111 / 137
あくせく旅路編
◆19.友人の様子がおかしい(ジョーン視点)
しおりを挟むフェルセス学園の生徒が五月祭で何かやらかして国王陛下にさ招集れたらしいと、宮廷内の風の噂に聞き。
どういうことだと、半ば確信を持って本人を問い詰めたところ、どうやら学内に侵入した何処かの召喚獣がウィル君の友人を襲った為に、それを倒したのだという話であった。
通信の魔道具ごしにも少々焦っている様子が伝わっていることがわかるくらい、ウィル君は焦っている模様。
普段なら年齢を置き忘れたのかと思うほどの冷静沈着振りのはず。何かあったのかと問えば、まさかのその召喚獣があの高位魔獣アビであったのだという。
普通なら笑ってウソだと思えるような話もウィル君を知る私からすると、本当のこととしか思えずつい、通信の魔道具ごしに黙り込んだ。
私のそんな行動に、ウィル君はいきなり明るい声を出すと『まあそろそろジョーン先生のところにも誰か来るかもしれませんね』と冗談めかして言った。私を元気付けようとしたのか。下手ですね……。
思わずくすりと笑うと、ウィル君も少し笑いを漏らしているようだった。しかし、やはり常々思うものだが、ウィル君という子は……。
今の冗談で、ウィル君のところに誰かしらが派遣されたということも、それが宮廷関係であることもわかってしまう。そして、私のところにということで影関係であることも伝わってくる。
恐らく、守秘義務をと思っているなかで一応私に知らせてくれようということだろう。こういう気遣いをされる関係ははじめてだが、気の許せて信頼の置ける、立場的にも秘密の享有もできる友人関係など、非常に貴重で、居心地がいいことくらい私にもわかる。
それが八歳児相手というのが少々おかしいが、まあウィル君に年齢という概念を当てはめてはいけない。
ウィル君お手製の通信の魔道具を棚にしまいながら、私はひとりくすりと微笑んだ。
◆
しかし、噂をすれば何とやらというものなのだろうか。
ウィル君と会話をした次の日に、ジルコがやってきた。学園時代からの知り合いで、今やエイズーム王国騎士団の黒騎士情報部隊の部隊長である。
宮廷学者となってからも、情報提供やアドバイザーとして関わりがあった。三年前の一件があるまではあまり思ったこともなかったが、どうやらジルコと私は世間的に言えば腐れ縁の友人とも言える関係なのではないだろうか。
そして、黒騎士といえば王直属である為宮廷関係者であるし、『アビを倒した』という証言をしたウィルに派遣するに当たっては情報部隊ほど適任な選択はない。ジルコがウィル君の言っていた人物で間違いないだろう。
「それで、アビの件についてですか?」
「……あ、ああ。そうである」
突然ジルコが天井から降ってくるのには慣れた。何しろ学園時代は同室であったもので、いつも部屋に入ってくるときは天井裏からであった。何やら『ニンジア』の癖らしい。一族揃って変人である。
降りてきて早々、ジョーンに本題を突かれて驚いたのだろう。無表情ながらも、何故それを知っている、と雰囲気で全力で語ってくる。この男も相変わらずだ。ジョーンは肩を諌めて苦笑した。
「ウィル君が倒したんですよね?」
これだけ言えばジルコは察するだろう。何しろ私をウィル君の家庭教師としてジルコをキアンに紹介したのは、ジルコなのだから。
そしてすべてをわざわざ語らせるような真似もさせまい。
「そうである。その件について、アビの生態・伝説・伝承についてなどの情報提供を望むのである」
案の定、何故知っていたかという疑問は流して本題に入ることにしたらしい。
余計な時間はいらない。お望みどおり、巨大な本棚へと向かうといくつかの資料を引っ張り出して説明を開始した。
といっても、アビは半ば伝説と化しているような恐ろしい魔獣である。町を一晩で滅ぼしたらしい、といった不確かな情報しか伝えられない。
しかし、いずれにしても高位魔獣であるということは確かだ。魔力を放出させただけで人を気絶させたという今回の事件から伝わる事実だけでもそれは証明できる。
そんな魔獣を召喚獣、もしくは契約獣として操った人物がいる。それが本当に本人の実力ならば……。
ひやりとするものがあった。
何か特殊な魔道具を使ったのだとしても、そんな魔道具を使ったもしくはつくったとなれば、相当に強大な組織に違いない。そんなもの、個人の力でどうにかなるものではないのだ。
なるほど、それで私か。
私なら三年前の『影』の事件についても知っている、関係者だ。今更他の学者を当たって、情報の漏洩の危険性を高める必要もない。
「しかし、どうやってアビが侵入したのでしょうね。学園には結界が張られているはずですが」
「それが、どうやら何者かが手引きしたのか、起点が出来ていたらしいのである。それを先ほどウィル殿と話し合い、手配することとなったのである」
「ふむ……。それで、その後調査に、という感じですかね? なるほど」
いかにも、ウィル君ももう限界ということだろう。
私が襲われたことも相当起こってくれていたようだし、シフォンやプースラリエル、ピピンニャルだって今では大切な仲間だと思っているようだし。更には今回友人まで襲われたとあってはね。
それで、私は今後なんですか? 調査のアドバイザーに任命でもされるのですかね?
