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第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい
25.便利アイテムなのだろうか
しおりを挟む何日か経って、目標数の5倍程度の肉――もとい牛を狩った俺たちは次の日には拠点を発つことにした。
「しっかし、びっくりするな」
「引っ越し依頼でなんどかやってるじゃないですか」
「何度見ても驚きの光景だ」
ファナさんが口を半開きにして俺の作業を見守る。
建てた簡易的な家を徐々に土から引っこ抜いて、『無限収納』に入れるのだ。
こうして『無限収納』に入れておけば、いずれ使う日がくるかななんて思って持って帰ることにした。草原に家がぽつんと建っていても、何かの巣窟にされそうで怖いしね。
「じゃ、出発しましょうか」
外の壁もしまったところで振り返ると、ファナさんはしっかり背中につけていた大剣を脇にくくりつけていた。
「ハンググライダーやる気まんまんですね」
「待っていた! めちゃくちゃ楽しかったからな」
ご期待に応えるため、『無限収納』からハンググライダーを取り出して、念動力でファナさんに取り付ける。2度目ともなれば慣れたもので同時進行で自分にもハーネスを取り付けていく。
あっという間に準備は整った。
「じゃ、飛び立ちますよー」
声をかけて浮かび上がる。
本当、念動力の動きの遅さはどうにかならないものかってくらい、めちゃくちゃゆっくり上がっていく。混んでいるときのエスカレーターくらいの速度しかでないので若干もやもやするが、エスカレーターと違って階段のように空を駆けのぼれるわけでもないのであきらめるしかない。
急ぐ必要はないのだし、心に余裕をもって、ゆっくり行こうじゃないか。
「この徐々に上がっていく感じが、わくわく感を際立たせてくれるよなぁ」
ファナさんが絶叫系大好きな人みたいな感想を言っている。
しかしやっぱり余裕があって、せかせかしていない、物事を楽しめる人が素敵だよね。俺も見習ってワクワク感を楽しもう。
雑談しながら上空までたどり着いた俺たちは前傾姿勢になり、構えた。
そして上方向への念動力を切って、自由落下、そして滑空。
モモンガになった俺たちは大体街の方向に向かって進んでいく。
遠くの方に点のように街が見えてきたところで俺たちは地面に降り立った。
滑空しては飛び上がり、滑空しては飛び上がりというのをテンポよく繰り返してきたので何だか三半規管がやられてふらふらするがファナさんは楽しそうにしていた。いつも大剣を背負って縦横無尽に動き回っているから、三半規管も丈夫なのだろう。
二回目の滑空で慣れたのか、精神的にもそれほど疲れていない。
しかも、往路では道中一泊したが今回の復路は一日で街に帰れそうだ。方向がわかっているというのもあるが、やはりハンググライダーの操作に慣れたからだと思う。
地面をさくさくと歩いていると、蟻や蜘蛛に遭遇するがファナさんが瞬殺していった。
俺はそれを回収する係である。
そうやってサクサク進んでいくと、途中で昼休憩を挟んでもその日中に街についた。陽が沈み始めた夕暮れの中、門に近づく。
「おう! マコト君! ファナ! 生きていたのか!」
門につくなりあんまりなセリフで熱烈歓迎をされる。
門番さんに抱きすくめられてちょっとげんなりする。マッチョなお兄さんに抱きしめられて喜ぶ趣味はないもので。しかも、無駄にマッチョなものだから雄っぱいに顔が押しつぶされる。嬉しくない。
「生きてましたから! 遠征してただけですから! 放してください!! むぐう……」
必死で抵抗するもまったく離れられない。
これが地獄というものか……。
「おい、やめてやれ、マコトが死にそうになってる」
悟りを開きかけたところでファナさんに救われた。
ファナさんがぺりっと引きはがしてくれたのだ。ホンマ……ファナさん女神やで……。
思わず内なる似非関西人が出てしまう。
「窒息死するかと思いましたよ、もう!」
雄っぱいで窒息死とか嫌な死に方ランキングトップ100には入れると思う。
もしかすると爆笑した神様に気に入られて転生させてもらえるまである。
