猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~

咲良緋芽

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第一章

言ってしまったー三毛さんの涙ー⑥

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「三毛さんは、喜びや悲しみを誰かと分かち合いたいって思わないんですか?」

私は、いつだったか楓が言っていた事を思い出した。

「奥様を未だに愛し続ける事は、とてもステキな事です。でも、結子さんはそれで幸せなんでしょうか?三毛さんに前に進んで欲しいって、結子さんがいなくても幸せになって欲しい、って、願ってるんじゃないんですか?」

私は続けた。

「私、三毛さんに出会ってから今日まで、三毛さんの本当の笑顔を見ていないです。そんなの、結子さんは望んでいないハズです。心から愛した人には、心から笑って欲しいって、そう思っているんじゃないんですか?」

どうしよう……。

もう止めた方が良いって分かってるのに、口が止まらない。

「忘れろなんて言いません。私、三毛さんと知り合って半年しか一緒にいませんが、三毛さんが結子さんの事をどれだけ愛しているか知ってます。でも、それごと……結子さんを愛したままの三毛さんを愛してくれる人が、必ずいます。その人と一緒に喜んで、時に悲しんで……。そんな生活を、結子さんも望んでいるんじゃないんですか?」

私は息を切らし、今まで溜まっていた鬱憤うっぷんを晴らすように、一気に捲し立てた。

多分、三毛さんは気分を害したと思う。その証拠に三毛さんは何も言わずに固まってしまっている。

他人にこんな事を言われて、ムカつかない訳がない。放っておいてくれ!って思ってると思う。でも、それじゃ三毛さんが一向に前を向けない気がして、そんなの駄目だって思って……。

「……ごめんなさい。でしゃばった事言って」

私は荒くなった息を整え、三毛さんに謝った。でも、間違った事を言っとは思っていない。

三毛さんは何も言わずに写真立ての中で微笑んでいる結子さんをじっと見ている。

「……いえ。ありがとうございます。僕の事を思って言って下さったって、伝わりました」

ゆっくりと私に視線を戻して、三毛さんが言った。

「『忘れなくてもいい』って言って下さったのは、実森さんだけです」

「え……?」

「僕の両親も結子さんのご両親も友達もみんな『もう忘れて新しく恋をしろ』って言うんです……そんな事、出来る訳ないのに……」

三毛さんの頬に、涙が伝う。

「三毛さん……」

「本当に好きで、好きで好きで結婚したのに、どうやって忘れろって言うんでしょう……そんな残酷な事、どうして簡単に言えるんですか……?」

せきを切った様に、三毛さんの瞳からは涙が溢れ続けた。

肩を震わせ、声を押し殺す様に、泣いている。

私よりも大きい体なのに、今はすごく小さく見えて胸が締め付けられた。

私は咄嗟に、三毛さんの頭をポンポン……と撫でた。

あの雨の日――。

初めて出会った時、泣いている私に三毛さんがしてくれた様に。

「……っ……うっ……」

この涙で、三毛さんが前に進む勇気を持てたらいい。

そう願って見た写真立ての中。

月明かりに照らされた結子さんが、いつもより微笑んでいる様に見えた。

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