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第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい

20.スキルが活かされるとき 3

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 次の日の昼頃。
 予定通り朝には『防衛拠点』を出発した俺たちは街に戻ってきた。道中にはいくらか蟻や蜘蛛が襲ってきたけど、ファナさんが危なげなく倒してくれた。
大振りに大剣を振り回すというのに、一切無駄がなく、むしろ刃物に向かってモンスターの方が寄ってきているさすファナ。

「おう、戻ったか、マコト、ファナ」

 門に到着するともはやお馴染みとなった門番さんがいた。今度は撫でられないうちに、さっさと身分証を器具にかざして、ファナさんの後ろに逃げ込む。
 俺を撫でようと伸ばされていた門番さんの手は行き場を失って、寂し気に宙を漂っている。門番さんもさみしそうな顔でこちらを見ているが、そう何回も成人男性が撫でられてたまるかって話なわけですよ。
 まあ、街を守る門番さんと険悪な関係になってもよろしくないので、譲歩はする。

「ただいま戻りました。門番さん、いつもお疲れ様です。こうやってちゃんと門番さんが見張ってくれていると思うと安心して街で過ごせます」

 頭は差し出せないけど、気持ちくらいは差し出せるので。
 どういうわけか俺をかわいがってくれている門番さんを労わっておく。なぜ気に入られているのかがわからないので若干怖いが、気にかけてくれるという事実には感謝せねばならない。

「お、おう……そういうふうに言ってくれるやつはなかなかいねえから……なんというか照れるな」
「それがマコトのいいところだ。さっ、こんな大男は放っておいてさっさと行こう」

 俺の言葉に一気に元気を取り戻した門番さんをファナさんは呆れた顔であしらっている。何気に俺を褒めてくれているので俺も照れちゃいそうなんだけど。俺が素直にそうやって人に感謝を示すようになったのは、異世界に来て、ファナさんに出会ってからだ。
 俺たちは感動に震えている門番さんを放って、歩き出した。

 冒険者ギルドに到着すると、やはり朝の冒険者ギルドほどには混みあっていなかった。
 最初の頃は「ファナが男連れ!?」という初日の反応を何度かされていたものだが、徐々に俺たちがパーティー的なものを組んで一緒に活動していると認識が広まったのか、ギルドがざわめくということもなくなってきていた……のだが……。

「おい、お前! ここはお前みたいなもやし野郎が来るところじゃねえんだ!」

 まさか、いまさらこんなテンプレ的な絡まれ方をするとは思っていなかった……。
 ガタイがよく、顔がいかついチンピラ兄ちゃんに睨み付けられている。日本でこんな絡み方をされていたら真っ先にいくら必要ですか? と縮み上がっていただろう。
 しかし、ファナさんという本当に恐ろしい気迫を知ってしまった今は、なんだか小物感が溢れていてかわいそうになる。
 それもファナさんがすぐそばにいて、助けてくれるという確信があるからだろう。

「お前みたいな軟弱者がギルドで何できるってんだ! 帰りな!」

 そう叫ばれて、がしっとチンピラ冒険者に肩を掴まれる。

「てめえこそ帰りな」

 そのチンピラの肩をいつの間にファナさんががしっと掴んだ。いつの間にやらチンピラの後ろにいる。瞬間移動じみた移動速度にいい加減俺は慣れてしまっているが、他の人はそうではなかったようで、ギルド内がざわめいた。
 チンピラは大袈裟おおげさに肩を跳ねさせた。

「な、なんだよ。美人な姉ちゃんじゃねえか。顔に傷はあるが全然イケる・・・な。お、どうだ? 俺とパーティーを組まねえか?」
「組まん。よく知りもしないで人を馬鹿にして、しかも追い出すような見る目のない奴はさっさとギルドから出ていけ」

 チンピラのメンタルが強すぎる。「帰りな」と肩を掴まれたというのにそれも忘れて、ファナさんをナンパするとは。

「まあまあそう固いこと言わずに。ちょっとしたじゃれあいだろお、からかっただけだから……」
「断る。ああもいきなり一方的にマコトを馬鹿にされて、そんな奴と一緒に行くか」

 懲りずに誘う男をファナさんがにべもなく断る。男も引っ込みがつかなくなったのか、それからしばらくあの手この手でそんなやり取りを繰り返していた。
 しかし、さすがに男も粘り切れなかったのか、突如ぶちぎれて、叫び始めた。

「そいつはお前の何ナンだよ!」

 チンピラ男に指を指されて、ビクッとしてしまう。
 元はと言えば、俺がおやじ狩りよろしくチンピラにからまれたことが発端ではあったが、すでにファナさんへのしつこいナンパへと状況は転じていたので、すっかり蚊帳の外のつもりになっていたのだ。

