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第1章 入れ替わった二人がそれぞれの生活をはじめるまで
10.初登校
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男子の制服はラクチンでいいな。朝寝坊でもするんじゃないかと不安があったが、意外とこの状況に緊張していたらしく、きちんと起きられた。いや、ユウの身体が早起きに慣れているからかもだけど。
制服に着替え終わってリビングに行くと、両親はそろってスーツを着ていた。ご飯、と言って生の食パンを渡された。うん、食パン。
ユウの両親と一緒に家を出発。電車に乗って、20分程度で目的地の駅にたどり着いたようだ。
「学校の駅はここだから覚えておくようにな」
ユウ父にそう言われて、頷いてスマホを取り出す。万が一にでも忘れると困るので、駅名の書かれた看板を写真に撮っておく。学校名で調べたら最寄りの駅としていくつか駅名が出てくるそうだがこの駅からが一番行きやすいらしい。
「ここがユウちゃんの高校よ」
「渡瀬高校……」
校門にたどり着いたところで、ついていた看板を思わず読み上げる。そういえば、ユウさんが昨日朝の電話でそう言っていた気がする。
学校の正面玄関から入ってそのまままっすぐ入ったところに保健室があった。
「では、蓮見先生。お願いいたします」
父がお辞儀をして去って行った。頑張るんだぞ、という視線を向けられてむずがゆくなる。なんたって、記憶喪失もどきなので。
保健室はまあ一般的に保健室と言われたら想像する感じまんまで、若干校舎自体が古いのもあって古めかしく感じるが白を基調とした空間だ。
「日暮さん、おはようございます。養護教諭の蓮見です。よろしくね」
「おはようございます、よろしくお願いします!」
と保健室をみている間に、保健室の先生が近づいてきて挨拶をされたので慌ててお辞儀をする。顔を上げてから先生の顔を改めて見てみると、ものすごく美人だ。しかしなんだろう、これまで出会ってこなかったタイプの美人だなぁ……。
男なのか、女なのかわからないような中性的な美人なのである。声も女性にしては低め、男性にしては高めという具合だし。体形はスレンダーな感じ。何より顔がよすぎて、性別という壁を取り払っている。美しい。
「日暮さんの事情は昨日ご両親からの電話で伺っています。困ったことがあればいつでも頼ってください。担任の先生もクラスメイトもサポートをしてくれるでしょうが、こういう時には気楽に保健室も活用してもらいたいのです」
「蓮見先生……、ありがとうございます。身の回りのことを全く覚えていないので、お世話になるかもしれないです……」
「遠慮しないで、いつでも来てね」
ニコニコと微笑まれると顔が赤くなる。ホント、美人。うん、正直男の身体のこととか、一般的な常識くらいしか知らないから、相談することになりそうだな。ググっても出てくるようなことであればいいけど。
思わず先生を見つめてしまって、先生もニコニコ顔でこちらを見ているので数秒見つめ合っていると、ガラガラと保健室の扉が開かれた。
バッと振り返ると、大柄で短髪の男性。なんというか雰囲気は闘牛のようだ。目がぎょろっとしていて、眉がずんと太くて、体つきがごつい。すごい筋肉だ。腕とか丸太のように太いのが服越しにでもわかる。体育の先生だったりするんだろうか。
「あ、宮村先生、おはようございます。もう日暮さんはいらっしゃってますよ」
「おはようございます。蓮見先生。ご両親は?」
「もう出立されました。日暮さん、この方が貴方の担任の宮村先生です」
「おはよう、日暮くん。君たちのクラスの担任の宮村だ。先生も君の事情は伺っている、困ったことがあればいつでも相談してくれ」
「おはようございます。ありがとうございます!」
宮村先生は真顔でいると闘牛のようだったが、にっこり笑うと牧場の牛のようでかわいかった。そして、先生たちがみんな優しくて泣きそう。いい学校だね。
「じゃあ、校舎の案内をしてから、教室に向かおうか」
「はい、お願いいたします。蓮見先生、ありがとうございます」
「いえ。お大事になさってくださいね」
宮村先生に連れられて保健室を後にする。横に並んで歩くと、余計に素晴らしい筋肉だと実感できる。こんな筋肉を持っている先生が教えてくれる体育とかちょっと期待値が上がってしまう。
「あの、宮村先生はなんの先生ですか?」
廊下を歩きながら宮村先生に話しかける。こちらを見ると、微笑んだ。
「それがな、国語の先生だ。それも古文」
「えっ」
思わず驚きを声に出してしまった。その筋肉は何用。
「その顔は何でそんなマッチョなの? という感じだな。これは趣味のために着けた筋肉だ」
なるほど。武術か何かをしているってことかな。
「ご趣味は何なんですか」
「園芸だ」
うん? ますます謎が深まってしまったぞ?
