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第二章

変化④

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三毛さんは、顔から耳まで真っ赤にして口元を手で押さえている。

「三毛さん……?」

「三毛ちゃん?」

今までと全く違う三毛さんの反応に、私も金さんも驚きを隠せない。

(え?なにこの反応……どうしたらいいの!?)

こんな時こそどうにかしてもらおうと金さんに目配せをすると、ニヤニヤしながら見ているだけだった。

(ダメだ……)

この妙な空気を自分で打破しなければならない事を悟り、私はあえて元気よく言った。

「あ、温かい内にいただきますね!」

その言葉に、三毛さんは何も言わずにコクコクッ!と首を縦に振る。

いただきます!と手を合わせてお辞儀をして、存在感を放っているお肉を一口頬張った。デミグラスソースの豊潤な香りをまとった牛肉は筋張った感じは一切なく、口の中でホロホロと崩れてとろけた。ソースと一体化している野菜も甘みを増していてこちらもとろける食感だ。

「すごく美味しいです!お肉もよく煮込まれていて柔らかいし、お野菜もその旨味を吸ってよりいっそう美味しくなってます!体も温まりますし寒い季節にピッタリだと思いますよ!」

少し落ち着きを取り戻した三毛さんが、私の感想を聞いてぎこちなく笑った。

「あ、ありがとうございます。で、では、冬の新商品に加えますね!あ、ゆっくり食べてて下さい!僕はちょっと茶葉の在庫確認して来ますんで、生田さんちょっとお願いしますね!」

そう早口に言って、三毛さんは脱兎だっとごとく裏の倉庫へと姿を消してしまった。

「……なんだったの……?」

ボソッと呟く。いつもの三毛さんからは想像出来ないくらいテンパっていた気がするけど。

「脈ありって事なんじゃないか?」

金さんが、お手拭きで手を拭きながら言った。

「え?」

脈あり?それって……。

「……本当ですか?」

「いや、断言は出来ないけど、さっきの反応。ありゃあ満更でもないって感じだったな」

「…………」

確かに、今までとは全然違う反応。

あんなに顔を真っ赤にしてる三毛さん、初めて見た。

(私、頑張っても良いのかな?)

希望の光が見えたって、思ってもいいんだろうか。

「アール、どう思う?」

アールに問い掛けると、尻尾の先を少し動かしただけだった。

「……つれないなぁ」

寝ているアールの頬を、ツンツン!と突付いた。

この時、大分と浮かれていた私は、こちらを見る生田さんの冷ややかな視線に全く気が付かなかった。
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