「マコトは……私の……」

 ギルド内も、下手なナンパに興味を失っていたが、違う展開に再びファナさんたちに注目しはじめる。しずかにざわめくギルド内。
 「ついに私の男宣言をするのか」などと冒険者たちがふざけたことを言っているが、幸いファナさんには聞こえなかったようだ。

「パーティーメンバーだ!」

 誇らしげにそういって胸を張っている。――パーティーメンバーかぁ……。
 はじめにファナさんがしばらく面倒をみるというところから始まって、なあなあで続いていた関係だから、改めてそうはっきり宣言されると、むずがゆく嬉しい。
 ついつい笑みが抑えきれずににんまり笑ってしまう。
 
 チンピラ男はポカンと驚いた顔で俺たち二人を見比べている。周りで様子を伺っていた冒険者たちはなぜかこけている。

「なにやってるの、君たち」

 カオスな空間が広がるギルドのロビーに、受付の奥から呆れた顔で受付のお兄さんが現れた。





 普段なら何気なく受付でやり取りができたが、今回はものがものなので現物をギルドで取り出すというのも難しい。ギルド内に巨木を取り出すスペースはない。
 そして、受付前にあれだけ注目を浴びてしまっていたから、俺たちはギルドからの指名依頼を受けたという若干特殊な立場なので、個室に連れて来られて、依頼の達成状況の確認を受けることとなった。
 受付のお兄さんは、半ば俺たちが依頼を達成できたことを確信していたようだったが。

「それで、依頼は? これまでの実績を見ても君たちなら問題ないと思ってるけど、あまりにも早かったからねぇ」
「達成してますよ。ただ、ここで取り出すのは難しいので証明はできないのですけど」
「それだったら、街の建材置き場を借りてるから、いまから一緒に行こう。そこにまとめて出してくれれば、達成扱いにするよぉ」

 そんなわけで受付のお兄さんに連れられて、建材置き場にやって来た。
 建材置き場というくらいだから、市街地にあるのかと思ったが、意外やギルドの建物のすぐ裏あたりにその広場は存在していた。広大な更地に、いくつかの樹木がパラパラと横置きされている。
 パッと見の印象としては、材木店跡地って感じ。
 確かにあれを見るに、建材が足りているようには思えない。それに、あまり太いとは言えない木の幹なので、大きな家を作ったり、家具を作ったりするのには向いていないだろう。
 俺たちに建材採取の依頼が出されたというのも納得のいく光景だった。
 バラック小屋のような簡易な建物が脇に建てられている。そこには本来作業員がいるのだろうが、今は無人の上、何も置かれていなかった。

「なんだか……寂れてますね……」
「そうなんだよ。ここもこの辺境の街がフロンティアとしてばりばりに開拓されていた頃は繁盛していたんだけど、今じゃこの有様だ。こんなんじゃ開拓なんて進みやしないよ。そんな状況だから、特殊なスキルを持っているマコト君と、開拓地でも一切くたびれないファナに依頼を出したんだけど」

 更地の中を奥に進みながら、お兄さんと雑談をする。
 フロンティアだったんだ……ここ。
 ってことは俺がこの世界にやって来た時にいた森もとい俺たちが行ってきた森は、開拓地として切り開こうとして一旦は諦められている森だったのか。
 道理でハードモードだよ。

「じゃ、ここに置いてくれるかな?」

 お兄さんが示したのは、空き地の中でも奥まったところだった。

「了解です」

 無限収納から木材を取り出し、念動力で並べていく。
 ついでにパラパラ散らばっている細めの木材も念動力でまとめておく。

「あの、結構あるんで時間かかりそうですよ。お兄さんもファナさんも一旦ギルドに戻っていてもらって大丈夫です」
「いや、見てると楽しいから、見てる」
「僕もめったにこんなの見られないから楽しいや。すごいね! こんなこともできるんだ!」

 地味な作業の繰り返しになりそうなので、二人にそう提案してみたが、見ていたいと言われる。
 こんなの見ていて楽しいのだろうか?
 まあ、じっと見られてちょっと居心地が悪いが、作業をするのに邪魔になるというわけでもないので首を捻りながらも作業を続ける。
 無限収納から木材を取り出し、重力の影響を受ける前に念動力で操り着地させる。
 無限収納から木材を取り出し、念動力で浮かし、無限収納から木材を取り出し、念動力で浮かし……いくつか浮かべた木材を一気に操り着地させる。
 ほとんど変わらない作業の繰り返しを行い、広大だった建材置き場が3分の2ほど埋まったところでようやっと手持ちの木材が尽きた。

「うん。単純にすごいね。一発で十二分に依頼達成だよ」

 あたりを見回しながらお兄さんが頷く。
 そんなわけで俺たちのはじめての「指名依頼」は無事達成と相成ったのだった。

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