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第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい

28.もはや討伐というよりは採取である

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 ルロイさんを振った――もとい、ルロイさんパーティーへの勧誘を断った俺。
 愛の告白かと思いきや、パーティーへの勧誘だったようである。あんな紛らわしい言い方をしないでほしいよね。必死に誤解を解かれたが、ファナさんと別れるなど考えられないので改めて丁重にお断りした。
 俺たちは、気を取り直して休憩所を出発した。

「もうそろそろトレントの生息地か」

 太陽が沈み始める前。夕方と昼の間の――おやつの時間になって、ファナさんが言った。
 俺はクエストの説明書と、最近購入した近郊の地図を取り出して確認しながら頷いた。冒険者ギルドから購入した地図なのだが、前の世界を知っている俺からするとちょっとアバウトすぎる代物だ。
 説明書には『辺境の森の獣道の奥、休憩所を過ぎて3、4時間歩いたところ』に生息している、と記載されている。これもアバウトだが地図よりはマシかもしれない。
 前ファナさんにそうこぼしたところ、辺境の地だからそんなアバウトな記載になっているが、もう少し人類の生存域の中心部に近づけば詳細な地図と詳細な説明書があるのだという。『辺境の地』は人類にとって未踏の地のため、情報が不足しているのだ。

「トレントだと気が付かないで不意打ちで強襲されるとたいへんですね。より気を付けて見ていくようにしましょう」
「おう、そうだな」

 『辺境の森』には人の手が入っていないので、ただでさえ薄暗く鬱蒼と木々が生えている。その中で、木とほとんど形の変わらないトレントを見つけるのは至難の業になりそうだ。

「ん?」

 ――と考えていたところで、視界の端に何かがチラリを映った。
 なんか、小鳥が暴れているなぁなんて思ったが、いや、おかしい。鳥は木の幹に捕まって、そこから逃れようと暴れていたのだ。
 小鳥を捕まえているのは、顔の生えた木だった。幹に生えた顔の中心部にある口で鳥を咥えていたのだ。

「あ」

 木と目が合う。木も「やべ」というような表情になって口を開けたもんだから、小鳥がバサバサと逃げていった。

「ファナさん……」
「ああ」

 前を歩いていたファナさんもさすがに気が付いていたらしく、背中の大剣に手をかけていた。
 そして、次の瞬間、ファナさんが駆け出しながら背中から大剣を引き抜いてトレントに斬りかかった。ほとんど叩き潰されるようにしてトレントの顔は砕けて、動きを停止した。

「……あっけなかったですね」
「見付けてしまえば簡単なモンスターなんだ。ただ、見つけるのが大変で、普通は木をまるごと持ち帰るわけにもいかないから『宝玉』くらいしか採取できない、うまみの少ないモンスターだから、冒険者に人気がないというだけで……」
「ああ、なるほど……」

 微妙な気分になりながら、俺はトレントを『無限収納』に放り込もうと近づいて行った。他にもトレントが近くにいるかもしれないから、念のため警戒しつつ。
 大きな木を『無限収納』に放り込んだところで、地面に何か転がっているのに気が付いた。青緑色の球体――『宝玉』だ。近くにいたファナさんがそれを拾い上げて持ってきてくれる。

「倒したときに転がってしまったんだな。トレントの宝玉は顔面にあることが多いから。はい」
「ありがとうござ……っ!」

 手渡された宝玉を受け取ろうとした瞬間、手を滑らせてそれを落としてしまった。手から滑り落ちた宝玉は重力に任せてそのまま地面に落ちる……かと思ったが、俺の目に飛び込んできたのは信じられない軌道をえがいてから地面に吸い付くように着地する宝玉だった。

「え……なにこれ」

 思わず口から漏らす。宝玉って生きてるの?
 まっすぐに地面に落ちずに俺から距離を取るように斜め移動していった宝玉。
 明らかに不自然すぎる動きだった。

「マコトは知らなかったか。宝玉はなぜか投げたり落としたりするとどっか別の方向に飛んでいくんだよ」
「生きてるんですか?」
「さあ? それはわからないが、だからといって宝玉が自分で何かをするということもないからな」
「そうなんですね」

 俺は飛んでいった宝玉を拾い、まじまじと観察した。占いで使う丸い水晶玉よりは一回り小さいくらいの、透き通った綺麗な青緑色の玉だ。この宝石みたいな物体が生物の身体の中に入っているだけで不思議だったが、勝手に飛んでいくとはさらに不思議な物体である。
 そして、自分で生きているのかとファナさんに聞いてみてから気が付いたのだが、基本的には『無限収納』には生きているものは入れられないので、宝玉が生きていないことは確かだ。
 そう考えていると同時に思いついてしまった。

「ファナさん、俺、トレントを見つけるいい方法思いついちゃいました」
「お? なんだ?」
「俺の『念動力』ってモンスターは動かせないんですよね。ただ、植物は動かせるんです」
「なるほど! 名案だ」

 ファナさんが手を打った。
 そして、俺たちはいつかの木材の採取依頼を思わせる速度で木々を引っこ抜き『無限収納』に突っ込み、たまに残る『念動力』で動かせない木をファナさんが爆速でぶっ倒すという流れ作業を開始するのだった。

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