ギルドカードを門の器具にかざしてすぐに、俺は門番さんから飛びのいて距離を置いた。人生一のすばしっこさを発揮できたと思う。
ファナさんは少し笑って、後からギルドカードをかざしながら門をくぐってきた。
「ファナさん、あの門番さん、なんなんですかね。俺あそこまでくるとからかわれてるんでしょうか……」
「いや、彼の場合は純粋な好意だと思う。昔から子供には特に優しくてね……ただトンデモない馬鹿だから」
いや、子供って。
もう俺は子供と思われるような容姿はさすがにしていないと思うのですが。ファナさんより年上なんですが。
「子供って……」
「マ……マコトは若くみえるからな」
ファナさんのフォローが余計胸に刺さった。
うん、若く見えるならいいじゃないか、そう思おう。
◆
冒険者ギルドに到着すると、ギルド内の酒場ですでに出来上がっている冒険者たちがいた。
おかげで美人なお姉さんの方の受付も珍しく並んでいない。
扉を開いた瞬間、そんな光景が目に飛び込んできた。これはチャンスなんじゃないか。
そう思ったが扉を開き切ったところ、いつものお兄さんと目が合ってしまって、諦める。目が合って「よっ」と言わんばかりの表情を向けられているというのに、その視線を振り切って無視するように他の受付に行くことなど俺には出来なかった。
「おーおかえり! その様子だと無事達成できたみたいだね」
「ただいま戻りました」
「ただいま。私たちなら余裕だ」
「さっすがぁ。……素材の提出はどうやってする?」
「解体場で頼む。量が量だからな」
大量に狩ったはいいが、解体するのが面倒だったので、牛の身体まるごと持ってきたのだ。
普通なら解体して、牛の革が必要なら革だけ持ってくるらしいが俺たちには『無限収納』先生がついている。
『解体場』には今まで行ったことがなかったが、冒険者ギルドに併設される施設だ。名前の通り、冒険者が狩ってきたモンスターを有料で解体を請け負っている。ギルド直営の店なのでここにまるまるモンスターを提出すれば、素材を納めるような依頼でも達成扱いになるのだ。
たまに大物を持ってくる冒険者がいるそうだが、あまり頻度は高くないらしい。
まあ、『無限収納』もなく馬車とかでモンスターをまるまる持ってくるのは難しいよな。
そんなことを考えているうちに『解体場』に到着していた。
「じゃ、このへんに出してくれるかな。数を数えて、そろっていれば達成扱いになるよ」
「了解です」
お兄さんが指し示したあたりにポンポン牛を出していく。念動力によって並べられていく牛たちをみていくと、『キャトルミューティレーション』なんて言葉が思い浮かんでくる。
「……19、20! 達成だね。すごい! 君たちがいてよかったよ」
「お役に立てて幸いです」
「マコト君、思ってたけど本当、君、冒険者に染まらないよね」
「?」
普通に会話していたら突然の感想。俺は首を傾げるほかなかった。
「普通冒険者は褒められたら謙遜なんてせずに喜ぶの」
「へえ、そうなんですね」
「……まあ、そこが君のいいところでもあると思うよ。しっかし、これだけ丸ごとのモンスターの素材があれば『宝玉』もガンガン揃いそうだね」
「ホウギョク、ですか?」
「そう、力の篭った玉。モンスターの身体に埋まってるんだ。いろんな武器や魔道具をつくるのにつかわれるんだよ。この街じゃめったにそんな道具に巡り合うことはないんだけど。……まぁ、そもそも身体の奥の方に埋まってることが多いからなかなか集められないんだ」
なるほど、ファンタジーでよく出てくる、いわゆる『魔石』的なやつかな?
お兄さんの説明に考える。結構牛が『無限収納』に入ってるけどそれらからも取り出すことができるのだろうか。
武器や魔道具に使えるなんて、便利そうなアイテムだな。
とは言え俺には武器も道具もつくる技能なんてないけど。
「じゃあ、売ったら高いんですか?」
「そりゃ高いよぉ」
即答したお兄さんの答えに俺は頷いた。
だったら、その『宝玉』とやらを集めてみようかな、なんて。目指せがっつり稼いで、早期リタイアののんびりスローライフ。
宿に戻ったらファナさんに相談してみよう。
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