時よ?」
「私はいつもこの時間には起きてますよ。タマさんも今頃水浴びに行ってる頃だし……」
「なにそれ。おばあちゃんなの? あぁそう言えばもう心は四十超えてたわね」


(自分だって三百歳超えてるくせに。ホークこそ《記憶》をいじりすぎて心は子どものままなんじゃないの)


 そんなことを声に出せるわけがないと言葉を飲み込んだリメイは一つため息をこぼした。





「それで……魔力の最大値を知る修行とは?」

 朝の畑仕事も朝食も終え、リメイは暖炉の前の大きな椅子に座って休憩するホークへ問いかける。


(そういえばタマさん遅いなぁ。まだ水浴びしてるのかな?)


 しかしホークからの返答は一向にない。
 不思議に思って振り返ると、ホークはとっくに空になったティーカップの淵を指でなぞりながら俯いていた。

 長い黒髪がさらりと肩から流れ落ちていて、表情は読み取れない。


「この国にいる者はみな、体の中に魔力を生成する壺というものが存在するのは知ってるわよね?」
「ええ、もちろん。人によって大きさも量もバラバラだけど、魔力量が少ない人でも魔力を溜めておける魔石を使えば生活に支障はない――という話ですよね?」


 ホークが唐突に語り出した内容は、この国に住む者なら誰もが知っていることだった。
 リメイも幼い頃に読んだ『人々の生活とくらし』というまるで社会の教科書のような本に魔石や魔具について書かれていたのを思い出す。


「そう。そしてそれを“人々の生活様式”とだけ捉えて体感として分かっていないあんたは、生活する上で困ることのない量の魔力を持ってる」
「え……」


 ホークが真面目な声で言う。


「魔力が少なくて生活に困窮する者もいるわ。人はね、長い歴史の中でたくさん研究をし尽くしてきたの。それによって作られた“魔石”も“魔道具”も、人々に大いなる恩恵を授けているのよ」


 特に魔石の研究に関しては昨今著しい進歩を見せている。配備が行き渡り、魔石も魔道具も市井にも浸透していた。魔力量の安定しない幼子でさえも、手を触れれば水道から温いお湯を出すことができるのだ。


「確か、魔石に魔力を込める仕事もあるとか」
「だいたいは国から指定を受けた町の薬屋や病院で行われているわね。この辺りじゃ魔力量が多くて持て余してる人がお小遣い感覚で魔石への魔力補充をしてるわ」


 「ま、裏取引もあるけどね~」なんてホークの呟きにリメイは引きつった顔を見せた。


「それからもう一つ。これまで軽々と固有特性を使い多くの“ひらがな”を出現させてきているのも、リメイの魔力量を多さを示しているわね」
「はぁ」


 ホークがカップを持ったまま立ち上がってリメイに近づく。


「何事も大きさとその量は比例するわ。考えてみなさい。かつて自分の側仕えを押し潰すほどの大きな文字を出したんでしょう? そんなに大きなものを訓練なしに出せたのなら、それは天性のものよ。つまりあんたの魔力壺は相当デカいはず」


 目の前に立ったホークはリメイを見る。その表情は、楽しそうでありながら、何故か少し不安の色を見せていた。


「……ホーク?」
「魔力とは使えば使うほどなくなり、生成が間に合わなければ枯渇して生命維持が不可能となる。その者に訪れるのは死よ」
「なら魔力量が多ければその心配はないの?」
「いいえ。裏を返せば大きい魔力壺は枯渇に近い状態になった時、その回復にも時間がかかるということよ。外部から補うにしても相当な量が必要になる」
「あ、そっか」
「だから魔力量が多い魔術師は必ずと言っていいほど、枯渇した際に死なないための準備をする」


 枯渇した際に死なないための準備、と言われても、リメイは首を傾げるしかない。自分は魔術や魔法について本当に何も知らないのだと、改めて思い知った。


「その準備って?」
「魔獣との服従の契よ」
「……え?」


 思わぬホークの言葉にリメイは呆気にとられた。


「服従させた魔獣は常に自分の中にある。枯渇した際は魔獣から吸い取ればいい」
「な、なるほど?」


 そう言われれば理に適った関係とも言えるのかもしれない。突然の話であったが、リメイは頭の中を必死に整理した。


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