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【第二章】少女、友を得る
友との決裂(1)
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「結界の範囲を広くしたわ。アタシの結界内なら何をしても構わない。ダッヂと戦い、そして勝ちなさい。いいわね?」
「よ、よくないです!」
「期間は三日。今回アタシから解き放ったことで野生の勘を取り戻しているはずだから、ダッヂがタマとしての我を失う前に捕らえなさい。いいわね?」
「い、いいわけないです!」
「言っとくけど今の馴れ合いのまま向き合ったら、リメイ。あんた死ぬわよ。消す勢いでかかりなさい。分かった?」
「わ、分かりたくないです!」
「あ、そうだ。思い出した」
「今更なんですか!」
肩を抱かれ、後ろを向かされる。耳にホークの唇が触れてリメイは少しドキッとした。
「お誕生日おめでとう、リメイ」
「ち、ちっともおめでくない、で、すぅぅうわぁっ!」
そのままドンッと背中を押され、リメイは前のめりにこける。
勢いよく振り返ると、そこには見慣れた家も井戸も、ホークの姿すらなかった。リメイは絶望のため息をつく。
「転移? なんでもできるんだな、あの人は」
今の状況ではこの独り言に答えてくれる声もなく。リメイは辺りを見渡して自身の体をぎゅっと抱きしめた。
「……タマさんは水浴びに行ったんじゃなかったの」
一体いつから今日のことは計画されていたんだろう。
つい先程知って突然森の中へ放り込まれたリメイとは違い、タマには準備期間があったというのか。勝手なことをしてくれたホークに、リメイは今更沸々と怒りが湧いてきた。
「魔力と枯渇の話は分かったけど、どうしてタマさんと契らなきゃいけないのよ」
服従させるのは他の魔獣でも問題ないはずだ。なのに戦いを知らない十三歳の少女に獄級魔獣と戦いをしてこいだなんて、正気の沙汰とは思えない。それに――
「タマさんは私の友だちなの、に……っ!」
その時突然強い風が吹いて、それに混じって刃物のような鋭い物が飛んできた。
リメイは間一髪でそれらを避ける。チラリと視線をやるとリメイの真横の木の幹は大きく抉り取られていた。
その鋭さと同時に起きた突風から導き出されるものは、一つしかない。
「爪弾き……っ!」
ずっと一緒に修行してきたのだ、それがタマのものであることなどリメイにはすぐに分かった。
『逃げてばかりじゃ話にならんぞ、リメイ』
「っ、タマさん!」
正面から聞こえた獣声にリメイは顔を上げる。そこにいるのは見知った友であるはずなのに、少し様子が違って見えた。
『爪で弾いただけだぞ? 躱さず弾いてみろ』
「っま、まってよ! こんなのいやだよ!」
『ほら、油断するでない。おれとてホークに消されるのは真っ平なんだ』
「で、でも!」
『本気で来んと、おれがお前を消すことになるぞ?』
「っ……!」
タマの爪弾きがリメイの顔の横をすり抜け、リメイは今度こそ息を呑んだ。
『どうする。お前はおれとどう戦う』
「た、タマさんと戦うなんて……そ、それに私、戦い方とか知らな」
『いついかなる時もそこが戦場と化すか分からない。魔法使いとやらはそういうものだろう。突然現れる魔術師共の前でも同じことを言うのか? 物言わぬ魔獣に泣き寝入りなど……ふん、聞いて呆れる』
タマが地面で爪先をカリカリと掻く。それは二人で筋トレをしていた時によくしていた、次の爪弾きの合図だ。
「っ!」
(タマさんは本気なんだ……!)
後ずさりをしながら、リメイはこれまでのことを思い出す。
自身が今までしてきたことは筋トレだけ。体力をつけ体幹を養い、今までよりも身軽に動けるようにはなった。
でもだからって木の上を飛べたり、ものすごい速さで走れたりするわけでもない。つまり、今のリメイにできることなど何もない。
『どうした。構えないとおれが切り刻むぞ?』
(逃げなきゃ。とりあえずタマさんの目先を変えて……!)
