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第2章 宝玉を追いかけていたら世界を救っていた
48.仲間が増えたよ
しおりを挟む宝玉の放つ光に導かれてたどり着いたのは、いかにもな洞窟であった。
そんな洞窟におそるおそる入った俺たちの目の前に飛び出してきたのは、なんとツインのお団子頭をしている、耳のとがった銀髪の人――エルフであった……。
「……」
突如目の前に現れては「待ったぁああ!!」といきなり叫んだエルフに俺たち3名は、すぐに反応を返すこともできず無言で顔を見合わせる。
何このエルフ。
今どこから現れた? ――後ろからだね。
前から現れたなら、この洞窟の居住者かなとか予想ができるけど彼女は俺たちの真後ろから現れた。
いや、そんなこともない? 洞窟から外出している間に俺たちが入るのを見かけて止めているとも考えられる。いや、しかし自分の家に勝手に不審者が入ってきたとして「待った!」と俺なら言うだろうか?
多分、何者だ!とか、何をしている!とか叫ぶだろう。いや、俺弱いうえに小心者なのでリアルに考えると何も言えないかも。
と、俺がいろいろと考えているうちにも時間は過ぎ去っていく。ファナさんや神父様(クレトさん)も同様にこの目の前のエルフについて考えていたのだろう。3人がエルフを見つめたまま数秒が経過する。
「ちょっと、何か言ってくださいよ!!!」
そんな無言の空間に耐え切れなくなったのは、エルフの女の子だった。
若干声を震わせながら、目じりに涙を浮かべている。
「いや、すまんが……誰?」
ファナさんが首を傾げた。うん。俺も思ってた。
「で、ですよねー!!!」
エルフの女の子の方もなぜかハッとした表情をした後に冷や汗をかいている。
「す、すみません。とある事情で貴方たちの後をつけさせていただいていたのですが、いきなり罠に飛び込もうとしているのが見えて良心に耐えかねて忠告をさせていただきましたぁ……」
「罠?」
「ついてきた? ストーカー……?」
「尾行してきたのですか? とある事情とは?」
ファナさんが純粋に罠という単語に反応して首を傾げた。
俺は尾行してきたと悪びれもなくエルフに若干の恐怖を抱いた。クレト様も同様だ。たぶん、戦闘力の有無が大いに反応に違いを与えている。
俺もクレト様もストーカーにいきなり襲われたらひとたまりもないからね。
今もエルフの女の子が登場するまで全く気付かなかったわけだし、不意打ちされたら確実に死んでいたよ。
「ああああ、あの、違うんです。ストーカーとかじゃないんです。あの、その、とある方の依頼で、町の英雄である皆様の行く先を知りたいらしくて……その」
「なんだと。私たちの行く先を知ってどうしたいんだ、そいつは。で、誰の依頼なんだ。何の目論見なんだ」
途端にしどろもどろになってわたわたと説明しだしたエルフの女の子にファナさんが詰め寄る。
「そっ、それは守秘義務というヤツで言えないのです! ただ、その、目論見とかはなくて単純に皆様の現在位置を知っておきたいだけで。英雄がどこにいるか知っていればもしもの時に助けを求められるかもしれないから……悪い人ではないのですよ!」
「ああ、なるほど。依頼人は大方見当が付きましたよ。どうせギルドマスターでしょう」
「イイイ、い、言えません」
クレト様の発言にさらに挙動不審になるエルフの女の子。
これでは答えを言っているようなものである。思わず3人で顔を見合わせてにっこり笑ってしまった。
「ひえ……」
その笑顔のまま彼女に向き直ると、なぜかおびえられた。なんでや。
「ごめんなさい。許してください! 悪気はなかったし、今回もちゃんと罠に引っかかる前にお知らせしましたよね! もうこれは言わば、護衛のようなもの! だから殺さないでください! ファナ様!!」
ファナさんを怖がっている、だと。
必死なエルフの女の子を若干かわいそうに思いながらも釈然としない気持ちを抱く。
こんなにかわいくて美しくて女神なファナさんの笑顔を捕まえて、なんで殺されると思ったのかな?
「い、いや、大丈夫だ。そういうことであれば、別に責めたりはしない。奴の視点に立てば言いたいこともわかるからな。ただ、その罠というのは?」
エルフの女の子のあまりの勢いに引き気味なファナさんが尋ねる。
「ここから一歩踏み出したら床にスイッチがあるじゃないですか」
エルフの女の子が床のある一点を指さした。そう言われてから注視してみると、確かにそこには滑らかな石畳の床から比べると若干溝の入ったように見える一角があった。でも言われてみればそうかなぁ? というレベルで、そんな大前提としての口調で言われてもって感じである。
もしかして俺だけ? 不安に思ってファナさんとクレトさんを見ると、同じように首をひねっていた。
ですよねー!
俺たちの困惑に気が付くこともなく、エルフの女の子は説明を続ける。
「そこを踏んだら最後、両脇からはほら壁に発射口が見えるように大量の毒矢が飛んできますし」
み、見えない。
「天井端に装置が見えているように、吊り天井が落ちてきますし」
見えない……。
「壁と床の接合面に隠してある、あの大量の配管から毒霧が発生しますよ」
配管……どこ……?
「さらには、入口側からは天井の方に薄っすら魔法陣が見えますから、ちょっとこれは私には何の魔法陣かわかりませんが、何かしらが迫ってきて後ろに逃げることもできなくなるでしょう。つまり……」
魔法陣は、見えないけど、つまり……?
「これは即死トラップです!!」
そうエルフの女の子が言った瞬間、俺たちは反射的に頭を下げていた。
「ありがとう……! 止めてくれて!」
ファナさんに至ってはエルフの女の子の手を握って感涙している。
いくら戦闘力が天元突破しているファナさんと言えども毒霧なんて範囲攻撃をされていたら危なかったかもしれない。俺やクレト様なんて最初に言っていた毒矢の時点で死んでいるだろう。
そして、俺たちは気が付いてしまった。
多分、エルフの女の子が当たり前のことを説明しているような雰囲気を出していることからスカウトとか盗賊とかゲームで言うとそういう役割をしている、冒険者の人にとってこの程度の罠は当たり前に見抜けるものなのだろう。
そこで何がわかるかというと、俺たち3人のメンバーはダンジョン探索するには圧倒的にその技術が足りないということだ。
思わずファナさんを見ると、俺の意図は伝わったようで、不敵に笑って頷いてくれた。
何その笑顔。めっちゃ素敵やん。胸がときめく。
クレト様も見てみると、同様に頷いていた。
「――で、その私たちの位置を把握しておきたいという依頼は、一緒に行動することで不具合は起きないだろうか?」
「え? あ、はい。それは問題ないですが……?」
「お察しの通り、我々はトラップに気が付くことができない。よって、よければこの洞窟の探索の間、臨時のパーティーメンバーとして我々パーティーに加わってくれないだろうか」
そう言ってファナさんは手を差し出した。
「あ、はい……」
エルフの女の子はその手を握った。シェイクハンド、握手である。
勧誘成功だ。
「では、これからよろしく頼む。私はファナ。炎の大剣使いだ」
「マコトです。荷物持ち兼大岩を落として雑魚を攻撃したりします」
「街では神父をしております、クレトと申します。回復魔法や浄化魔法をしようできます」
仲間となったからには自己紹介だ。
3人でいそいそと自己紹介すると、エルフの女の子はここにきてようやく笑顔を見せてくれた。
「皆サン、ああありがとうございます。よろしくお願いシマス。エルフの、斥侯で、アイレと言います」
こうして、俺たちは仲間を一人加えて洞窟探索をスタートすることになった。
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