首を傾げながら歩く。
先生に案内されて校舎を見て回った。私の通う百合野高校は長方形の建物を2個つないだようなロの字型をしているが、この渡瀬高校は大きな長方形の端に直角に小さな長方形を生やしたようなコの字をしていた。
1階は保健室や職員室、校長室や、先生たちの執務部屋があるようで、2階より上が教室なのだそうだ。コの字の内側の方向に校庭があって、その校庭を挟んで向こう側に部室棟があるのだそう。
「日暮は帰宅部だったから、部室棟に行くことはないだろう。なので案内は割愛するな」
「はい」
私も帰宅部だったので部活動に励まなくていいというのは助かる。
「2階が1~2年生の教室で、3階は3年生の教室と特殊教室――物理室や化学室、生物室などがある。あー、案内を忘れてた。家庭科室だけは1階にある、保健室の近くだな」
「わかりやすくていいですね」
うん、うちの高校だと物理室とか化学室とかは離れたところに点在しているうえに、階段があるところとないところがあるからたどり着くのが大変なのだ。ユウさんが苦労してないといいけど。
その点、この高校は真ん中にしか階段はないし、まとまってくれているから非常にわかりやすくていいな。
と宮村先生の案内による校舎ツアーは終わって、教室にたどり着いた。まだ、8時と始業までは30分程度あるので教室に来ている人は稀だ。
「日暮の席はここだ。じゃあ、先生は一回職員室に戻るからな」
「はい、ありがとうございました!」
お辞儀をすると、手をひらひらさせて教室を出ていった。
教室には2~3人しかいなく、沈黙を保ったままというのも気まずいので、先生に言われた自分の席に鞄を置くと、教室にいる人に話しかけることにした。
が、誰に話しかけようかと教室を見ているうちに、そのうちの一人が近づいてきてくれた。
制服に着替え終わってリビングに行くと、両親はそろってスーツを着ていた。ご飯、と言って生の食パンを渡された。うん、食パン。
ユウの両親と一緒に家を出発。電車に乗って、20分程度で目的地の駅にたどり着いたようだ。
「学校の駅はここだから覚えておくようにな」
ユウ父にそう言われて、頷いてスマホを取り出す。万が一にでも忘れると困るので、駅名の書かれた看板を写真に撮っておく。学校名で調べたら最寄りの駅としていくつか駅名が出てくるそうだがこの駅からが一番行きやすいらしい。
「ここがユウちゃんの高校よ」
「渡瀬高校……」
校門にたどり着いたところで、ついていた看板を思わず読み上げる。そういえば、ユウさんが昨日朝の電話でそう言っていた気がする。
学校の正面玄関から入ってそのまままっすぐ入ったところに保健室があった。
「では、蓮見先生。お願いいたします」
父がお辞儀をして去って行った。頑張るんだぞ、という視線を向けられてむずがゆくなる。なんたって、記憶喪失もどきなので。
保健室はまあ一般的に保健室と言われたら想像する感じまんまで、若干校舎自体が古いのもあって古めかしく感じるが白を基調とした空間だ。
「日暮さん、おはようございます。養護教諭の蓮見です。よろしくね」
「おはようございます、よろしくお願いします!」
と保健室をみている間に、保健室の先生が近づいてきて挨拶をされたので慌ててお辞儀をする。顔を上げてから先生の顔を改めて見てみると、ものすごく美人だ。しかしなんだろう、これまで出会ってこなかったタイプの美人だなぁ……。
男なのか、女なのかわからないような中性的な美人なのである。声も女性にしては低め、男性にしては高めという具合だし。体形はスレンダーな感じ。何より顔がよすぎて、性別という壁を取り払っている。美しい。
「日暮さんの事情は昨日ご両親からの電話で伺っています。困ったことがあればいつでも頼ってください。担任の先生もクラスメイトもサポートをしてくれるでしょうが、こういう時には気楽に保健室も活用してもらいたいのです」
「蓮見先生……、ありがとうございます。身の回りのことを全く覚えていないので、お世話になるかもしれないです……」
「遠慮しないで、いつでも来てね」
