独裁者サマの攻略法

【04】 追撃

＊011＊ プライベート空間

一條から目が離せないまま、手の甲を親指で撫でられ続けると、身体が竦んでくる。
悠李はハッと大きく目を見開き、一條に突っ掛かっていった。

「何ッ…するんだよッ!! ,こんなのただのセクハラだろ!!」

そう言って、悠李が周りを見回すと、花組の訓練生はただただ茫然とその様子を見ていた。

「まだまだ若造には早かったか?」
「どんな訓練かわからなかったから、戸惑っただけだッ!!」
「へぇ…今度は、どんな風に口説かれるのか楽しみにしている。」
「吠え面かくなよ!!」

一條は、ニヤリと笑って訓練生を見回す。

「今度は、お前ら全員で交代しながら実践だ。花村は、俺相手にもう一度やってみろ。」

悠李は、先程かかされた赤っ恥の為、歯をギリギリと噛み締めた。

「ほら、花村。また、『こんにちは。』か?」

悔しさに涙を浮かべながら、一條を睨みつけた。
一條は、悠李のその表情を見て、ほくそ笑んだのだった。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

食堂内は、夕食の時間が終わり、各々が楽しそうに歓談している。
悠李は、夕食後、早々にお風呂に入り、タオルで頭をガシガシ拭きながら食堂の横を通り過ぎた。

「あれ、花村ちゃん、どうしたの? 今日はお風呂早いね?」

悠李は、花組の訓練生に声を掛けられる。

「あぁ…うん、何か、一條教官からお呼び出しな感じ?」
「うわぁ～、それは面倒な…。」

みんなに顔を顰められて、憂鬱度が更に高まる。
男子寮から垂直に続く廊下を歩くと職員宿舎へと繋がっている。
職員宿舎は、訓練生が住む寮とは著しく違い、ムダに豪奢な造りだった。
エントランス部分に、トレビの泉や小便小僧があっても、何ら違和感は無いだろう。
流石、二年もの地獄の訓練を経た、選りすぐりのエリートである。
唯一、ハイグレード・マンションと違うのは、セキュリティが甘く、全ての身の安全は自力で守る感じなところだろうか?
一條の部屋は、三階との事で、訓練生の寮とは大違いなエレベーターで部屋へと向かった。
部屋の前に着くと、これまたムダにお洒落なアルファベットのネームプレートがその名前を主張している。
インターホンを押すと、どうしようもない程に素敵なベルだった。
ちなみに、ここは…絶海の孤島である。
そんな、お洒落な佇まいでも、殆どの人は足を踏み入れる事は無い場所である。
呼び出し音が鳴り、特に確認も無く、扉は開いた。

「どうぞ。」

一條も、部屋に戻ってからシャワーを浴びていたらしく、まだ、髪はしっとりと濡れていた。

「お邪魔しま～す。」

悠李は、初めて一條のプライベート空間に招き入れられ、思わず、部屋のレイアウトを確認してしまう。
本当に、ハイグレード・マンションのようにアイランド・キッチンがあったり、シャワー・ルームとバス・ルームが分かれていたり…兎に角、ゴージャスだった。
訓練生の寮と違い過ぎでしょ!! …悠李は、心の中でシャウトせずにはいられなかった。