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後日談たち やり残したネタとか消化していきます

151.後日談8 いざ教会へ

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 これから一晩過ごすことになるのことは記憶から抹消した。
 ……宿のことは忘れて、いまは教会へ向かうんだ。
 俺たちは荷物を置いて、早々に街へと繰り出していた。中央通りをまっすぐ歩いてゆけば教会に辿り着く。街の人々は相変わらずびくびくと俺たちを遠巻きにしているが、それは今は置いておく。
 なげかわしいことだが、それは俺たちがこれから改善していくべきことなのだから。

「あのクソジジィどもは国の権力を露ほどにも恐れておらんからやっかいだったな」
「今まではどうやって治めていたのですか? 前、センタチュールに着たときはここまでじゃありませんでした」
「ああ、目に見える『力』がこの街にはあったからな。……暴力という力だ」
「暴力……?」

 首をかしげた俺に、クイタさんが説明してくれた。キサム国王陛下から聞いた情報によると、もうこの街のヒッツェの兵士たちは今や崩壊寸前だという。そうだよな、エイズームに攻め入って事実上負けたのだ。政権が他国に負け、占領下に置かれるという状況下ではそれも不思議じゃない。まだ街がその機能を残しているだけマシかもな。
 ここを治めていた兵長も、元将軍グロシュイル率いていた、他国民を奴隷にする誘拐事件に関わっていたとして捕まった為、今街の中での国軍の勢力は一気に衰えているらしい。
 そして何より影。
 影の拠点がこの街に置かれていた上、その影の長が皇帝に従っていた為、その長がなんと脅していたらしいのだ。心臓を握られたような状態ではさすがに犯行を行う気にはならないよな。
 その影の組織も壊滅してしまった為、今までの押さえつけられていた状態からの反動のように派手に動き回っているということだ。

「そんな……」

 その事実を聞いて俺は愕然とした。
 影は俺の敵だったし、俺の家族や友人を襲おうとするヒッツェという国はまとめて敵だと思っていた。
 でもそれを倒したところで、またその国の国民が被害をこうむっていただなんて。
 『国』という敵のなかにも個々の国民は含まれるのだろうか。

 俺のせいだ、なんて自己犠牲的で偽善的なこと考えたくない。
 それでも、何も思わないかと聞かれたらそりゃそんなはずはない。
 
 俺が倒さなかったら今彼らがこんな目に遭うこともなかったんじゃないか、とか考えてしまう。敵を倒すという暴力を振るうなら、その後始末までつけなきゃいけないだろう、なんて。
 でも、同時にそれは何て上から目線で放漫な考えなんだと思う自分もいる。
 すべてどうにかできるみたいじゃないか。俺が助けるか助けないかなんて後から手を出すか出さないかという分岐点に過ぎない。
 そう、結局は、出発点が全てのはじまりなのだ。こんなことを起こしている奴らが悪いのだ、と。

 それに俺はあの時、決心したじゃないか。
 どんなことになっても、俺の大切な人は守るって。

 でも、漠然とした感情が胸に渦巻く。自然と視線が泳いだ。
 そんな俺の様子に気がついているのか、いないのか。クイタさんが神殿をにらみつけて唾を吐いた。

「どんな理屈を並べようと彼奴等きゃつらがとんだ屑野郎であるという事実だけはくつがえせんよ、ウィル」

 俺は深く頷いて歩き出した。

 立ち止まっているより、一歩前へ出て目の前の敵をさっさと潰すのみ。後悔するのは後からでもいい。







 教会に近づくに従って、ただでさえ閑散としている街の人の姿が、もっと少なくなっていた。
 神への信仰を広めようという教会がこれでは本末転倒なのではないだろうか。
 教会の大きな扉の前にたどり着くころには、あたりにはもう人っ子一人いなかった。
 美麗な装飾が施された大きな両開きの扉は、開けっ放しにされている。
 さすがに、礼拝堂は普通に一般開放しているらしいな、と一瞬思ったのだがこれまたびっくり。

 開け放たれた扉の内側には柵があり、その柵が生えている台はというと、なんと受付になっているようだった。そしてその受付のすぐ横に貼られているのは「100ルークル」とだけ書かれた張り紙。

 呆れた。
 エイズーム王国換算で(つまり日本円換算で)一万円の参拝料を取っているらしい。
 重い税も取り立てているというのに、それではまだ物足りないというのだろうか? ……言うのだろうな。だからこんな状況になっている。