そう思ってジルコを見やれば、何やらジルコは小さく頷いた。
「ジョーンには色々な面での情報提供とアドバイスを求めることとなるである」
「わかりました」
しかし、この男もウィル君に会ったとなればやはり驚いたことだろう。
「……アナタもついにウィル君に会ったわけですか」
思わず呟けば、ジルコは深く頷いた。
「まさに。ジョーンの申していた意味を理解したである」
あれは八歳には思えない。
ウィル君を思い出して、二人して遠い目になった。
◆
「なるほど」
そんなことがあってから数日後。
私の研究室にウィル君とプースとジルコがやってきていた。やはり、敵を影と定めて動き出したはいいが、なかなか検討もつかず行き詰ったということらしい。
何百年もの大陸の歴史のなかでも見つけられない影の本拠地をこの短時間で見つけようという方が土台無理というものだ。
私はあまりに必死なウィル君の様子に首を傾げながらも、少々冗談を言うことにした。いまだに似合わないという目を向けられるが、案外冗談を言うのは楽しいのだ。
「話は分かりました。学園に襲撃があり、そのアビをウィル君が倒したはいいが、カルセドニーさんにも被害は及ぶしガールフレンドは怪我をさせられるしで黙ってはいられない、と。そして影の本拠地を見つけ出してもとを絶とうとなるほど」
そこまで言って、ウィル君がやたら焦った様子で黙り込んでしまったので慌てて次の言葉を継ぐ。
「冗談ですよ、ウィル君。おおかたそこの部隊長ひとに頼まれたのでしょう。仕えるものは使う人ですから」
「……なんどか世話になっていてな」
肩を竦めたジルコに、やっとウィル君は落ち着いたらしい。
その後、話し合いは進み、ウィル君が影の目的がわからず、父や自分が狙われていること、それならばいっそ騎士団長であるキアンを狙った依頼者が影の組織を有しているでは、という疑問を呈したところで私とジルコは閃いた。どうにも影という組織から本拠地をアプローチしていたが、事件からの方がまだ最近の情報だ、確実性がある。これは私の頭が固くなっているようだな……。
そういえばキアン様は一度影を退けていると聞いたことがある。影は決して無茶はしないと聞くし、本当に影がキアンを狙い続けているならばそれは非効率だし、ウィルを狙うというのも理にかなっているし、何よりそんな大規模で、かつ凶悪な手段をとれる組織など『影』以外には思いつかない。
情報がなく、すべてが手探りな現状では思い当たるところから行くしかないだろう。
かくして、ウィル君たちは、この大陸で唯一、エイズーム王国の騎士団長をどうにかしたいであろう、そして影の組織を有せるほどの規模を持つであろう組織――――北の隣国ヒッツェ皇国へと調査へ赴くことになったのである。
それもどういうことか、国王陛下に情報が筒抜けであったので、王命で。
私の研究室で行われた話し合いだ。恐らく、城自体になんらかの魔道具が備え付けられているのだろう。
「しかしウィル君、随分と余裕のない様子でしたが……」
ひとりになった部屋で、心配が増す。ウィル君に限って、死ぬようなことはあり得ないとわかっているが、そういう身体的な問題ではなかった。
あれは、私を助けたあと見せたような……そう、何かを恐れているのを、隠しているような……。
「大丈夫でしょうか……」
湧き上がる嫌な予感に、思わず北の方角を見つめてポツリを呟いた。
************************************************
ごめんなさい、きれいにダイジェストし切れなかったので変なかんじになってます
10
お気に入りに追加
7,430
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
お坊ちゃまはシャウトしたい ~歌声に魔力を乗せて無双する~
なつのさんち
ファンタジー
「俺のぉぉぉ~~~ 前にぃぃぃ~~~ ひれ伏せぇぇぇ~~~↑↑↑」
その男、絶叫すると最強。
★★★★★★★★★
カラオケが唯一の楽しみである十九歳浪人生だった俺。無理を重ねた受験勉強の過労が祟って死んでしまった。試験前最後のカラオケが最期のカラオケになってしまったのだ。
前世の記憶を持ったまま生まれ変わったはいいけど、ここはまさかの女性優位社会!? しかも侍女は俺を男の娘にしようとしてくるし! 僕は男だ~~~↑↑↑
★★★★★★★★★
主人公アルティスラは現代日本においては至って普通の男の子ですが、この世界は男女逆転世界なのでかなり過保護に守られています。
本人は拒否していますが、お付きの侍女がアルティスラを立派な男の娘にしようと日々努力しています。
羽の生えた猫や空を飛ぶデカい猫や猫の獣人などが出て来ます。
中世ヨーロッパよりも文明度の低い、科学的な文明がほとんど発展していない世界をイメージしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。