リメイは一か八かの賭けに出る。
「よ、よくないです!」
「期間は三日。今回アタシから解き放ったことで野生の勘を取り戻しているはずだから、ダッヂがタマとしての我を失う前に捕らえなさい。いいわね?」
「い、いいわけないです!」
「言っとくけど今の馴れ合いのまま向き合ったら、リメイ。あんた死ぬわよ。消す勢いでかかりなさい。分かった?」
「わ、分かりたくないです!」
「あ、そうだ。思い出した」
「今更なんですか!」
肩を抱かれ、後ろを向かされる。耳にホークの唇が触れてリメイは少しドキッとした。
「お誕生日おめでとう、リメイ」
「ち、ちっともおめでくない、で、すぅぅうわぁっ!」
そのままドンッと背中を押され、リメイは前のめりにこける。
勢いよく振り返ると、そこには見慣れた家も井戸も、ホークの姿すらなかった。リメイは絶望のため息をつく。
「転移? なんでもできるんだな、あの人は」
今の状況ではこの独り言に答えてくれる声もなく。リメイは辺りを見渡して自身の体をぎゅっと抱きしめた。
「……タマさんは水浴びに行ったんじゃなかったの」
一体いつから今日のことは計画されていたんだろう。
つい先程知って突然森の中へ放り込まれたリメイとは違い、タマには準備期間があったというのか。勝手なことをしてくれたホークに、リメイは今更沸々と怒りが湧いてきた。
「魔力と枯渇の話は分かったけど、どうしてタマさんと契らなきゃいけないのよ」
服従させるのは他の魔獣でも問題ないはずだ。なのに戦いを知らない十三歳の少女に獄級魔獣と戦いをしてこいだなんて、正気の沙汰とは思えない。それに――
「タマさんは私の友だちなの、に……っ!」
その時突然強い風が吹いて、それに混じって刃物のような鋭い物が飛んできた。
リメイは間一髪でそれらを避ける。チラリと視線をやるとリメイの真横の木の幹は大きく抉り取られていた。
その鋭さと同時に起きた突風から導き出されるものは、一つしかない。
「爪弾き……っ!」
ずっと一緒に修行してきたのだ、それがタマのものであることなどリメイにはすぐに分かった。
『逃げてばかりじゃ話にならんぞ、リメイ』
「っ、タマさん!」
正面から聞こえた獣声にリメイは顔を上げる。そこにいるのは見知った友であるはずなのに、少し様子が違って見えた。
『爪で弾いただけだぞ? 躱さず弾いてみろ』
「っま、まってよ! こんなのいやだよ!」
『ほら、油断するでない。おれとてホークに消されるのは真っ平なんだ』
「で、でも!」
『本気で来んと、おれがお前を消すことになるぞ?』
「っ……!」
タマの爪弾きがリメイの顔の横をすり抜け、リメイは今度こそ息を呑んだ。
『どうする。お前はおれとどう戦う』
「た、タマさんと戦うなんて……そ、それに私、戦い方とか知らな」
『いついかなる時もそこが戦場と化すか分からない。魔法使いとやらはそういうものだろう。突然現れる魔術師共の前でも同じことを言うのか? 物言わぬ魔獣に泣き寝入りなど……ふん、聞いて呆れる』
タマが地面で爪先をカリカリと掻く。それは二人で筋トレをしていた時によくしていた、次の爪弾きの合図だ。
「っ!」
(タマさんは本気なんだ……!)
後ずさりをしながら、リメイはこれまでのことを思い出す。
自身が今までしてきたことは筋トレだけ。体力をつけ体幹を養い、今までよりも身軽に動けるようにはなった。
でもだからって木の上を飛べたり、ものすごい速さで走れたりするわけでもない。つまり、今のリメイにできることなど何もない。
『どうした。構えないとおれが切り刻むぞ?』
(逃げなきゃ。とりあえずタマさんの目先を変えて……!)
リメイは一か八かの賭けに出る。
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