「おひとりにつき、100ルークルです」

 俺たちが敷居を跨いだ瞬間に、受付に座っていたお兄さんが胡散うさん臭い笑顔で言ってきた。
 まあ、参拝料を取るというところまでは別に慣れ親しんだ文化だし抵抗はないんだが。
 前世でも有名な神社や寺社は参拝料を取っていたしな。組織運営のためには資金が必要なのはこの世の道理なのだから、むしろちゃんと文化財やら歴史的建築物を残したり、といったことのためにきちんと料金を設けてくれって気分になるのだけど。

 何だか、この悪趣味な建物を残されても……と微妙な気持ちになってしまう。いや、それは俺の趣味や好みの話だからどうでもいいことなんだけどね。
 でも、この街ではなぜか教会が民に対して重税を敷いているというし、正直参拝料なんて、その資金の中では微々たるものなんじゃないかと。ね、なんていうか、ケチぃ。

「値下げをしたのだな」

 しかし、俺の分まで一緒に払いながらクイタさんの呟いた言葉で俺は目を見開くことになる。
 なんてこったい! もっと高かったのかよ!

「はい、200から100へ。もっと気軽に礼拝できるようにとの司祭様のご配慮からです」

 胡散臭い笑みのまま、お兄さんはそう答えてくだすったわけだが……。
 それで庶民の方たちはここに来ることができたの? ん? できなくても来させられてたって?
 教会のなかを奥に進みながら、クイタさんが耳打ちして教えてくれた。
 俺は怒りでプルプルと震えてしまう。ほんっと腐ってるわな! ここの人たち!

 入り口から入るとそこは礼拝堂と思しき空間が広がっていた。
 中央にはレッドカーペットが敷かれており、その両脇には木製の長椅子が綺麗に並べられている。そして、正面奥の壁には張り巡らされたステンドグラス。そして、その前に置かれた立派な石像。
 ステージのようなものもある。そして、そのうえには教卓のような机も置かれており、おそらく司祭的な人がそこに立って説教を行っているのだろうと予想できた。
 まあ今は説教の時間じゃないのか、ここには誰もいないのだが。
 だからか、こつんこつんと俺とクイタさんの足音だけがやけに大きく、その礼拝堂の中に響く。
 礼拝堂の天井が吹き抜け三階立てってレベルで高いというのも一躍買っているに違いない。

 しかし、護衛の人たちの気配は感じるのにまったく動いている音は聞こえない。やっぱりすごい練度だな。
 さすがエイズーム王国黒騎士団情報部隊のなかでも選ばれし精鋭さんたちだ。

「クイタさん、このまま奥の『部屋』に向かうのですよね?」
「ああ、彼奴らの『控室』にな。幸い、彼奴らはわしらの存在に気が付いていないらしいから、恐らく簡単にゆくぞ」
「可能性ではありませんよ。例え、難しいことでも僕たちが、そうのです」
「左様にな」

 声を潜めてクイタさんと笑いあった。
 そう、俺たちは教会の運営をしているお偉いさんたちの部屋に突撃訪問をして、武力で完全制圧し、彼らを再び国の管理下に置こう! という計画を立て、現在それを遂行中なのであった。
 なんというちからまかせ。
 黒騎士と俺のチートだけでねじ伏せようというあれである。政治的な駆け引きとか素人の俺に期待しないでください。
 キサムさんに心の中で少しだけ謝っておいた。
 いや、でも、俺に任せる時点でそういうことを期待されてるんだと思うことにしよう。
 だって、キサム陛下だって俺が政治家としてはまだまだビギナーであることを十分にご存じであるはずだ。
 なんたって俺は8歳だもの。
 敵対していた国の占領を、政治的意味合いも含めて人心を完全に掌握しろだなんてそんな無茶ブリはしないはず。
 そんなことは期待されていないと信じてる。もし期待されていたとしたら、もうそれは国王陛下がおかしいということで。

 無理やり心を納得させながら、一歩また一歩と足を踏み出し、歩いていく。

 そんな武力で制圧するなら、クイタさんは足手まといなんじゃないのという疑問は当然でてくるだろう。
 これは俺らなりの温情措置なのである。
 一応、皇帝陛下であるクイタさんと教会関係者のお偉方には面識がある。
 クイタさんを見た時点でこちらに下るというのなら、武力行使はやめておきましょうってね。

 クイタさん曰く、絶対そんなことは起こるはずはないらしいが。

 でも、降参は早いのではないかと笑みを深めていた。
 そして俺の顔を見て何やらにやにやしていたし。
 なんか俺の顔についていたのだろうか。
 それより、相変わらずのクイタさんの悪人面に気を取られて俺はそれどころじゃなかったが。
 「すぐにでも彼奴らは頭を床にこすりつけているだろうな」と笑うクイタさんは完璧な悪役であった。

 おかしい。
 
 これでは俺が悪役に付き従うモブのようではないか。いや、平凡顔だしにあっているかもしれないけどね。

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