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急展開―そして事件は起こった。③

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――その大事件は、何の前触れもなく起こった。


…カタカタ……カタ…カタカタカタ……。

まだ誰も戻って来ていない秘書課で、一人黙々と作業を進める。

「あれ~?まだお昼休みよ?」

そう言いながら、どこかに行っていた咲希子が秘書課に帰って来た。

「うん。ちょっと午前中の遅れを、ね……」

「あー。あんた何か変だったもんね」

咲希子に言われ、キーボードを打つ手が止まる。

「……そんなに?」

「うん。ニヤニヤしたり、落ち込んだり、気持ち悪かった」

「マジか……」

ガクッと肩を落とす。

「なんかあったんだろうけど、深くは聞かないでおいてあげるよ。ま、頑張りたまえ」

そう言って咲希子は持っていた袋の中からプリンを2つ取り出し、1つを私にくれた。

「え、いいの?」

「あんまり根を詰める事ないよ。少し休んで一緒に食べよう」

「……ありがとう」

咲希子の気遣いが、今のすさんだ私の心にジーンと染み渡る。

「あれ?このプリン……」

私は手渡されたプリンの入れ物を見て、気が付いた。

「あ、気が付いた?」

「うん、これ……」

「いや~、大変だったよ。お店はいつも長蛇の列だしそもそも並んでも買えるかどうかも分からない人気商品だし。だからバレない様にお昼ちょっと前から並んじゃったよ」

そう言って咲希子がペロッと舌を出し、テヘッ☆と言った。

「もしかして、だからお昼いなかったの?」

「そう!」

得意気に頷く咲希子。

本当なら「仕事ほっぽり出して!」と怒る所だけど、私はそれをしなかった。

だって多分……。

「私の為でしょ?」

私がそう尋ねると、

「え~?なんの事?アタシが食べたかっただけよ」

ふふふ、と笑いながら咲希子は自分のデスクに戻って行く。

「ウソばっか」

なぜそう思ったか。

このプリンは以前、私がどうしても食べたくて並んだは良いけど目の前で売り切れてしまったプリンだった。それがとても悔しかった、と言う話を咲希子にした事がある。

多分、それを思い出して、元気のない私の為に買って来てくれたんだろう。

絶対そうだけど、しつこく聞いても本当の事を言わないだろうから、私もこれ以上は聞かないでおく事にした。

鼻歌を歌いながらプリンを食べている咲希子に、小さい声で「ありがとう」と呟いて私もプリンを食べた。



******



ー『ピロリンッ♪』ー

噂に違わず美味だったプリンに、ごちそうさまでした、と手を合わせてお辞儀をした所で、突然メールが届いた事を知らせるベルが私のパソコンから鳴った。

「ん?メール?」

「みたいだね」

「もしかして、津田部長からなんじゃないの?」

咲希子がニヤニヤしながら指を指す。

「そんな訳ないでしょ……」

と言いながら、でもちょっと期待してメールを開く。

「えっと……?」

しかし、メールの内容を読んで行く内に、私はその場に凍り付いた。

「ねえ、なんて?……江奈?」

返事をしない私に代わって、咲希子が「なになに?」とパソコンを覗き込んで内容を読み上げる。
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