ニコニコと微笑まれると顔が赤くなる。ホント、美人。うん、正直男の身体のこととか、一般的な常識くらいしか知らないから、相談することになりそうだな。ググっても出てくるようなことであればいいけど。
思わず先生を見つめてしまって、先生もニコニコ顔でこちらを見ているので数秒見つめ合っていると、ガラガラと保健室の扉が開かれた。
バッと振り返ると、大柄で短髪の男性。なんというか雰囲気は闘牛のようだ。目がぎょろっとしていて、眉がずんと太くて、体つきがごつい。すごい筋肉だ。腕とか丸太のように太いのが服越しにでもわかる。体育の先生だったりするんだろうか。
「あ、宮村先生、おはようございます。もう日暮さんはいらっしゃってますよ」
「おはようございます。蓮見先生。ご両親は?」
「もう出立されました。日暮さん、この方が貴方の担任の宮村先生です」
「おはよう、日暮くん。君たちのクラスの担任の宮村だ。先生も君の事情は伺っている、困ったことがあればいつでも相談してくれ」
「おはようございます。ありがとうございます!」
宮村先生は真顔でいると闘牛のようだったが、にっこり笑うと牧場の牛のようでかわいかった。そして、先生たちがみんな優しくて泣きそう。いい学校だね。
「じゃあ、校舎の案内をしてから、教室に向かおうか」
「はい、お願いいたします。蓮見先生、ありがとうございます」
「いえ。お大事になさってくださいね」
宮村先生に連れられて保健室を後にする。横に並んで歩くと、余計に素晴らしい筋肉だと実感できる。こんな筋肉を持っている先生が教えてくれる体育とかちょっと期待値が上がってしまう。
「あの、宮村先生はなんの先生ですか?」
廊下を歩きながら宮村先生に話しかける。こちらを見ると、微笑んだ。
「それがな、国語の先生だ。それも古文」
「えっ」
思わず驚きを声に出してしまった。その筋肉は何用。
「その顔は何でそんなマッチョなの? という感じだな。これは趣味のために着けた筋肉だ」
なるほど。武術か何かをしているってことかな。
「ご趣味は何なんですか」
「園芸だ」
うん? ますます謎が深まってしまったぞ?
首を傾げながら歩く。
先生に案内されて校舎を見て回った。私の通う百合野高校は長方形の建物を2個つないだようなロの字型をしているが、この渡瀬高校は大きな長方形の端に直角に小さな長方形を生やしたようなコの字をしていた。
1階は保健室や職員室、校長室や、先生たちの執務部屋があるようで、2階より上が教室なのだそうだ。コの字の内側の方向に校庭があって、その校庭を挟んで向こう側に部室棟があるのだそう。
「日暮は帰宅部だったから、部室棟に行くことはないだろう。なので案内は割愛するな」
「はい」
私も帰宅部だったので部活動に励まなくていいというのは助かる。
「2階が1~2年生の教室で、3階は3年生の教室と特殊教室――物理室や化学室、生物室などがある。あー、案内を忘れてた。家庭科室だけは1階にある、保健室の近くだな」
「わかりやすくていいですね」
うん、うちの高校だと物理室とか化学室とかは離れたところに点在しているうえに、階段があるところとないところがあるからたどり着くのが大変なのだ。ユウさんが苦労してないといいけど。
その点、この高校は真ん中にしか階段はないし、まとまってくれているから非常にわかりやすくていいな。
と宮村先生の案内による校舎ツアーは終わって、教室にたどり着いた。まだ、8時と始業までは30分程度あるので教室に来ている人は稀だ。
「日暮の席はここだ。じゃあ、先生は一回職員室に戻るからな」
「はい、ありがとうございました!」
お辞儀をすると、手をひらひらさせて教室を出ていった。
教室には2~3人しかいなく、沈黙を保ったままというのも気まずいので、先生に言われた自分の席に鞄を置くと、教室にいる人に話しかけることにした。
が、誰に話しかけようかと教室を見ているうちに、そのうちの一人が近づいてきてくれた。
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