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第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい
9.初対面の人
しおりを挟む途中で回復したので、なんとか背中から下ろしてもらった。恥ずかしすぎるという俺の訴えを受け入れてくれたようだ。
ていうか、このお嬢さん、得体の知れない男を助けた上におんぶまでしてくれるなんて、マジ天使級に良い子だ。きっと俺の何倍も強いから、男に襲われるなんて心配も必要ないのだろうけど、地球でこんな無防備な子がいたらと思うと心配になってきてしまうな。
しかし、彼女は筋肉がついてるとは言ってもボディビルダーのようにムキムキマッチョというわけでもなく、スラリとした黒豹のような筋肉の付き加減の割に、えらく力強いような気がする。
一般的な成人男性の俺を背負ってふらつくこともなく、その上あれだけデカイ大剣を振り回して体幹がぶれない。あの細腕にそのような力があるとは思えないが、おそらく異世界の魔法的なサムシングが働いているのだろう。
「で、アンタみたいなのが何であんなところにいたんだ。自殺行為だぞ!」
歩き出したところで半ば睨むようにして問い詰められてしまった。
いまの俺は富士の樹海を歩いてたところを保護されたような状況になるのだ。まともな神経をしていたら問い詰めたくもなるのだろう。俺だって好きであんなところにいたわけじゃないから、問い詰められても困るけど。
とにかく今は俺が自殺志願者でないことを伝えなければ。
自殺者は見捨てるなんて主義の持ち主で、こんな危険地帯に捨て置かれたら、大変だ。
「いや、私は普通に勤め先から帰宅途中だったんですが、気がついたらこの森にいたんですよ。それから一週間ほど必死であの化け物から逃げて暮らしていたんですが……そもそもここはどこなんですか」
弁明している途中ではたと気が付いて首を傾げる。
ここが危険な地帯だということは、さっき彼女から聞いたけど、具体的にここはどこなのかわからない。俺は勝手に異世界のどっかに来たと思っていたけど、本当に異世界なのか。もしかしたら、異世界じゃなくて、俺は気づかぬうちに眠りについていてその間に何らかの異変が起き、モンスターが溢れる世界になった……という可能性もなくもない……。
俺はよほど深刻な表情をしていたのだろう。
「……どういうことだ?」
先ほどまで俺を責めるような表情で見ていた彼女が、心配そうに聞いてきた。
「私こそ聞きたいですよ! 街中を歩いていたら気がついたら本当にいきなり森だったんですから!」
今度は俺が問い詰めるように声を上げる番だ。
気がついたら森。今までは命の危機から、目を反らしてきたけど、普通に考えてありえない状況だ。
俺は自分がこれまで取り乱してきていないだけで自分を褒めてやりたいくらいだ。
彼女は俺の勢いに若干身を引いたようだったが、俺の発言に気が付いたことがあったようだ。
「街中から突然……! それは、もしかして転移のトラップとか使われたんじゃないか?」
「転移のトラップってなんですか?」
名案! とばかりに指を立ててくれたわけだが、俺にはまったく思い当る節がない。
転移とか、トラップとか聞くのはゲームの中くらいだもの。
「使用された者をランダムな場所な場所に転移させるトラップの魔道具だが……なんだ、知らないのか?」
「転移とか魔道具とか自体、聞いたことないんですけど」
とても当たり前なものを話すような口ぶりで説明された。
ということはもうずっと前から魔法やら魔道具やらが当たり前にある世の中だということだろう。じゃあ、俺が寝てる間にモンスターが現れた説はなくなったわけだな。
「いや、でも、街中からいきなり森に跳ばされるとなると、それくらいしか思い当ることはないからな。じゃあほら、トラップを使われそうな心当たりはあるだろ?」
当然! とばかりに自信満々に聞かれたが、俺は首を横に振った。
あるわけがない。なんで街中歩いてて、罠仕掛けられるのに心当たりがあるの?
異世界の街って無法地帯すぎない?
「……本当に心あたりはないのか?」
本気でいぶかしげに問われても。
「トラップ使われる場合に心当たりとかあるもんなんですか……?」
「ほら、敵に狙われてたとかさ」
「街中で!?」
「……街中で狙われるなんて普通だろう?」
マジ異世界こわい。
「いや、俺に敵はいませんから……」
なんか、一気に疲れた。
肩を落とす俺に、彼女はまだこの問答を続けるようだ。
「しかし、なりゆきで助けたけど、お前このまま街に連れて行って大丈夫か?」
そして、なんでそんなこと聞かれるんだろう。そう思ったのが俺の表情にででいたらしい。
「だって敵に狙われてあんなところにいたんだろ? 街になんて行ったらすぐに居場所がバレるぞ」
「いや、だから俺に敵はいないし、俺のいたところには転移トラップなんて道具はなかったんですって。後生ですから信じてくださいよ」
俺は彼女を拝んだ。彼女は呆れたように首をすくめたが諦めてくれたようだ。
「わかった。じゃあ、街に連れて行く。しまったそうだった! その前にまずは」
そこで言葉が区切られたので、なんだ? と思って顔を上げると、彼女が笑顔を俺に向けてきていた。
意識し忘れていたけど、彼女は相当な美女だったのだ。俺は遅まきながらそのことに改めて気が付き、顔に熱が集まっていくのを感じた。
「私は、ファナ。炎の大剣使いだ。これからよろしくな」
ニコッと笑って、差し出された手をほぼ無意識で握る。握手。
「……俺は、畑田 誠。特にできることはないけど……よろしくお願いします」
そうだよな。はじめて人と会ったときは、まずは自己紹介だよな。
間抜けな自己紹介をしながらも俺は何だか浮かんでくる笑顔を止められないのだった。
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